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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第6章 大占い師と予言の詩

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517話 暗中模索(2)

 ――自分の超能力を研究するが良い。


 ラシニア孤児院の元院長ジュード・カニングとの約束をファウスタは思い出した。


(私は超能力の研究をすると院長先生に約束したのだわ)


 ――その能力で自分に何が出来るかを考えてみるが良い。


(自分に何ができるか……!)


 ジュード・カニングの言葉を思い出したファウスタは、はっと気付いた。


(ジゼルもピコも、自分に出来ることを生かしている!)


 ジゼルは物覚えが良く、手先も器用で、要領が良い。

 すぐにしどろもどろになって固まってしまうファウスタと違って、ジゼルは頭の回転が早く口も達者だ。

 ジゼルなら、料理も上手に作れて、お店でちゃきちゃきとお客に対応することも出来るだろう。


 ピコも物覚えが良い、というより頭がすごく良い。

 ピコはもともと勉強したり調べたりすることが好きで、とても物知りで、計算も速い。

 ピコは体はヒョロヒョロなので力仕事には向いていないが、賢さや知識量なら同い年の誰にも負けないだろう。

 大学入学資格試験だってピコならきっと合格できる。


(私も、自分に出来ることを、得意なことを生かせる目標を探せば良いんだわ)


 ファウスタは自分の長所や特技について考えた。


(幽霊やエーテルを視ることと、呪いのお掃除と……?)


 ぱっと思いついたのは、霊視と呪い掃除だった。


 ファウスタは幽霊を視ることにかけては誰にも負けない。

 魔物たちにすら視ることができないエーテルだってファウスタには視える。


 この屋敷に来る以前は、ファウスタは視えざるものが視えることで、頭がおかしいとか、嘘吐きだとか、病気だとか言われて、笑われたり罵られたり哀れまれたりした。

 そのくらい、全く存在しないかのごとく他の人には視えないものが、ファウスタにだけははっきりと視える。


 ティムに出会ってこの屋敷に来るまでは、霊視に価値があるとは知らず、無駄で余計な欠点のように思っていたものだ。

 幽霊を視ることにかけては、今までの残念で悲しい体験に裏付けられた絶対的な自信がファウスタにはある。


(呪いのお掃除は、御姫様(おひいさま)のほうが凄いけれど……)


 呪い掃除もファウスタ以外の人には出来ないことのようで、呪い掃除により人を助けることができるのだから、ファウスタの長所と言える。

 だが手作業で掃除するファウスタより、魔法で一瞬で掃除してしまう幽霊の御姫様のほうが優れている。


(でも御姫様は幽霊だから、人間の中では私が……い、一番……よね?)


 呪い掃除については自信に翳りがあったが、人間限定なら特技と言って良いだろうとファウスタは思った。


 だがそれ以外には、人より抜きんでていると言えることが何も思いつかなかった。


「……」


 ファウスタは愕然とした。


 溺れる者が藁にすがるように、ファウスタは今まで周囲から得た評価について必死に記憶の中を探った。


(このお屋敷に来た時、針仕事やお掃除を褒められたけれど……。でも、アメリアさんのほうが私よりずっと上手だった……)


 ファウスタはこの屋敷のメイドの仕事で、アメリアや他のメイドたちに褒められたことがある。

 だがそれは「初めて仕事をする子供にしては出来ている」というだけで、メイドとして優秀だから褒められたわけではない。 

 そのくらいはファウスタにだって解っている。


(ネルさんの針仕事なんて女王陛下に褒められるくらい凄いのだもの。……ネルさんは魔物だけれど……でも凄いメイドなのだわ)


 大人のメイドたちは、みんな何でも知っていて、賢くて、仕事が早くて上手で、ファウスタの何倍も何十倍も優秀なのだ。

 彼女らがファウスタを褒めたとしても、それは小さな子供にお菓子を与えるような親切であって、ファウスタの仕事が真に優れているわけではない。


(絵も上手になったけれど。でも、画家になれるほどではないわ……)


 ファウスタは毎日絵を描く練習をして、絵に自信が持てるようになっていた。

 しかしさすがに、自分は画家にはなれそうにないと気付かざるを得なかった。


 画家を目指しているピクシー先生は、魔法ではないかと疑うほど、物凄く上手な絵を物凄い早さで描き上げる。

 そんなに凄いピクシー先生でも、まだ画家になれていないのだ。

 画家になるには、ピクシー先生の上を行かなければならない。

 だがファウスタは、画家を目指していないオクタヴィアの画力にすら追いつけない。

 ピクシー先生の画力を追い越すのは一生かけても無理な気がした。


 それにファウスタは絵の勉強をするようになってから、屋敷の中に飾られている絵画を興味を持って見るようになり、画家への道の果てしなさをさらに痛感した。

 どの絵画も、ファウスタには到底描けそうにない作品ばかりで、どうやって描いたのかすら解らない。

 この屋敷の二階に飾られている地獄のような絵画たちの、飛び出しそうな迫力のある怪物の絵や、こちらをじっと見ている本物の生き物のような魔物の絵は、ただの絵ではなく、何か特別な魔法がかけられているとしか思えなかった。


