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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第2章 霊能メイド現る

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53話 魔鏡屋タニス

「バジリスクス様、お帰りなさいませ!」


(何故こやつが此処に!)


 魔道士ギルドでの七つ星魔道士を集めた会議を終えたバジリスクスは、派閥の個室ではなくギルド長室へ向かった。


 自分勝手な七つ星魔道士たちをとりまとめるのに疲労困憊したバジリスクスは、しばらく一人になりたかったのだ。


 ギルド長室は、バジリスクスがギルド長としての執務を行う瀟洒な部屋だ。

 個別の話し合いや来客の応対にも使われるが、そういった予定が無ければ、ギルド会館においてバジリスクスが一人で静かな時間を過ごせる場所だった。


 だが休息を求めギルド長室の扉を開けたら、目を爛々と輝かせた禍々しい魔女が居た。


「お願いがあってお待ちしておりました!」


 少年紳士に男装した巻き毛の魔女タニスが、鬼気迫る笑顔でバジリスクスを出迎えたのだった。


 魔女タニスは魔女ブリギッドと共に戦争時代には頼もしい戦力であったが、平時においては好戦的で常軌を逸した行動をとる問題児だった。

 ゆえに魔女たちの頂点に立つ七つ星魔女ヘカテが、彼女らを側近として身近に置いて手綱を握っているのだ。


(ヘカテは何をしておる!)


 そう思った次の瞬間に、ヘカテも自分と同じく、今しがたまで会議に出席していたことをバジリスクスは思い出した。

 今頃ヘカテは自分の派閥の部屋に戻り一息ついている事だろう。


(ヘカテ! タニスが居ないことに早く気付いてくれ!)


「……タニスよ、そなたが此処に来ていることをヘカテは了承しておるのか?」

「もちろんでございます。バジリスクス様にお願いに行く許可は得ております」


 魔女タニスは下心溢れる笑みを満面に浮かべた。


(嘘だな。いや、何か都合の良い解釈をしたのであろう)


 魔女ヘカテは長く派閥の長をしているだけあり、用意周到な性格で、事を起こす前には必ず根回しをする。

 唐突にタニスという危険分子を突撃させるような真似はしないはずだ。


「バジリスクス様、マークウッドの悪魔に私の魔鏡を贈ったというお話は真でございますか」

「あ、ああ。確かに。そなたの工房で買った魔鏡をセプティマス殿に贈った」

「魔鏡の製作者である私めを、マークウッドの悪魔に紹介してくださいませ!」


 タニスが目を血走らせ、ずいっとバジリスクスににじり寄った。

 バジリスクスは一歩後退った。


「そ、それは……難しい」


 魔眼問題で魔道士ギルドと吸血鬼ギルドとの関係は揺らいでいる。

 土壇場の善人演技と友情演出でセプティマスの敵意を削ぎ、『マークウッドの悪魔の法則』からギリギリ抜け出した状態だ。

 薄氷の上を歩くがごとく、今は慎重に進まねばならぬ時。


 そこへ問題児のタニスを介入させるなど、とんでもない話だ。

 薄氷が割れるどころか、石橋すら大崩壊して大炎上してしまう。

 一触即発の今の時期にタニスを吸血鬼ギルドに関わらせるなど、破滅願望でもなければ有り得ない。


「何故でございますか!」

「そなたは社交に向いておらぬからだ」


 タニスは平たく言えば残酷な感性の持ち主で、しかも自分の感覚のおかしさを自覚できていない。

 だから隠そうともしないのだ。

 天気の話でもするようにさらっと尖った残酷発言をして、セプティマス・ファンテイジの怒りを買うであろうことが容易に想像できた。


「私も社交いたします!」

「ならん、ならん。気持ちだけではどうにもならん。そなたに社交は無理だ。向いておらん」


 バジリスクスの拒絶に、タニスは盛大に不服そうに顔を歪めた。

 沸々と怒りを沸き上がらせるがごとく、タニスの周囲の空気が歪む。


「待て、待て、タニス、発火させるでないぞ。そういうところが社交に向いておらんというのだ」


 バジリスクスに指摘され、タニスはぐっと怒りの火を意識的に収めた。


「うう……しかし、しかしですぞ、バジリスクス様、言わせていただきますが、バジリスクス様がなさった事は転売行為ではございませんか。私から安く買った魔鏡と交換に、マークウッドの悪魔から巨大な利益を受け取るなど、悪質極まりない転売行為でございましょう」

「何を言っておるのだ。意味が解らぬ」

「バジリスクス様は魔鏡と引き換えに、マークウッドの悪魔に魔眼を借りるのでしょう! ずるいではありませんか! 私が作った魔鏡だというのに、バジリスクス様が利益を独占するなど、許されざる転売行為であります!」

「ああ、魔眼のことか……魔眼を紹介してもらう話なら、無くなった」

「……は?」


 タニスは肩透かしをくらったように、きょとんとした顔をすると動きを止めた。


「今なんと?」

「吸血鬼ギルドとの話し合いで魔眼には接触禁止となったのだ」

「マークウッドの悪魔に個人的に頼めば会えるのでございましょう?」

「ヘカテに教わったのか?」

「はい。グラスキ講和条約で民間の交流は認められているので、個人同士の交流は自由であると」

「それは新参にはあまり言うなよ」

「心得ております」


 タニスは少し冷静さを取り戻したようで、先程よりはおだやかな口調で答えた。


「セプティマス・ファンテイジの命令で、魔眼に負担をかける行為の一切が禁止されたのだ」

「負担とは具体的には何を指すのでございましょう」

「トリテミウスの研究により魔眼にはエーテルが負担である事が解ったのだ。魔眼から高魔力の者を遠ざけ、しばらくは静かに暮らさせ経過観察するとのことだ」

「はあ? トリテミウスごときが? 魔眼の研究ですとぉ?」


 タニスは思い切り小馬鹿にするような顔でそう言うと、ケラケラ笑いだした。


「他者の記録を漁るしか能のない本の虫が、研究ですと? 読書の間違いでございましょう。魔力暴発も経験したことがない箱入りのお坊ちゃんが、研究者気取りとは、いやはや平和な世の中になったものです! 笑わせてくれますな! ナイス・ジョーク!」

