570話 ラヴィニアの秘密の話
「まあ! これは!」
オクタヴィアはラヴィニアを一階の部屋へと案内した。
その部屋はラヴィニアを迎えるために、オクタヴィアの指示で特別に整えられた部屋だ。
「マグス商会で売り出された終末竜バハムートと大海獣リヴァイアサンの模型ですわね! こんなに沢山!」
オクタヴィアは部屋を飾るために、父親であるマークウッド辺境伯から終末竜バハムートと大海獣リヴァイアサンの模型それぞれ十体ずつを借りていた。
飾り棚の上にずらりと並べられた怪獣の模型たちに、ラヴィニアは圧倒されているかのように視線を釘付けにしたままで言った。
「私も注文したのですけれど、出遅れてしまって。初日に予約が殺到したとのことで、それより後の予約ですと品物が届くまでに時間がかかるらしいのです」
「うちには怪獣の模型を監修した魔術師ファウスタがいたので、特別に、予約日の前に注文ができましたの」
(私は魔術師ということになったのかしら?)
オクタヴィアの会話を聞きながら、ファウスタは内心で首をかしげた。
(魔法は使えないのだけれど……)
「魔術師ファウスタが監修した商品は、我が家には最優先で届けられますのよ」
「さすがはファウスタ様の後見をしていらっしゃるマークウッド辺境伯家。羨ましいですわ」
「こちらは、まだ予約が始まっていない品なのですけれど……」
オクタヴィアは得意気に、猫妖精の模型を示した。
「オクタヴィアさん、こ、これは、もしや……?!」
ラヴィニアの目が驚愕に見開かれた。
「ファウスタ様の……猫妖精様?!」
ラヴィニアはそう声を上げてオクタヴィアを振り返り、そしてファウスタにもちらりと視線を向けた。
(……っ!)
ファウスタはドキッとしたが、必死で平静を装った。
「ええ、そうです。魔術師ファウスタが連れている猫妖精の模型ですわ」
オクタヴィアは絶好調でラヴィニアに模型の説明をした。
「ファウスタの監修で、こちらもマグス商会から売り出されることになりましたの。これは見本品として、いち早く我が家に届けられたものです」
「素晴らしいわ! ぜひ予約しなければ! なんて可愛らしいのでしょう!」
ラヴィニアは瞳をキラキラと輝かせて猫妖精の模型に見入った。
(可愛い……?)
ラヴィニアが述べた感想にファウスタは戸惑った。
その猫妖精の模型は、ファウスタが怪獣の模型の監修をした記念に、マグス商会会長バート・マグスであるバジリスクスと一緒に撮影した記念写真に写っていた猫妖精の姿をもとに作られていた。
マグス商会の店舗に飾られて大評判になった心霊写真の猫妖精だ。
しかしその猫妖精は、タニスが魔術で作り出した幻影だった。
タニスのセンスで作られた猫妖精であるだけに、どことなく悪そうな顔をしていたので、ファウスタにはそれが少し不気味に思えた。
(あの猫妖精、ちょっと怖いと思うのだけれど……。貴族のお嬢様はああいうのを可愛いって思うのかしら)
つい先程、玄関で挨拶をしたとき、ラヴィニアに「可愛い」と言われたファウスタは少し複雑な気分になった。
「よろしければ、ラヴィニアさんの分も私が予約いたしますわ」
オクタヴィアが持てる者の余裕の微笑みでラヴィニアに言った。
「うちには最優先で商品が届けられますの。すぐにお手元に商品が届きましてよ」
「ご好意に甘えさせていただいてよろしいのかしら」
「どうぞご遠慮なく。私たちお友達ですもの」
「シェリンガム伯爵夫人は占い師トトメスと親交がおありでしたの?!」
オクタヴィアとラヴィニアは和気藹々と、お茶のテーブルが整ってからも歓談を続けた。
「素晴らしいご家族をお持ちね。羨ましいわ!」
羨望の眼差しを向けたオクタヴィアに、ラヴィニアは少し困ったように苦笑した。
「何度か顔を合わせた程度だったと聞いています。ただトトメス氏は、とても気さくなお方で、まるで昔から知っている友人のような口調で話し掛けて来る人だったそうです」
「まあ!」
「しかも彼の話の内容というのが、いつも、祖母が口に出していない悩みについての答えで、毎回驚かされたそうです」
「それはトトメスには未来が見えていたということかしら?! トトメスは透視術の使い手だったのかしら?!」
「私には解りかねますが……。ですが、何かが見えているような不思議な人だったと祖母が申しておりました」
(そういえばシェリンガム伯爵夫人はトトメスさんを知っていたのだわ)
オクタヴィアとラヴィニアの会話を聞きながら、ファウスタはぼんやりと考えた。
ファウスタは給仕をしている家女中デボラの助手をしているが、見習いの子供は陶器に触ってはいけないのでほとんど立っているだけだ。
(それならシェリンガム伯爵夫人は、シャールラータンさんのことも知っているのかしら?)
「オクタヴィアさん、実は、秘密のお話がしたいのです……」
トトメスについての話が一段落すると、ラヴィニアはそう切り出した。
ラヴィニアはおしゃべりの続きのように明るい調子で言ったが、一瞬だけファウスタを目線だけでちらりと見た。
(……!)
ラヴィニアは視線をすぐ正面に戻すと、オクタヴィアを見据えて言った。
「二人だけでお話できないかしら」
「よろしくてよ」
オクタヴィアは笑顔で気前よく答えた。
(……今のは……バレたの……?!)
ファウスタはドキドキしながら、オクタヴィアの指示でメイドたちと共に退室した。
「オクタヴィアさん、正直におっしゃって……」
メイドたちが退室してオクタヴィアと二人きりになると、ラヴィニアは真顔で言った。
「あのファウスタという子が、魔法少女ファウスタ様なのではなくて?」
「な、何を言い出すの、ラヴィニアさん……」
オクタヴィアは挙動不審になり目を泳がせながら、不自然な笑顔を浮かべた。
「ち、違うわよ?」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。




