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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第2章 霊能メイド現る

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89話 サイキック・マジック

「蜘蛛の巣を取るように、呪いを取るというのですか?! はたき棒で?!」


 ファウスタが水晶を付けたはたき棒を用意している間、古物商フラメールは水晶の効果についてマークウッド辺境伯やロスマリネ侯爵に説明をしていた。


 そのフラメールが、ファウスタの言葉に驚いたように目を見開いた。


「そんな事が可能なのですか?!」


(フラメールさんは水晶にとっても詳しくて、水晶が呪いを吸い取る事を知っているのに、どうして驚いているのかしら?)


 ファウスタは内心で首を傾げながらも答えた。


「水晶は呪いを吸い取るので、呪いのモヤモヤに水晶を近付ければ吸い取ってくれるのです」


 ファウスタは水晶を括り付けたはたき棒を掲げた。


「いやいやいやいや……、待ってください、水晶はそういう物ではありません」


 フラメールは混乱した様子でまくしたてた。


「たしかに水晶は呪いを吸い込みます。しかし呪いが水晶に染みこむには時間がかかります。ささっと掃除できるものではありません」


「でも、さっき、水晶で呪いを捕まえました。蜘蛛の巣を巻き取るように水晶で呪いが取れるのです。呪いは水晶にくっつくのです」


「いやいやいや、それは水晶の性質ではありません。水晶は呪いがくっつく磁石ではないのです。切り花が水を吸い上げるように、水晶はゆっくりゆるやかに時間をかけて呪いを吸い込むのです。きゅっと吸い取ったりは出来ません」


「ファウスタにはできるのだよ。ファウスタは精霊召喚の儀式を行い、精霊の力を自在に駆使して呪いを水晶に閉じ込める事ができるのだ」


 マークウッド辺境伯は胸を張り、得意気に持論をフラメールに披露した。


「それが本当なら……大変な才能であると言えるでしょう」

「うむ。ファウスタは霊能力(サイキック・マジック)の使い手なのだ」


「あの、私は、そういう事は多分していないと……」


 事実とは違う方向に話が進んだように思い、ファウスタはそれを訂正しようとしたが、フラメールがそれを更なる理論で否定した。


「蜘蛛の巣を巻き取るように呪いを巻き取れるとしたら、それは水晶の力ではありません。水晶を媒体に、貴女が何らかの力を使い行っているのです」

「でも私は魔法は使えません。水晶の力だと思います」

「無意識に力を使っているのでしょう。それが魔術なのか精霊召喚なのかは解りませんが、ご自分のエーテルかアストラルを消費してそれを行っているのです。だとしたら大変な危険を伴う行為です」


 フラメールは難しい顔をした。


「意識せず自動的に力が使われてしまい、自分で調節ができないということは、知らずに大量の力を消費してしまう危険があります。強力な呪いであればあるほど大量の力が必要となるでしょう。エーテルやアストラルは視えざる血液のようなものとお考えください。大量に失えば肉体も無傷ではすみません。勝手に流出してしまい自分の意志では止められないという事は大変な危険なのです」


 フラメールはファウスタの顔を覗き込み、深刻な表情で言った。


「永遠に止まらない『赤い踊り靴』の童話はご存知ですか?」

「はい」

「あれと同じです。体がくたくたになっても『赤い踊り靴』が止まってくれない。無意識に使われてしまう力は『赤い踊り靴』と同じ危険なものなのです」


(あの靴はたしかに危険な拷問具なのだわ)


 孤児院の書架には、文字を覚えたての子供たちのために一通りの童話本が揃っていたので、ファウスタも『赤い踊り靴』の童話を知っていた。

 

