559話 パーティーへの誘い
「招待カードを、私とお友達の分と、二枚いただけるの?」
マグスクラブのパーティーに参加するには招待カードが必要なことと、バジリスクスが「お友達もお誘いください」と言ったことについて、オクタヴィアが質問をした。
「招待カードはもともとお一人様につき二枚ずつお送りしております。マークウッド辺境伯にはお嬢様をお連れいただけるかと思い、招待カードを五枚お送りいたしましたが……」
バジリスクスはにこにこの笑顔で説明をした。
「当クラブの催しは、従者であっても招待カードがなければ参加できません。しかし高貴なお方には側仕えが、女性の皆様にはエスコートが必要でしょう。そのため従者やパートナーをご同行いただけるよう招待カードは二枚ずつお配りしているのです」
「では私も招待カードを二枚いただけるの?」
「二枚といわず、お嬢様には十枚お持ちいたします。ぜひぜひお友達とお誘いあわせのうえお越しください。お嬢様のお友達でしたら何人でも大歓迎ですので、招待カードが足りなければいつでもご相談ください。すぐにご用意させていただきます」
「まあ、嬉しい。随分と良くしてくださるのね」
「お嬢様には……例の秘密のタロット・カードの件で……」
バジリスクスは愛想の良い笑顔で、意味深にオクタヴィアに片目を瞬いて見せると、オクタヴィアが作ったタロット・カードをマグス商会で売るという話をぼかして言った。
「マグス商会を選んでいただいたご恩があります。招待カードはほんのお礼の気持ちでございます。それに……」
バジリスクスは乙女が憧れの人の前でもじもじしているような素振りを始めて、オクタヴィアに熱い視線を向けた。
「お嬢様のような霊能の才のあるお方にこそ、当クラブのパーティーにお越しいただきたいのです。ぜひお友達と一緒に気兼ねなくご参加ください。パーティーにはプロの霊能者や占い師の方々もご招待しております。老舗の占いの店である『風の塔』の占い師ブリギッドからも参加の返事をいただいております。占いがお好きな方々にはお楽しみいただける催しとなると自負しております」
「まあ! 占い師ブリギッドが来るの?!」
占い師ブリギッドの名前にオクタヴィアは目を輝かせた。
(ブリギッドさんなら、もう、そこにいるけれど……)
魔道士ブリギッドを見知っているファウスタは内心で呟いた。
ブリギッドはこの部屋の扉の近くにメイド姿でしれっと立っている。
ファウスタはブリギッドをちらりと見た。
(ブリギッドさんが人間の占い師に化けるときは、今とは別の姿なのかしら?)
「はい。占い師ブリギッドがまいります」
「素敵! ぜひお会いしたいわ!」
「私は占い師ブリギッドとは商売上の長年の付き合いがあり、個人的にも交流があります。お嬢様のお望みとあらば、私が占い師ブリギッドをご紹介いたしましょう」
バジリスクスは紳士らしくきりりとした真面目な顔をした。
「他にもご興味がおありの人物がいらっしゃいましたら、何なりとおっしゃってください。私がご紹介いたします。霊能の才があるお嬢様とは、末永くお付き合いしとう存じます。どうぞよしなに」
「マグス氏は、私に霊能の才があるとお思いでいらっしゃるの?」
オクタヴィアが少し得意気な顔でそう言うと、バジリスクスの紳士らしいきりりとした顔は、憧れに瞳を輝かせる乙女のような表情に切り替わった。
「お嬢様には霊能の才がおありです。真実、霊と交信できる者はそうそう居るものではございません。お嬢様は当クラブのパーティーについて、ご存知ではなかったとのことですのに、霊との交信でそれをお知りになった。知らないことを、ぴたりと言い当てたのです。これは正に、本物の霊能力です!」
「たまたま霊が答えてくれただけよ」
「霊はたまたま答えたりはいたしませぬ。そもそも凡人に降霊はできませぬゆえ」
(仮面占いパーティー……。どんなパーティーかしら)
オクタヴィアとバジリスクスの会話を聞きながら、ファウスタは謎のパーティーについて考えを巡らせていた。
(仮面をつけて占いをするのかな。お嬢様の覆面占い師になる計画の参考になるかもしれないわ。お嬢様は占いサロンの計画の参考にするためにパーティーを見たいのかしら)
考えながらファウスタは、周囲をなんとなく見回した。
ユースティスは平然としたまま使用人らしく控えている。
プロスペローは笑顔で、タニスは退屈そうだ。
部屋の扉の近くに立っている詰襟のドレスの魔道士ハーミアと、メイド姿の魔道士ブリギッドも平然としている。
人間の侍女ヘンリエタだけは、騒霊現象に衝撃を受けたのか、魂が抜けたような呆然とした顔をしていた。
振り子盤を片付けて鞄に収納し終わった従僕ラウルは、鞄を持って無表情で控えている。
「個人的な問題を大勢の前で占うことには、やはり差し障りがありましょう。そこで変装を思いついたのです」
バジリスクスは仮面占いパーティーについてオクタヴィアに説明をしていた。
「どこの誰か解らぬように変装をしていれば、大勢の者がいる場でも、気軽に占い師に占いを依頼できるでしょう。万聖節前夜祭のような仮装を推奨しておりますが、変装であればどんな姿でもかまいません。もし変装のご用意がなくとも、当クラブハウスにて当日、仮面やマントなどの変装道具をお貸しいたしますゆえ、いつでもお気軽にご相談ください」
「万聖節前夜祭のように、怪物や魔女の仮装をしても良いの?」
オクタヴィアがわくわく顔でそう質問すると、バジリスクスは満面の笑顔で頷いた。
「はい。何を隠そう、私めは、中世の宮廷魔術師の仮装でまいる予定にございます」
「まあ! 素敵!」
オクタヴィアは瞳を星のように煌めかせた。
「私は何の仮装をしようかしら!」
(変装じゃなくて仮装なの? やっぱり私も仮装するのかしら?)
オクタヴィアが参加するというパーティーに、ファウスタはオクタヴィアの侍女として自分も参加するのだろうと思った。
オクタヴィアのわくわく顔を見て、装いを考えるのが大好きなオクタヴィアは、きっとファウスタにも仮装の指示をするだろうと予感した。
おそらくオクタヴィアがファウスタの分も仮装を考えて、侍女ネルに何か作ってもらうのだろう。
(あまり難しい衣装でなければ良いけれど)
ファウスタは仮装には一抹の不安を感じたが、仮面占いパーティーには興味があった。
(占い師の人が来て、占ってもらえるパーティーなら……私も占ってもらえるのかな。私の将来のこと、ちょっと占ってもらいたいかも……)
「当クラブハウスの談話室にご案内いたします」
バジリスクスはオクタヴィアにそう言い、ファウスタにも笑顔を向けた。
「催しで占いを行う、見習いの少女たちをご紹介いたしましょう」