 ピクシー先生が木炭で描く絵も、ファウスタと同じ木炭を使って描いているとは思えないほど、生命に似た存在感を持っている。

 ファウスタは一度、ピクシー先生にお願いして、ピクシー先生の木炭を借りて絵を描いてみたが、ピクシー先生のような絵は描けなかった。

 ピクシー先生の木炭は、ファウスタの木炭と同じただの木炭で、魔法の道具ではなかったのだ。


 画家になる人たちは、魔術師ではないが、魔術師に似たような何か特別な能力を持っているのだろうとファウスタは思った。


(私が得意なことは……霊視と呪いのお掃除以外には、何もない……?)


 ファウスタの気分は、失望の暗い海の水面をぷかぷかと漂い始めた。


 霊視と呪い掃除で出来る仕事は、霊能者として心霊探偵をすることだ。

 だが心霊探偵の仕事するには、マークウッド辺境伯や魔物たちの助けが必要だ。

 そしてそれらを得られるかどうかはティムの気分による。


 それはジゼルやピコのような、自分の力で歩いていく道とは違う気がした。


(自分で探偵社を作っても、私はヴァーニーさんたちのように怪奇現象の原因をすらすら説明したりできない。依頼料の交渉もできない。魔術ができないからみんなを吃驚させるような演出だってできない)


 心霊探偵社の魔物たちの仕事を思い出しながらファウスタは考えた。


(怪奇現象の説明や依頼者との交渉は、お勉強すればできるようになるのかな。でも魔術の演出は出来そうにないわ……)


 ――お前の超能力が、必ずお前を助けるだろう。

 ――時が来たとき慌てぬように、今から自分の超能力を磨いておけ。


(院長先生!)


 ジュード・カニングの堂々とした姿と言葉の思い出が、ファウスタの脳裏を過り、失望の海に沈みかけているファウスタの気分を浮かび上がらせた。


(超能力を磨く……。タロット占いや振り子占いペンデュラム・ダウジングをもっと練習すれば、特技が増えて、出来る仕事も増えるかしら?!)


 ファウスタはオクタヴィアに教えてもらい、占いが少しできるようになった。

 だがオクタヴィアには到底敵わない。


(占いはお嬢様のほうが凄いのだから、私の特技と言えるほどのものではないわ。他に超能力を磨く方法があるか、本を読んで調べれば良いのかな……?)


 ――世の中にどんな仕事があるのか、何があるのか知らなきゃ、選ぶことなんて出来ないよ。


 賢し気な目をしたピコの顔が浮かんだ。


(ピコみたいに新聞を毎日読んでいれば、物知りになれるかな。私が知らないだけで、心霊探偵の他にも霊視を生かせる仕事があるのかな)


 ――やりたいことなんて、そのうち自然に見つかるわよ。


 自信満々なジゼルの笑顔が浮かんだ。


(ジゼルは頭が良いし、何でもすぐに気が付くからそうかもしれないけれど。私はジゼルとは違う……。だってジゼルはもうやりたいことを見つけているのに、私はまだ見つけていないもの。いつだってジゼルが先に気付いて、私に教えてくれていたんだわ……)


 ――ファウスタったら、ぼんやりの癖がまだ治っていないのね。


(ジゼルが目ざといだけで、私は普通だと思うのだけれど……。私はぼんやりしているのかしら。……ぼんやりしていて、やりたいことや特技を見落としているの……?!)


 今までに聞いたファウスタへの忠告や評価が、色々な言葉が、海の泡のように次々に浮かびあがり、ファウスタの頭の中をぐるぐると巡った。


 ――ファウスタほど幽霊や魔法陣が視える者は滅多にいないわ。

 ――ファウスタが魔術儀式を行えばきっと凄い効果があるわ。


 オクタヴィアの嬉々とした笑顔と声が思い出された。

 オクタヴィアはファウスタの霊視を非常に高く評価していて、宮廷魔術師になることを勧めていた。


 ――呪いも視えて浄化もできるんですもの。

 ――ファウスタはきっと魔力量が多いのよ。


(そうだわ。霊視ができれば、宮廷魔術師の仕事もできるってことよね?)


