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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第2章 霊能メイド現る

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59話 恐ろしい場所

御姫様(おひいさま)が降りて来て、ペンダントを揺らしていました」


 オクタヴィアが振り子占いペンデュラム・ダウジングを終えると、ファウスタは自分が視た状況を説明した。

 ファウスタの話にオクタヴィアは頷いた。


「振り子が動くときは空気が重くなる感じがあるの。それが御姫様なのかしら」

「幽霊にも重さがあるのでしょうか」

「少しあるみたいよ」

「重さがあるのに、どうして空中に浮かべるのでしょうか」

「空気より軽いからじゃないかしら」

「空気より軽くても、重さがあるのですか?」

「ええと……それは……そ、そうだわ、きっとガスみたいなものよ」

「ガス……?」

「ええ。……多分?」


 オクタヴィアは曖昧な笑顔を浮かべると、目を泳がせた。


「そ、それにしても、ファウスタ、お手柄よ。部屋じゃなくて屋敷って、よくあの質問の言い換えを思いついたわね」


 部屋ではなく、屋敷に人形を持ち込んだのがナスティだったのかという質問の言い換えについて、オクタヴィアはファウスタを賞賛した。


「そ、それは、その、もしかしたら、誰かが動かしたのかもと……」


 今度はファウスタが目を泳がせた。


 守護霊ティムが人形を動かした事をファウスタは知っていたが、ティムのことはちらりと見かけた程度と言うことにして、基本的にはいないものとして扱う約束をしている。

 だからティムの事をオクタヴィアに言うわけにはいかない。


 ファウスタは何とか上手く誤魔化そうと、言い訳を必死に考えた。


「お掃除のときに調度品を動かすこともあるので……それで、もしかしたら、そうかもしれないと……」

「きっとそうだったのよ。絶対にナスティが犯人だと思っていたのに、何回か質問したのだけれど、違うって結果ばかり出ていたから、ちょっと自信がなくなっていたの。でも呪いの人形を持ち込んだ犯人はやっぱりナスティだったのね」


 ペンデュラム・ダウジングの振り子の動きは、ファウスタが気付いた通り、やはり当たっている場合は縦に、違う場合はぐるぐる円を描くように動くらしい。


 オクタヴィアは色々な質問をして、振り子の動きと答えとの関係を検証したのだという。


「こんな方法で御姫様(おひいさま)とお話しができるなんて。凄いです」

「ね? 名案でしょう?」


 得意気な顔でオクタヴィアは言った。


「でもね、当たっているか違っているか、『はい』か『いいえ』かで答えてもらう事しかできないから、質問を上手く考えなければならないの。さっきの、部屋か屋敷かっていう質問みたいに、質問の仕方が間違っていると、答えも間違ってしまうのよ」

「当たっているかどうか訊けるだけで凄いです!」


「御姫様が王族かどうか訊いたら『はい』。でもいつ頃の時代かは解らなかった。色んな年代を提示してみたのだけれど全部『いいえ』って結果が出たの。王族ならば、この屋敷が王家の離宮だった時代のお方だと思うのだけれど、もしかしたら御姫様は聖歴を知らないのかもしれないわ」


 オクタヴィアは思慮深い顔をして、検証結果について語った。


「レイスかどうか訊いたら『いいえ』と出たのだけれど、魔術を使えるかと訊いたら『はい』。レイス以外にも魔術が使える幽霊がいるか訊いたら『いいえ』。両立しない答えが出たの。振り子が回るときは『いいえ』という答えの他に『解らない』という意味もあるのかもしれない」


 よどみなく推論を述べるオクタヴィアをファウスタは尊敬の眼差しで見つめた。

 次々と意味を紐解いていくオクタヴィアの賢さにファウスタは敬服した。


(やはりお嬢様はとても賢いお方なのだわ)


「私が作法学校に行かなくても良いか質問してみたら『はい』って出たの。それで検証も兼ねて、お母様とちゃんとお話ししてみることにしたのよ。どのみちいつまでも病気のふりをしているわけにはいかないもの。いつかはちゃんと話さなければならない事だから、良い機会だと思ったの。でもね、ペンデュラム・ダウジングの結果だけを信用して、無策で行ったわけじゃないのよ?」


 オクタヴィアは少し得意気な顔をした。


「最近、新聞記者がうちの周りをうろついているから、そのことも利用させてもらったわ」

「新聞記者が来ているのですか?」

「ええ、来ているわ。真面目な新聞じゃなくてゴシップ紙の記者でしょうけれど」


 オクタヴィアは皮肉っぽく笑うと、肩を小さくすぼめてみせた。


「私ね、ゴシップ紙に悪魔憑きって報道されたの。お兄様もよ。私たちが悪魔憑きで大暴れしてるっていう悪口を書かれたの。ゴシップ紙の記者たちは新しい悪口記事を書きたくて私たちの欠点を探しに来ているんじゃないかしら」

「大人なのに、そんな意地悪なことをするのですか?!」

「そうよ。ゴシップ紙はいつも人の悪口ばかり書いているの。最低よね」


 ファウスタの反応に気を良くしたのか、オクタヴィアは生き生きとした顔でゴシップ紙を批判した。


「だからお母様に言ったの。記者がうろついていて物騒だから作法学校になんか行きたくないって。記者たちは朝から晩まで屋敷を見張っているんですもの。作法学校の前で私を待ち構えているかもしれないでしょう?」