 それはヤルダバウト教の教えに反し、派手な赤い靴を履いて教会へ行った虚栄心の強い少女が、神の怒りに触れてしまい強制舞踏の拷問を受ける話だ。

 踊り出して止まらなくなった赤い靴は、少女の足にくっついて脱げなくなっていたので、少女は眠ることすらできず踊り続けた。

 そして、赤い靴に無理やり踊らされる拷問の日々から逃れるために、憔悴した少女は恐ろしい選択をする。


 ファウスタは凄惨な場面を思い出し、ぶるっと身震いした。


「エーテルを使い果たした魔術師のような状態になるということかね?」


 マークウッド辺境伯の質問に、フラメールは頷いた。


「そうです。使い果たせばそうなります。自動的に引き出されているなら、必要な量を満たすまで最後の一滴まで勝手に絞り出されてしまうでしょう」

「危険なのだよ」


 マークウッド辺境伯は深刻な表情でファウスタの方を向いた。


「ファウスタ、君の霊能力(サイキック・マジック)は生命エネルギーを削って現象を起こしているのだ。呪いの掃除は中止するのだ」

「いいえ、私、やります!」


 ファウスタは決意の眼差しで宣言した。


「私がお掃除いたします!」


(私が毎日美味しい肉料理をいただけたのは、きっとこの日のためだったんだわ)


 ファウスタは自分の運命を悟った気がしていた。


 エーテルやアストラルは視えない血液のようなものというフラメールの話から、呪い掃除にはたっぷりの栄養が必要なのだろうとファウスタは漠然と理解した。


(私はファンテイジ家のメイドになってから、お食事にたくさんのお肉をいただいているわ。栄養ならたっぷりある)


「駄目よ、ファウスタ、危険な事はさせられない」


 オクタヴィアが不安を露わにした顔でファウスタを引き留めた。


「時間を掛ければ安全に浄化できるのよ。急ぐ必要はないわ」

「ですが、一年も呪いが残っていたら侯爵様にくっついてしまいます。呪いがくっつくと病気になってしまいます。侯爵様が病気になると議会で反対派に負けてしまいます」


「議会に興味があったの?」


 意外そうな顔をしたオクタヴィアに、ファウスタは悲愴な表情で訴えた。


「孤児院の親友たちがもうすぐ就職なのです。子供は安い賃金で過酷な労働をさせられると聞きました。だから親友たちが安全に働けるように、ロスマリネ侯爵様に子供の労働者を守る法律を作ってもらいたいのです。ジゼルとピコの人生がかかっているのです」


 ファウスタはロスマリネ侯爵に向き合うと、切なる願いを口にした。


「侯爵様お願いします! 子供の労働者を守る法律を作ってください! ジゼルとピコを助けてください!」


 可哀想な孤児の話に、育ちの良い貴族たちは涙腺を緩ませた。


「そんな理由があったなんて……」


 オクタヴィアはハンドバッグからハンカチを取り出すと目頭に当てた。


「そうか、うむ、そうか……」


 ロスマリネ侯爵は涙ぐみながらファウスタに約束した。


「労働法改正案はきっと成立させてみせよう。全力をつくす」

「ありがとうございます!」


 侯爵の言葉に、ファウスタの心には希望の火が燃え上がった。


(私は私にできることを精一杯やって、侯爵様のお手伝いをするのだわ)


「呪いのお掃除は私にお任せください! すぐにお掃除いたします!」


「……それとこれとは話が別よ。ファウスタ、危険な事は駄目よ」


 オクタヴィアはハンカチで目元をぬぐいながらそう言ったが、ファウスタの戦意は高ぶっていた。


「大丈夫です。できます。私はさっき呪いを捕まえましたが何ともありません。同じモヤモヤなら大丈夫です。栄養もたっぷりあります。それに黒いモヤは動きが遅いので、危険なら逃げることもできます」


「そうか、ファウスタは視えるんだよね」


 思案気な顔をしていたユースティスは呟くようにそう言うと、発言の許可を求めて考えを述べた。


「ファウスタは危険を目視で確認しながら、呪いの掃除ができるかと思います」

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