「……」


 数々の事故を引き起こしながらも、果敢に実験を繰り返しているタニスが言うと、なかなかに重みがある言葉ではあった。

 しかしバジリスクスは、研究というものは真理に至ることこそが重要であると思っている。

 肝試しや度胸試しでの優劣はつけられない。

 真理に至る道は一つではなく、タニスが歩んでいるような危険な実験を繰り返す道もあれば、トリテミウスのように思考の海から辿る道もまたあるのだ。


「トリテミウスは膨大な資料を集めておる。過去の資料を分析し、魔眼はエーテルにより消耗するという答えを導き出したのだ」

「はいはい、エーテル焼け、エーテル焼け。知っておりますとも。なーにを今さら当たり前の事を」


 タニスは大きく両手を大きく広げると、掌を上に向けて軽く持ち上げ、馬鹿々々しい話に呆れ返っている事を全身で表現してみせた。


「我々魔道士がちょこーっと面会したくらいでは焼けませんよーだ」


 タニスは嫌味たっぷりに嘲笑った。


「そなたも魔眼について何か知っておるのか?!」

「知ってるも何も、魔眼を知らずして魔鏡は作れませぬ。私の魔鏡は、魔眼の再現を目指す代物にございます」

「……そうなのか?」


 バジリスクスは首を捻った。


 戦争時代、タニスは兵器開発をしていた。

 太陽光を鏡面(レンズ)で集めるがごとく、エーテルを収束させ濃度を高める特殊な鏡面(レンズ)をタニスは開発した。

 そしてその鏡面(レンズ)を用い、放出されたエーテルを一点に収束させ遠方まで飛ばす画期的な兵器を完成させたのだ。


 魔力光線砲(エーテルレイガン)と名付けられたこの兵器の登場により、魔道士たちの戦闘力は大いに底上げされた。

 これによりエーテルの貧弱な下級魔道士たちも遠隔からの攻撃が可能となった。

 上級魔道士がこれを使えば、堅牢な城壁すら貫通する威力であった。


 しかし終戦後、北方の都市グラスキで行われた講和条約により、魔力光線砲(エーテルレイガン)の製造および使用禁止の合意がなされた。


 そして兵器開発を禁じられたタニスは、鏡面(レンズ)を使った魔力(エーテル)の可視化という平和的な研究に鞍替えせざるを得なかったのだ。


(殺人兵器の転用だったろうが)


 タニスの不気味な微笑に、バジリスクスは疑惑の眼差しを向けた。


「そもそも焼けて困るなら、焼けないように防護すれば良いのでございますよ」

「防護だと? そんな事が可能なのか?」

「可能でございますとも」


 タニスは尊大な態度で言い放った。


「ルフタ合金、と言えばお解りになるでしょうか」

「ふむ……」


 ルフタ合金とは、魔道士の魔力光線砲(エーテルレイガン)に対して、暗がりの森(マークウッド)同盟軍が開発した魔力盾(エーテルシールド)に使われたエーテルを弾く合金である。

 ルフタというのはこの合金の開発者であるドワーフ族の鍛冶師の名である。


「確かにルフタ合金の魔力盾(エーテルシールド)を持てば、高魔力の者の放つエーテルからそこそこ身を守る事は出来る。だが会いたいから盾を持てと先方に要求するのは厚かましかろう。ならば高魔力の者との相対を避けるというのは当然の成り行き」

「盾ではなく眼鏡なら如何です?」

「眼鏡?」


 バジリスクスは眼鏡型の盾を想像した。


「眼鏡型の盾であれば持ち運びは容易だろうな。使い勝手も良かろう。だが所詮は目隠し。そんなものを付けなくとも、目を閉じれば良いではないか」

「眼鏡型の透明な盾なら如何でしょう」


 タニスは余裕綽々に笑みを浮かべた。

 バジリスクスはタニスの言葉の意味を覚り、声を上げた。


「エーテルから魔眼を防護する眼鏡を作れるのか?!」

「ですから眼鏡と、最初から申しておりまする」


 もしそんなものが作れたら、セプティマス・ファンテイジは大喜びでバジリスクスに大感謝するだろう。

 セプティマスはエーテルが全く使えないが、実は巨大なエーテルの塊ではないかという疑惑があるため、彼自身が魔眼との接触を自粛することになったのだから。


 魔眼の好意も付いてくるかもしれない。

 魔眼の子供がどういった性格をしているかはまだ解らないが、普通の子供であれば、失明の危機から救い出してくれた者に対して感謝と尊敬を向けるだろう。


 暗がりの森(マークウッド)同盟の実質トップであるセプティマスと、類稀なる魔眼の子。

 この二人に恩を売り支持を得れば、魔道士ギルドは吸血鬼ギルドに対して大きな優位性(アドバンテージ)を取れる。


(どちらも子供だ。大恩人として儂を敬うかもしれん)


 魔眼を失明から守る眼鏡をこちらが握っている限り、ツェペシュは魔眼から魔道士ギルドを遠ざける事は出来ないだろう。

 魔眼が眼鏡に依存する限り、それはこちらの切り札となる。


「タニスよ、その話、詳しく聞かせてもらおうか」

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