「……!」


 意地悪な顔をした大人の記者が、作法学校の門前にうじゃうじゃいて待ち構えている場面を想像してしまい、ファウスタは恐ろしくなった。

 ファウスタは作法学校を知らなかったので、空想の作法学校は孤児院のような建物であったが。


「お、お嬢様! 作法学校は危険です!」

「そう、危険なのよ。そのことをお母様に理解していただいたの」


 オクタヴィアは全く恐れている素振りはなく、むしろ勝ち誇った笑みを浮かべて得意気に語った。


「ゴシップ紙に悪魔憑きって報道されたんですもの。作法学校へ行ったら皆に変な目で見られるに決まってるわ。きっと陰口だってたくさん言われる。嫌な思いをするって解っている場所に行きたくないって、お母様にお願いしたの」


 オクタヴィアは少し芝居がかった手振りで、悲劇のヒロインのように振舞いながら調子よく語った。


「作法学校へ屋敷から通うとしても下品なゴシップ紙の記者が常にうろついているんですもの、とっても物騒なのよ。かといって寄宿舎に入れば、味方になる家族がいない場所で、皆に白い目で見られ、陰口を言われるの。ただでさえ意地悪な子が多いんですもの、作法学校の中は敵ばかりよ。きっと嫌がらせもされるわ。そんな生活に二年も耐えなければならない。ああ、きっと気が狂ってしまうわ!」


 オクタヴィアは打ちひしがれるようなポーズを決め、そして両手で顔を覆った。


「お嬢様!」


 ファウスタはオクタヴィアの境遇に深く同情した。

 だが孤児のファウスタにはオクタヴィアを助ける力などないのだ。

 ファウスタは自分の無力さに絶望した。


(私にたくさんお金があればお嬢様を連れて逃げられるのに。私にはお金がぜんぜん無いのだわ。お金がないのにこのお屋敷を出たら貧民街に連れて行かれて野垂れ死んでしまう。どうすればいいの?!)


「心配しないで、ファウスタ。お母様は解ってくださったわ。作法学校へは行かなくていいの」


 オクタヴィアは顔を上げると、晴れ晴れとした顔で微笑んだ。


「お嬢様! 本当ですか!」


 嬉しい知らせに、ファウスタはまるで神の奇跡を見たかのように感極まった。


 作法学校へ行かなくても良いという話は、最初から聞いていて知っているはずなのだが、ファウスタはオクタヴィアの演技にすっかり引っ張られてしまっていた。


「ええ、本当よ」

「良かったです! ……良かったです!」


 ファウスタは今にも泣き出しそうな顔で、オクタヴィアが恐ろしい作法学校の脅威から無事に逃げおおせたことを喜んだ。


「だから一緒にお祝いをしましょう。お洒落してお出かけするの。曲芸団(サーカス)を見て、それから王立植物園にも行きましょう」


 オクタヴィアはうきうきとお祝いと称した外出計画を話し始めた。


「きっと今は春の花が見ごろよ。喫茶店(ティールーム)にも行ってみたいわ。王立植物園の喫茶店(ティールーム)は子供も入れるからファウスタも一緒に入れるわ」


喫茶店(ティールーム)!!)


 喫茶店(ティールーム)と聞いて、ファウスタは再び恐怖に震え上がった。


 使用人食堂(サーバンツホール)での休憩時間に、ドム少年から喫茶店(ティールーム)にまつわる恐ろしい話を聞かされたばかりだったからだ。


「お嬢様! 喫茶店(ティールーム)は危険です!」


 ファウスタは血相を変えたが、オクタヴィアは楽しそうに笑った。


「心配しなくても大丈夫よ。私が一緒だもの。解らない事は教えてあげるから安心して。ファウスタのお作法は喫茶店(ティールーム)でも十分に通用するわ」


 世間知らずのファウスタが喫茶店(ティールーム)という未知の場所に不安を感じて気後れしていると思ったのだろう。

 オクタヴィアは、ファウスタを励ました。


「お嬢様、喫茶店(ティールーム)は恐ろしい場所です!」


 ファウスタは何とか危険を解ってもらおうと、使用人食堂(サーバンツホール)で聞いた話を必死にオクタヴィアに説明した。


「今日は随分と面白いお話しをしていたのね。そういう話題なら、私もぜひ混ぜて欲しかったわ」


 オクタヴィアはファウスタの話を興味深そうに聞き、使用人食堂(サーバンツホール)での喫茶店(ティールーム)にまつわるおしゃべりに参加できなかったことを残念がった。


「大丈夫よ、ファウスタ。外出するときはメイドだけじゃなくて従僕(フットマン)も連れていくわ。それなら安心でしょう?」

「ですがお嬢様、もし従僕(フットマン)が詐欺師のお世辞に釣られてしまったら、私たちは誰に助けてもらえば良いのでしょう。詐欺師は様子が良くて口が上手いのです。従僕(フットマン)も騙されてしまうかもしれません。喫茶店(ティールーム)に近付くのは危険なのです」


 悲愴な顔で危険を説くファウスタに、オクタヴィアは意味深な笑顔で答えた。


「その詐欺師たちは多分、従僕(フットマン)にはお世辞を言わないと思うわよ?」

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