 ――旦那様だって、やりたい事をやるために、マークウッド辺境伯っていう仕事をしているんだから。


 ファウスタはピコの説明を思い出した。


(旦那様みたいに、やりたいことと仕事が別々の人だっているんだわ)


 ファウスタはやりたいことや目標を見つけて、それに沿った仕事を探さなければという考えに囚われていた。

 だがピコやオクタヴィアが語っていたように、マークウッド辺境伯は、やりたいことは神秘学の研究で、仕事はマークウッド辺境伯とファンテイジ商会会長だ。


 マークウッド辺境伯は仕事で稼いだお金を、やりたいことである神秘学に注ぎ込んでいるのだ。


 ――やりたいことが見つかったら、その時には、きっとお金は絶対に必要になるんだから。


 貯金を勧めるジゼルの言葉を再び思い出した。


(旦那様がマークウッド辺境伯の仕事をしているように、私は宮廷魔術師を仕事にしてお金を稼げば良いのかな。私の特技の霊視を生かせる仕事は、心霊探偵か宮廷魔術師だもの)


 ――イングリス王国がある限り一生安泰の職場だ。

 ――超一流の勤め先だよ。


 宮廷魔術師の表向きの仕事である天文官を高評価するピコの声が、ファウスタの背中を強力に押した。


(宮廷魔術師になれるなら、それを仕事にしよう。宮廷魔術師になればお嬢様も喜んでくださる。宮廷魔術師の仕事をしながら、超能力の研究をして、自分のやりたいことも探せば良いんだわ!)


 ファウスタは今後の人生についての回答を出した。

 しかしそこで、重大な問題を思い出した。


(……宮廷魔術師の仕事って、本当にあるのかしら……?)


 オクタヴィアは宮廷魔術師はいると言っていた。

 しかしピコは宮廷魔術師の存在を疑っていた。


 宮廷魔術師が存在しなかったら、ファウスタが考えた人生設計は崩壊してしまう。

 ファウスタが考えた人生設計は、宮廷魔術師という職業が存在することを前提としているからだ。


 アトランチス誌というオカルト専門誌に宮廷魔術師がいると書かれていたらしく、オクタヴィアはその記事を信じているが、ピコは信じていないようだった。

 宮廷魔術師についてのアトランチス誌の記事が真実かどうかを確かめるには、王立天文台を調べなければならないのだろう。


(プロスペローさんは宮廷魔術師だったのだから、プロスペローさんに聞けば解るかしら?)


 窓の外では、夏の夜がしんしんと更けている。

 ランプの明かりに照らされた物書き机に向かい、考えを巡らせていたファウスタは、一度は置いた羽根ペンを再び手にした。


 日記帳の新しいページを開き、ファウスタは羽根ペンを走らせた。


 ――今日はお嬢様のお茶会で、ジゼルとピコと話しました。

 ――家を買うことをジゼルとピコに相談しました。

 ――自分の家はまだ買わないことにしました。


 今日の出来事を綴った後に、ファウスタは覚え書きを記した。


 ――超能力の研究をする。

 ――自分がやりたいことを探す。

 ――宮廷魔術師を調べる。






 ファウスタが、霊能者ファウスタとして、依頼者である有名霊能者シャールラータンに会う日。


「ユースティスさん、お願いがあるのです」


 その日、霊能者ファウスタの漆黒の装いで馬車に乗り込んだファウスタは、付き添いのユースティスに言った。


「うん。何でも言ってごらん?」


 黒の上下に、シャツの襟元には細いリボン・タイを結んだ姿で、灰金髪(アッシュ・ブロンド)の吸血鬼の少年ユースティスはにこやかに微笑んだ。


 心霊探偵の仕事中は、ユースティスは認識阻害のマントで姿を隠して付き添うことになっていた。

 そのため人間の目を気にする必要はなく、装いにこだわる必要もないのだが、彼は今までどおり、小姓の装いから外出用のきちんとした装いに着替えてファウスタに付き添っていた。


「プロスペローさんとお話しがしたいのです。仕事が終わったあとに時間をとっていただけませんか?」


(宮廷魔術師について調べなければ……!)


 ファウスタが真剣な眼差しでそう願い出ると、ユースティスの微笑は、貼り付けたような、偽物めいた微笑に変った。


「……プロスペローに、何の話があるのかな?」


(ユースティスさんのこの笑顔は……不機嫌なのだわ)


 ファウスタは首を縮めた。

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