577話 令嬢たちの懺悔
「ラヴィニアさん、私も……お手伝いするわ。微力だけれど……」
どこか高い場所にいて国全体を俯瞰しているかのようで、それでいて尊い志を持ち国難を憂いているラヴィニアを前にして、オクタヴィアは自分の小ささに引け目と後ろめたさを感じて言った。
「ありがとう、オクタヴィアさん。オクタヴィアさんにそう言っていただけると心強いわ」
「私には……大したことは出来ないけれど……」
少しぎこちない笑顔でオクタヴィアは言ったが、ラヴィニアは曇りのない瞳でオクタヴィアを讃えた。
「何をおっしゃるの。オクタヴィアさんはファウスタ様を守っていらっしゃるわ。大変なお役目を立派に務めていらっしゃる。今日のファウスタ様のご安全が守られているのはマークウッド辺境伯家の皆様のお力があればこそですわ」
「……ごめんなさい……私利私欲なの……」
ラヴィニアにキラキラとした眼差しを向けられ、後ろめたさに耐え切れなくなったオクタヴィアは告白した。
「私は、自分の計画のためにファウスタの霊能力を手中に収めたかっただけなの」
「……計画?」
少し不思議そうに首を傾げたラヴィニアに、オクタヴィアは懺悔をするように自らの所業を語った。
「私は占いのサロンを開きたいの。ファウスタの霊視があれば、私のサロンが話題になると思ったの。だからファウスタを手元に置きたくて専属のメイドにしたのよ。子供のファウスタを生活の保障とお金で釣って、約束も取り付けたわ。……ごめんなさい!」
オクタヴィアは両手で顔を覆った。
「あの……それは……、特に悪いことでは無いのでは?」
ラヴィニアは困惑の表情を浮かべた。
サロンを催すことは貴族の日常であり、メイドの生活を保障して給金を支払うこともごく一般的なことだ。
「いいえ、完全に私利私欲なの……!」
オクタヴィアはラヴィニアに全ての罪を告白した。
秘密のサロン計画のことはもちろん、タロット・カード販売でファウスタの名を使おうとしていることも包み隠さず話した。
「ファウスタには、インチキ霊能者に騙されている人たちを本物の霊能力で救うためって、格好つけて言ったけれど。自分が占い師として有名になりたかっただけなのよ……」
「……特に問題はないと思うのですが……」
「私利私欲ですもの。問題だらけよ。清く正しいラヴィニアさんのお話を聞いて、欲にまみれた自分が恥ずかしくなったわ」
「清く正しいだなんて……。私は、そんな大層なものではありません……」
「いいえ、ラヴィニアさんは立派だわ。尊いお志をお持ちだわ」
オクタヴィアの賞賛に、ラヴィニアは少し目を泳がせた。
「実は私……お恥ずかしいお話ですが、欲は、あるのです」
ラヴィニアは少しバツが悪そうにしながら告白した。
「ファウスタ様をお助けしたい気持ちは本当ですが。でも、そこには、ファウスタ様と猫妖精様のお近づきになりたいという気持ちがあるのです。……貴族の義務だなんて私も格好つけましたが……ただのファンなのです」
「私にお気遣いは無用よ。自分が欲にまみれた汚れた人間だということは解っていてよ」
「いいえ、本当に、私は欲にまみれているのです。私は……祖父の、大臣の威光を使ってファウスタ様に近付こうと考えたこともありましたの……。私利私欲に政治を利用してはいけないと、祖父に叱られましたわ」
「えっ?!」
ラヴィニアの告白に、オクタヴィアは驚愕の表情で顔を上げた。
「ラヴィニアさんが、そんなことを?!」
「ええ、そうなのです。……ごめんなさい!」
今度はラヴィニアが両手で自分の顔を覆った。
「私は、地位と権力を振り回してファウスタ様に近付こうとしました。性根の腐った熱狂的なファンなのです!」
「お顔をお上げになって。ラヴィニアさんはまだ何もしていらっしゃらないもの。悪くなくてよ。でも私は、家の力を使ってファウスタをがっちり囲って独占しているの。私はすでに罪を犯しているのよ」
「私もオクタヴィアさんの立場なら、きっと同じ事をしていましたわ」
お互いに罪を告白し合った二人の間には、不思議な友情が芽生え始めた。
「私たち、似ているかもしれないわね」
「ええ、何だか、とても解り合えた気がします」
「秘密も共有しているのですもの。本当のお友達ね」
「共犯者で親友ですわね」
オクタヴィアと意気投合したラヴィニアは、すっきりとした笑顔を浮かべた。
「オクタヴィアさんのサロンの計画に、私も混ぜていただけませんか?」
「ラヴィニアさんなら大歓迎よ」
「オクタヴィアさんは覆面占い師になるおつもりなのでしょう?」
「ええ、そうよ」
「でも、オクタヴィアさんがサロンの主催者では正体がバレてしまうのではないかしら」
「そういう危険性はたしかにあるわね」
「私が代理でサロンを主催するというのは如何でしょう。サロンの主催者でなければ客人一人一人に挨拶をする必要もないですから、オクタヴィアさんの正体を隠せると思いますの」
「素晴らしい案だわ。でもラヴィニアさんのご迷惑にはならないかしら。非科学的な神秘学を蔑む者たちもいるでしょう?」
「迷惑だなんてとんでもないです。ファウスタ様のファンである私には夢のような企画です。ぜひとも協力させていただきたいわ。シェリンガム伯爵家の地位と権力を存分に振るってお手伝いさせていただきましてよ。神秘学を蔑む者たちなど、こちらから願い下げですわ!」
「さすがはラヴィニアさんだわ。なんて心強いのでしょう!」
「私、新年の舞踏会で社交界デビューいたしますの。来年にはサロンを開けましてよ」
――コン、コン。
オクタヴィアとラヴィニアが話に花を咲かせていると、部屋のドアがノックされた。
「お嬢様、ファウスタがご所望の歌詞を持ってまいりました」
それは家女中デボラに付き添われたファウスタだった。
「ファウスタ! 待っていたわ!」




