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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第2章 霊能メイド現る

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92話 フラメールの正体

「ファウスタ様、お目覚めですか?」

「ネルさん?」


 ファウスタは状況が解らなくて一瞬混乱した。

 此処はファンテイジ家の三階のファウスタの部屋で、ファウスタはベッドに寝ていた。

 ネルがファウスタの顔を覗き込んでいる。


(ロスマリネ侯爵様のお屋敷へ行って、帰りの馬車に乗って……)


「私、どうして寝ているのでしょう?」

「ファウスタ様はお帰りの馬車の中で眠ってしまわれたのです」

「えっ!」


 ファウスタは大失敗を知らされ、血相を変えた。


「すみません! 私、とんでもない事を!」


 帰りの馬車の中であっても、使用人であるファウスタは仕事中だったのだ。

 使用人が主人の前で居眠りをしてしまうなど大変な粗相であった。


 慌ててベッドから飛び起きたファウスタを、ネルは押しとどめた。


「落ち着いてくださいませ。どうかそのままお休みください」

「で、でも、私……。私、クビになってしまうのでしょうか!」

「えっ?! えっ?! 何故?!」


 悲愴な顔で突拍子もない事を言い出したファウスタに、ネルは大混乱して取り乱した。

 しばし二人の間で、あたふたと話のすり合わせが行われた。


「旦那様もお嬢様も大変ご満足なさっておいででした。解雇など有り得ません。ご安心ください」

「でも私、居眠りをしてしまって……」

「エーテルの消耗については旦那様もお嬢様も理解しておられます。ファウスタ様が眠ってしまわれたのは、霊能力(サイキック・マジック)をお使いになりエーテルを消耗した証拠であると、大変お喜びになっておられました」

「本当ですか? お怒りになっていませんでしたか?」

「魔術師の誕生であると、大変お喜びになっていらっしゃいます」


 ネルはにっこり笑った。


「あの、まだ魔法は使えなくて……これから勉強したいと思っていますが……私はまだ魔術師ではないのです。……大丈夫でしょうか」

「まあ! 魔法のお勉強を?!」

「フラメールさんに魔法の先生になってもらえたら……」


 ファウスタは記憶の断片を語り、そして疑問を思い出した。


「フラメールさんは魔物なのですか?」

「フラメール様は……そうですね、魔物と言えますが……」


 ネルは少し困ったような顔をして、言葉を濁した。


「私の判断ではお教え出来ませんので、上の方々に相談してまいります」






「フラメールは魔道士なのよ」


 ファウスタは自分の部屋でお茶を飲んでいた。

 お茶といっても、野菜や薄切り肉を挟んだパン、香辛料が効いた腸詰肉、魚のパイなど、孤児院の食事の何倍も豪華で栄養たっぷりなメニューが並んでいた。

 もちろん甘い焼き菓子や季節の果実もある。

 食器はすべて使用人用の無地のものだ。


 ファウスタはエーテルを遮断する丸眼鏡を掛け、テーブルを挟んで吸血鬼のミラーカと向き合っていた。

 ミラーカはお茶だけを飲み、ネルが給仕をしていた。


「魔道士というのは魔術が得意な不死者(アンデッド)よ。不死魔術師(リッチ)と呼ばれる事もあるわ」

「ではフラメールさんは魔法が使えるのですか?」

「ええ、そう。魔道士は魔術の専門家よ」


(魔術の専門家!)


 ファウスタは期待に胸を膨らませた。

 魔術の専門家に魔術を教えてもらえたら、自分もすごい魔術が使えるようになるかもしれないと。


「そうね、眼鏡のこともあるし……話しておいた方が良いかしらね。吸血鬼と魔道士の関係」


 ミラーカは少し思案するような顔をすると、話し始めた。


「もともと吸血鬼と魔道士は敵同士で戦争をしていたの。でも条約を結んで、戦争はやめましょう、仲良くしましょうって事になったのよ。だからもう戦争はしていないのだけれど、元が敵同士だったから、完全に仲良くなったわけではないの」

「では、敵なのですか?」


 仲良くないなら、やはり敵なのではないだろうかとファウスタは不安になった。


(フラメールさんは悪い人には見えなかったけれど……)


「敵ではないわ。イングリス王国とロンセル共和国みたいなものよ。友好条約や貿易条約を結んで今は上手く付き合っているけれど、昔は戦争をしていたから、相手国にまだ敵意を持っている人がいる。でも全然気にせずお互いの文化を楽しむ人たちもいる。それと同じよ」


(そうだったのね……)


 ファウスタはこの屋敷に来るまでは、孤児院が世界の全てだった世間知らずだ。

 歴史や政治も全く知らない。

 ミラーカの話からロンセル人とイングリス人の関係を初めて知った。


 ファウスタは今までロンセル共和国については、『ロンセル料理』という豪華な高級料理があるお洒落な国というふわっとした知識しか持っていなかった。

 もちろんロンセル料理がどんな料理なのかは知らず、ロンセルのどこがどうお洒落なのかも知らない。

 何となく花がたくさん咲いている国で、綺麗なドレスを着た人たちが豪華な料理を食べているイメージだ。


「フラメールは魔道士ギルドのメンバーだったけれど、脱退したの。彼は今、魔道士でありながら吸血鬼(ヴァンパイア)ギルドの仕事を請け負っているから、魔道士たちの中には彼を『裏切者』と言う人もいるわ。吸血鬼たちの側にも、フラメールは魔道士ギルドから送り込まれた間者(スパイ)じゃないかって疑う人もいるの」

「……怪しい人なのでしょうか?」

「私は怪しいとは思っていなくてよ」


 ミラーカは艶然と微笑んだ。


「同じロンセル人の(よしみ)で、フラメールに吸血鬼ギルドの仕事を与えたのは私なの。私は魔道士と争う必要はないと思っているわ。彼らは吸血鬼には無い才能を持っているから、協力し合えばお互いに利益があるのよ」

「ミラーカさんはロンセル人だったのですか?!」

「そうよ。生粋のリュトミスっ子(リュトミシアン)よ」

「リュトミシアンって何でしょう?」

「ロンセルの首都リュトミスで生まれ育った者のことよ」


(だからお洒落で美人なのね)


 ロンセル共和国の首都リュトミスは、花の都とも言われ、美しくお洒落な都市として有名だ。

 ファウスタはミラーカの美しさに妙に納得した。


(私もリュトミスで暮らしたら美人になれるかしら)


「ファウスタのその眼鏡も魔道士が作ったものなの」

「この眼鏡も! フラメールさんが?!」

「フラメールではないわ。別の魔道士よ」

「この眼鏡、凄く便利です! 凄い眼鏡です!」


 ファウスタはエーテルを遮断する不思議な眼鏡を褒めちぎった。


「私たちもその眼鏡には驚かされたわ。ファウスタの目にエーテルは毒だから、この屋敷から移動させる事も考えていたのだけれど……」

「えっ?!」


 ミラーカから思いがけない言葉が出て、ファウスタは驚愕した。

 解雇の恐怖が再びファウスタを襲った。


「私、このお屋敷に居られなくなるのですか?!」

「大丈夫よ。心配しないで。その眼鏡が開発されたから問題が解決したの。エーテルを遮断する眼鏡があれば、ファウスタは此処に居ても大丈夫なの」


(この眼鏡のおかげで、私は助かったのね)


 ファウスタは眼鏡に窮地を救われたことを知った。


(眼鏡は恩人なのだわ)


 ファウスタは両手で眼鏡の縁に触り、心の中で感謝した。


「だから眠る時以外は、なるべくずっと眼鏡を掛けていてね」

「はい!」

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