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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第2章 霊能メイド現る

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85話 魔除けの水晶

(上手く行きますように!)


 ファウスタはオクタヴィアから借りたペンデュラムの鎖を持ち、釣り竿を振るように、飾りの紫水晶を遠心力で黒いモヤモヤの中に放り込んだ。


 ペンデュラムは黒いモヤの中に突っ込み、紫水晶に黒いモヤの一部を纏いつかせてブランコのようにユラーンと戻った。


「ひゃっ!」


 ファウスタはペンデュラムを吊り下げた手を伸ばし切り、戻って来る紫水晶についた黒いモヤを全身で避けた。

 揺れるペンデュラムを避け、崩れた体勢を立て直すファウスタの足がタタタンとステップを踏む。


(水晶にくっついた! 上手く行ったわ! これなら呪いを捕まえられる!)


 ファウスタは紫水晶にくっついた黒いモヤに体が触れないように注意しながら、再び黒いモヤに向かいタンッと勇敢な一歩を踏み出した。

 そしてペンデュラムをブランコのように揺らし、のろのろと前進する黒いモヤに放り込む。


「きゃん!」


 さらなる量の黒いモヤを纏って戻って来る紫水晶に体が触れないように、闘牛士のようにくるりとターンして避ける。

 よろけたファウスタの足がまたタタンとステップを踏んだ。


「ファウスタ……見えない何かと戦っているの?!」

「まさか……猫妖精(ケットシー)が降りたのか?! 召喚儀式なのか?!」


 ペンデュラムをゆらんゆらん振り回し、小動物の鳴き声のような声を上げながら小刻みに不思議なステップを踏むファウスタの奇行に、一同は瞠目した。


 これまでにファウスタは知るはずのない事を次々と言い当て、怪奇現象を事前に察知して知らせ、何か不思議な力を持っているとしか思えない行動を見せて来た。

 そのファウスタが今、ペンデュラムを振り回し、謎めいた踊りを見せている。

 特にロスマリネ家一同は、奇跡に立ち会ってしまったかのような畏怖の表情でファウスタの行動を注視していた。


 ペンデュラムの操作に全神経を集中させているファウスタには、そんな周囲の風景も雑音も入って来ない。

 ただ目の前の黒いモヤモヤの捕獲だけにファウスタは集中していた。






「ペンデュラムで呪いを捕まえました! 呪いの黒いモヤはこのペンデュラムに捕まえてます!」


 黒いモヤモヤをたっぷりと纏ったペンデュラムを、ファウスタはなるべく体から離すようにして持った。

 貧民街の恐怖には劣るとはいえ、黒いモヤはとても恐ろしかった。

 ファウスタは呪われていないので、黒いモヤがファウスタに触れても憑くことはないが、何かとても穢れている気がして全身がぞわっとした。

 紫水晶はすでに黒く濁り始めている。


 ファウスタはぷるぷる震えてしまう手に持ったペンデュラムを落としてしまわないように、ぐっと力を込めた。


「僕が持つよ」


 ユースティスがすっと手を伸ばしてペンデュラムの鎖を持ち、ファウスタからそれを引き受けた。


「呪いは今、この紫水晶に付いているんだね?」

「はい」


 ユースティスの問いにファウスタは答えた。


「あとの呪いはまだ箱にくっついています」

「解った。後は任せて」


 ユースティスはにっこり微笑んだ。


(ユースティスさんなら大丈夫ね)


 悪魔人形を手づかみで捕らえた実績のあるユースティスにペンデュラムを預け、ファウスタはほっと息を吐いて緊張を解いた。

 気が抜けたら、急に膝ががくがくしてきた。


「ファウスタ、説明してくれたまえ! 先程の儀式は何だったのだ! 猫妖精(ケットシー)の霊を召喚したのかね?!」


 マークウッド辺境伯は興奮気味にファウスタに質問をした。

 ファウスタはマークウッド辺境伯が何を言っているのかよく解らなかったので、とりあえず自分が何をしていたのかを説明する事にした。


「水晶はエーテルやアストラルを吸い込むと聞いたので、水晶で呪いが捕まえられるのではないかと思ったのです」

「なるほど!」


 神秘主義(オカルト)に傾倒しているマークウッド辺境伯は素早く理解したようだった。


「確かに水晶には魔力や霊を吸い込む力があるのだよ。ゆえに水晶は魔除けや浄化に使われているのだ。水晶に呪いを封じ込めるため召喚した精霊の力を借りたのだね。召喚儀式で招いた精霊はやはり猫妖精(ケットシー)かね?!」

「いえ、あの、儀式ではなく、水晶に呪いをくっつけていたのです」

「それが猫妖精(ケットシー)の力なのかっ!」


(ケットシーって何かしら……)


