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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第8章 マークウッドの森の奥
713/718

713話 眼鏡を失くした不便

(ドラゴンを見たいわ。でも見たら駄目なのよね)


 目に悪いから見ないようにと、ファウスタはユースティスに言われていた。

 だが空にあった巨大なドラゴンらしき影は見た。

 そしてタニスが来て、ティムの声が聞こえた。


(タニスさんとティムさんが古竜(エルダー・ドラゴン)と一緒に来てくれたんだわ。これで元の世界に帰れるのかしら)


「ファウスタ、安全のために目を閉じていて」

「は、はい」


 ユースティスに言われて、ファウスタは好奇心を押さえて目を閉じた。


「ファウスタ様はどうして目を閉じるのでありますか?」


 即座にそう疑問を口にしたタニスにファウスタは答えた。


「眼鏡を失くしてしまったのです。すみません。せっかくいただいた眼鏡なのに」

「眼鏡など私がいくらでもお作りいたしますぞ。あちらに戻れたらすぐに代わりの眼鏡を持ってまいりましょう。予備はたくさんあるのです」

「たくさんあるのですか?!」

「私はファウスタ様専属の眼鏡技師。眼鏡屋でございますからな」


 ファウスタがタニスと話をしている間に、エーテルの圧がぐんぐん増した。


「爺さん、あれがファウスタとユースティスだ」


 ティムの声がすぐ近くに聞こえて、雑にファウスタたちを紹介した。


「マークウッドの盟主殿とお見受けいたします」


 ユースティスがそう問うと、風の音にも似た不思議な声が響いた。


『如何にも』


(ドラゴンの声?!)


「お目にかかれて光栄に存じます。私は現在、吸血鬼ギルドで顧問官を務めております、エゼルワルド・ユースティス・エステルヴァインと申します」


(長い名前……。ユースティスさんの本当の名前?)


 ファウスタがぼんやりとそんなことを思っている間に、ユースティスはファウスタのことも紹介した。


「こちらの少女は盟主代理ファンテイジ殿の客人ファウスタ・フォーサイスです。エーテルは彼女の目に毒であるため、目を閉じております。どうぞご容赦ください」


『許す』


「ユースティス、さっさと爺さんの背中に乗れ。帰るぞ」


 ティムの気さくな声が響いた。


(ドラゴンの背中に乗るのかしら。見たいわ。でも目に悪いから見られないわ)


 ファウスタは眼鏡を失くしてしまったことを後悔した。


(やっぱり眼鏡には紐をつけてもらおう。落とさないように)


 眼鏡を落とさないようにと、ファウスタは首に掛ける紐が付いている眼鏡を渡されたことがあった。

 だが王都ではいつも安全に仕事をしていて、眼鏡を落とすような事態に遭遇することはなかったので、その後に作られた眼鏡はすべて紐がついていないものだった。


「盟主殿、ファンテイジ殿の指示に従ってもよろしいのでしょうか?」


 ユースティスが伺いを立てると、ティムと古竜が同時に答えた。


「良いに決まってるだろ」

『良い。(わらべ)の言うようにせよ』


「ご無礼つかまつります」


 ユースティスがそう言う声が聞こえ、ファウスタはユースティスに手を引かれてエーテルに乗せられたままふわふわと移動した。

 見えないが、そういう空気の感触があった。


「じゃあ、俺らは帰るから」


 ティムの声がすぐ近くで聞こえた。

 前方に向かって言っているようなので、ファウスタたちを囲んでいた魔物たちに言っているのだろう。


「お前たち、出迎えと見送りご苦労! じゃあな! ……タニス、来い!」

「了解であります!」






(どうなっているのかしら)


 ファウスタは目を閉じているので何も見えない。

 ユースティスのエーテルの空気椅子に座ったままだ。

 だがファウスタは風を受けているので、移動していることは解った。


(……!)


 一瞬、ぶわっと、強い風が吹いた。

 エーテルの塊にぶつかったような感触だった。


 ファウスタは知らなかったが、それは世界の境界を渡った感触だった。






(涼しいのだわ)


 空気の動く感触がなくなった。

 ひんやりとした空気があり、水の匂いがした。


『その娘の目を確認したい』


 古竜の不思議な声が響いた。



「恐れながら、エーテルはファウスタの目に悪いため……」

「ちらっと見せるくらいなら大丈夫だろ」


 ユースティスが古竜に答え、ティムがそれに茶々を入れた。


「目を開けるには、安全のためにエーテルから目を保護する眼鏡が必要です。眼鏡を紛失してしまいましたので、眼鏡の用意ができるまでお待ちいただきたく存じます」

「すぐ用意できるのか?」

「屋敷に戻れば予備の眼鏡があります。お許しいただければ日を改めて参ります」

「せっかく来たのに? 帰るのか?」

「この場でファウスタに目を開けさせることだけはご容赦ください」

「ちょっとくらい大丈夫じゃね?」

「危険です」

「爺さんが何か確認したいらしいからさぁ……」


 ティムとユースティスが言い合いを始めると、タニスが声を上げた。


「私にお任せくだされ!」


 タニスは元気良く言った。


「十分あれば眼鏡を持ってまいりますぞ! 私の箒ならすぐです!」

「お! タニス! できるのか?!」


 ティムが嬉々とした声を上げた。


「はい。ティム様が一緒に来てくだされば出来まする!」

「俺も行くのか?」

「ティム様がいなければ戻って来れませぬゆえ」

「あ、そうか」


(タニスさんはここまでの道を覚えていないのかしら)


 ティムがいないと戻れないと聞いて、ファウスタはそう思った。

 だがすぐに古竜の巣に至れる鍵がティムであることを知ることとなった。

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― 新着の感想 ―
理を確定させるファウスタ様の眼でも恐れない古龍は絶対的な存在なのですね
眼鏡にヒモって、よくお婆ちゃんが老眼鏡無くさないように首からかけてるようなヤツ…?
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