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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第2章 霊能メイド現る

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79話 疑惑の風魔法

「私が振り子占いペンデュラム・ダウジングで幽霊と交信します」


 ハンドバッグから取り出した振り子(ペンデュラム)を掲げ、オクタヴィアは勝気な微笑みを浮かべた。


(お嬢様! ……大丈夫かしら)


 ファウスタはオクタヴィアの様子にはらはらした。

 いつものオクタヴィアに戻ってしまっている気がしたからだ。


 ファンテイジ家の一同は庶民の探偵業者に変装しているので、オクタヴィアもずっと庶民らしく大人しく控えていた。

 しかしオクタヴィアはもはや庶民らしからぬ堂々とした態度を見せている。


(変装していることを忘れていらっしゃらないかしら?!)


「幽霊から話を聞くことは叶いませんが、騒霊現象(ポルターガイスト)を起こせるほどの幽霊であれば、このペンデュラムを使い是非を問う事はできます」


「待ちなさい、オクタヴィア」


 マークウッド辺境伯が深刻な顔でオクタヴィアの本名を呼んだ。

 オクタヴィアはぎゅっと眉根を寄せ、非難するような目をマークウッド辺境伯に向けた。


「ペンデュラム・ダウジングは降霊術だ。安易に行うべきではないのだよ。ここにはどんな霊がいるかも解らんのだ。精霊結界スピリチュアル・バリヤーで守られている我が家とは違うのだよ」


精霊結界スピリチュアル・バリヤー……?!)


 マークウッド辺境伯が口にした不思議な単語にファウスタは驚いた。


精霊結界スピリチュアル・バリヤーって霊を防御するものかしら。そんなものがお屋敷にあったなんて……!)


「必ずデュランの霊が降りて来るという保証はないのだ。低級霊に取り憑かれてしまったら大変なことになるのだよ」


「大丈夫よ。ファウスタが居るんですもの」


 オクタヴィアは自信満々に答えたが、マークウッド辺境伯は難しい顔をした。


「ファウスタは除霊師ではないのだ」

「どんな霊が来るかをファウスタに視てもらえばいいのよ。もし別の霊が近付いて来たらすぐに中止するわ。ファウスタには霊が視えるんですもの。低級霊がデュランに成りすまそうとしてもファウスタの前では正体を隠せないわ」

「むう……確かにそれは……しかし……」


 オクタヴィアの言葉に、マークウッド辺境伯は考え込むような顔で低く唸った。

 オクタヴィアは余裕の笑みでファウスタを振り向いた。


「ファウスタ、まずこの部屋に他の幽霊がいるか調べて貰えるかしら?」

「はい、お嬢様」

「お待ちください、ステラ様」


 ファウスタが返事をすると、ミラーカが即座に異を唱えた。

 ミラーカは設定通りのオクタヴィアの偽名を呼んだ。


(あ! 私、お嬢様って言ってしまった!)


 ファウスタはミラーカの発言で、自分が業者の設定をうっかり間違えてしまった事に気付き、心臓がドクンと跳ね上がった。


「まずは夫人のお手当が先かと」


 ミラーカがそう言うと、オクタヴィアはすんなり了承し、ロスマリネ家の使用人たちが動き始めた。


(間違えた事がばれてませんように……)


 ファウスタは周囲をきょろきょろと見回しながら、内心で焦りまくった。

 そして自分の失態が誰にも気付かれていない事を必死に祈った。






 倒れてソファに寝かされていたロスマリネ侯爵夫人は、使用人たちにより寝室へ運ばれた。

 シリルがそれに付き添い、心霊探偵社の調査は一時中断され、皆は一息入れる事になった。


 ファンテイジ家の精霊結界スピリチュアル・バリヤーについて、ファウスタはファンテイジ家の人々に質問したかったのだが、それは叶わなかった。


「では君は、幼いころから幽霊が視えていたのかね?!」


 ロスマリネ侯爵の質問攻めにあったからだ。


「なんと! ラシニア孤児院にも幽霊が?!」


 ロスマリネ侯爵は人が変わったように、幽霊に興味津々になっていた。






 シリルが書斎に戻り、ロスマリネ侯爵や一同に夫人の無事な様子が報告されると、心霊調査が再開された。


 まずはファウスタによる部屋の霊視からだ。


「私たちはファウスタの霊視の邪魔にならないよう、端に控えましょう」


 ファウスタの霊視の前にミラーカがそう言い、皆が壁際に寄った。

 吸血鬼たちが壁際の一か所に集まったことをファウスタは確認した。


(私がうっかり吸血鬼を直接見てしまわないように気を使ってくれたのね。みんな優しいのだわ)


 ファウスタは吸血鬼たちがいる壁を背に、眼鏡を外した。


(あ……)


 書斎の中は灰色の霧で煙っていた。

 居間ほど濃厚な霧ではないが、部屋中がもやっとしていた。


 デュランと御姫様の姿は、眼鏡を外したら人間のような存在感を持ったが、立ち込める灰色の霧に巻かれて微妙に霞んでしまっている。


 眼鏡がなければ人間のように見える御姫様でさえ、霧でモヤっとしているのだから、小物の幽霊などすべて霧に溶けてしまって見えなくなっているのではないかとファウスタは思った。


「すみません、このお部屋も灰色のモヤモヤがモクモクでよく見えません」


 ファウスタは眼鏡を掛け直した。


「窓を……開けていただいても良いでしょうか」


 ファウスタはユースティスにちらりと目線を送った。

 ユースティスはニヤリと笑うと頷いた。


(あの顔……やっぱり風はユースティスさんの仕業よね。デュランさんの魔法ではないのだわ)


 ロスマリネ家の使用人たちにより、書斎の窓が解放された。


(風が来るわね!)


 眼鏡をしっかり掛けたファウスタは、身を縮めてお腹にぎゅっと力を入れ、これから巻き起こるであろうユースティスの強風に備えた。


 ――びゅうっ!


 窓が全て開け放たれると、体がぶわっと浮きそうな、あの強風が来た。


「おお……!」


 一瞬の強風が吹きすぎると、皆が観劇の後のような感嘆の声を漏らした。


 皆、風が吹くことを予想をしていたのか、最初の時ほど驚く者はいなかった。

 取り乱す者も誰もいない。

 しかし興奮の度合いは前回をはるかに上回っているようだった。


「デュランの風魔法なのだよ!!!」

「これが風の魔石の力!!」


 マークウッド辺境伯とロスマリネ侯爵はすっかり意気投合していた。

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