 ますます解らない話になってしまいファウスタは混乱した。


「私は呪いの黒いモヤモヤの中に水晶を入れただけです。水晶が黒いモヤを捕まえてくれました」


「ペンデュラムは悪霊と戦う武器としても使えたのね!」


 オクタヴィアがきらきらと目を輝かせ、全くの的外れというわけではないが微妙に誤解している発言をした。

 ファウスタはオクタヴィアの顔を見るやいなや、重大な事を思い出した。


「すみません、ペンデュラムには呪いが付いてしまったので、呪いが取れるまで使えなくなってしまいました。お借りした物なのに、申し訳ありません」

「そんなのいいのよ! 気にしないで! 武器は消耗品よ!」


 オクタヴィアも少し興奮しているのか、やや頬を上気させて微笑んだ。


「紫水晶はお父様にまた買ってもらうから大丈夫よ! 武器ですもの! 予備も必要だわ! ね、お父様」

「そうだとも!」


 オクタヴィアの言葉に、マークウッド辺境伯も同意した。


「紫水晶の十個や二十個、いくらでも買ってやるとも。精霊召喚の媒体や封印術に使えるのだから、たくさん買うのだよ。私も欲しいのだよ。……そうだ!」


 マークウッド辺境伯はぱっとロスマリネ侯爵を振り向いた。


「ロスマリネ卿、普段過ごしている部屋には紫水晶を置きたまえ。紫水晶が呪いを防いでくれるだろう」

「……そういうものかね……?」


 状況が全く解らないのだろう、ロスマリネ侯爵は疑問符を浮かべた。

 そんな彼にマークウッド辺境伯は自信満々で助言した。


「うむ。水晶が屋敷を浄化してくれるだろう。部屋や廊下に水晶を置くことをお勧めするのだよ。水晶は強力な魔除けなのだ」






「水晶の結晶を飾るというのは良い案ですね」


 ロスマリネ侯爵令息シリルは、魔除けの水晶に前向きな意見を述べた。


「鉱石の結晶は見た目も美しく学術的です」

「そのとおり。鉱石の結晶は博物館にも展示されている。学術的な品なのだよ」


 ファウスタは休息を勧められ、ソファに座らせてもらった。

 皆が詳しい状況を知りたがったので、ファウスタはひとしきり何が起こったのかの説明をした。

 ファウスタが事情をあらかた語り終えると、皆は水晶の効果についての考察を始めたのだった。

 主にマークウッド辺境伯とシリルとが意見を交わし合っていた。


「魔除けになるかはさておき、鉱石の結晶は飾る価値があると言えるでしょう」

「魔除けになるのだよ。ファウスタがそれを証明したのだ」


 マークウッド辺境伯は得意気に胸を張った。


「ファウスタは本物の霊感少女なのだ。召喚したケットシーを自身に憑依させ、ケットシーの魔力で悪霊を紫水晶に封じ込めたのだよ」


(旦那様は何を言っておられるのかしら)


 ファウスタは詳しく説明したつもりなのだが、マークウッド辺境伯はファウスタ以上に見えない何かが見えているかのように別の物語を語っていた。


 そうこうしていると部屋の扉がノックされ、従僕が報告を持って来た。


「古物商フラメール氏が到着いたしました」

「おお!」


 マークウッド辺境伯が、弾けるようにソファから立ち上がった。


「ロスマリネ卿、フラメール氏にすぐに此処へ来ていただこう。彼は非常に豊富な専門知識を持っているのだ。今すぐ彼に鑑定してもらうのだよ!」


 霊感商品の鑑定依頼を受けた古物商は、侯爵家の依頼とあって直接品物を受け取りに来る事になっていた。

 品物の引き渡しをするのみで侯爵との面会予定はなかったが、マークウッド辺境伯の強い推薦を受け、ロスマリネ侯爵は従僕に古物商をすぐに部屋へ案内するよう指示した。


「聖人様のご降臨なのだよ!」


 マークウッド辺境伯は古物商の来訪に浮かれていた。


(たった六十二ドログで悪魔人形を引き受けた業者さんよね)


 ファウスタも古物商に強い興味を持った。


(アルカードさんやユースティスさんが行った古物商ですもの。きっと霊や魔術にすごく詳しい人なのだわ)


 吸血鬼であるアルカードやユースティスが鑑定を依頼する店なのだ。

 実際にエーテルを操り、大抵の幽霊なら発見して捕獲までできるという吸血鬼より、さらに詳しい知識を持っているのだろう。

 そうでなければ吸血鬼たちが鑑定を依頼するはずがない。


(吸血鬼が行く店なんですもの。もしかすると魔物(モンスター)かも?)


 マークウッド辺境伯は古物商フラメールとはすでに知己であるらしく、いかに素晴らしい人物かを皆に語っていた。

 その雑然とした雰囲気に紛れ、ユースティスがすっとファウスタに近付いて小声で耳打ちした。


「古物商の人たちの前で眼鏡を外しちゃ駄目だよ」


(やっぱり!)

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