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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第6章 大占い師と予言の詩

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514話 空っぽのファウスタ

(霊能者は、目標とは違う……)


 ファウスタはお金を稼ぐために心霊探偵の仕事をして、結果的に霊能者になったが、それはファウスタの目標ではなかった。


 ファウスタの目標は家を買うことで、家を買うために三万ドログを稼ぐことだった。


 子供の身で今すぐに家を買うことは結果的に損をすることになると、親友たちの説明を聞いて解ったので、今はまだ家を買わないことに決めた。

 だが目標の金額を貯めることができたので、ファウスタの目標は達成されたと言える。


 そのファウスタの達成された目標は、しかし、ジゼルやピコが目指している目標とは種類が違う。


 ジゼルは料理人を目指して騎士爵に成りあがる計画を立てている。

 ピコは学位を取るために大学入学資格試験を目指して勉強している。


 オクタヴィアだって占い師になるために勉強をしていて、その第一歩として占いサロンを開くことを計画している。


 ジゼルやピコやオクタヴィアの目標は、将来やりたい事で、どんな大人になるかという目標だ。


 みんなの夢が叶ったら、ジゼルは有名料理人として騎士爵になり、ピコはおそらく学者か議員になり、オクタヴィアは占い師になる。


 しかしファウスタは、家を買うお金を貯めるという夢が叶ったが、ただのファウスタのままだ。

 何者にも成れていない。


(家を買うことが目標だったけれど……)


 みんな将来の目標があって、何かに成ろうとして邁進している。

 ジゼルもピコもオクタヴィアも何かに成るために現実的な計画を立てて必要な修行をしている。

 それなのにファウスタには何かに成ろうという目標が何も無い。


 ファウスタはオクタヴィアのサロンに協力する約束をしていて、そのために作法やタロット占いの勉強を頑張っているが、それはオクタヴィアのやりたいことだ。

 ファウスタの目標ではない。


 ファウスタは今、霊能者ファウスタとして有名になった。

 だが霊能者ファウスタの実績は魔物たちの力で作られたもので、ファウスタは霊能者ファウスタを演じただけだ。

 それは魔法で大きく引き伸ばされた幻影の怪獣たちと同じで、大きくて凄そうなものに見えているだけの実体の無い幻だ。

 本当のファウスタは、ちっぽけな子供のファウスタでしかない。


 だからマークウッド辺境伯が心霊探偵社を終了したらファウスタは心霊探偵ではなくなったし、ティムの気が向かなければ霊能者として働くことはできない。


 四万ドログの大金は手にしたが、ただのファウスタには何の力もない。

 お金はあっても、大人の助けがなければ家を買うこともできない。


 本当のファウスタは、ただのちっぽけな子供のファウスタなのだから。


(私にはまだ何の力もない……)


 ジゼルもピコもオクタヴィアも、目標に向かうために修行をして、自分の力で道を進んでいる。

 着々と自分の力をつけて、自分のものにしている。


 ファウスタは知らないうちに船に乗せられ、魔物たちの強力な力により物凄い早さで知らない方向にどんどん進んで、有名人になり大金も手にした。

 だがファウスタはその船の目的地を知らず、右も左も、前に進んでいるのか、後ろに戻っているのかも解らなかった。


 そもそもファウスタには目標が無く、どこへ向かえば良いのか解らないのだから、右も左も前も後ろもない。


(私、空っぽだわ……)


 自分が何の力も持っていないばかりか、成りたいものも目標もないことに気付き、ファウスタは愕然とした。


 オクタヴィアはファウスタより二歳年上だったので、オクタヴィアがファウスタよりも色々なことを考えていて、ファウスタよりも先に進んでいるのは当然だと思っていたので今まで気にしていなかった。

 メイドのアメリアには家政婦長(ハウスキーパー)になるという目標が、テスにはお菓子の店を経営するという目標があったが、彼女らもファウスタより年上だったので、ファウスタとは違うことを考えていても当然のように思えていた。


 だが同い年のジゼルと、一歳年下のピコも、ファウスタより先に進んでいて、すでにファウスタとは違う世界を見ていたのだ。

 ファウスタだけがずっと同じ場所にいて、今でも同じ風景を見ていて、ひとりだけ取り残されていた。


(みんな、私よりずっと先を歩いている……)


「宮廷魔術師って現代にもいるんですか?」


 思考の海に沈んでいるファウスタを他所に、ピコが賢しげな眼差しでオクタヴィアに質問した。


 オクタヴィアは自信満々の笑顔で答えた。


「いるわよ」

「政治が議会制になってから、宮廷魔術師や宮廷道化師みたいな必要の無い官位は全て廃止されたと本に書かれていましたが……」


 ピコは歴史本を根拠に疑問を提示したが、オクタヴィアは堂々と答えた。


「表向きは廃止されたけれど、宮廷魔術師は今でも王立天文台にいるのよ。天文官ってことになっているけれど、密かに国防のために魔術儀式をしているの。アトランチス誌に書かれていたわ」

「アトランチス誌って……オカルト専門誌ですよね?」


 ピコが戸惑いを浮かべながら言葉を選ぶようにして質問すると、オクタヴィアは得意気な笑顔で説明を始めた。


「そうよ。でも信憑性のある話だわ。中央区の五つの火の見櫓(ひのみやぐら)を点として、それらを線で繋げると、五芒星の形になるの。明らかに魔術的に計算されて建てられているのよ。今でも政治に魔術師が関わっている証拠よ」


 オクタヴィアは訳知り顔で不敵な笑みを浮かべた。


「それに天文台はもともとは魔術師たちに星を観測させるために建てた塔だったんですもの。それまで居た魔術師が急にいなくなるわけない。現代では、天文台で自然科学者たちが天体や天候の観測をしているけれど。実は秘密の部署があって、現代の宮廷魔術師はその秘密の部署で働いているのよ」


 そう解説したオクタヴィアは、ファウスタを振り向いて期待に満ち溢れた笑顔で問いかけた。


「そのうちファウスタは天文台の魔術師候補として王宮に招待されるかもしれないわね。だって王都で一番の霊能者になったんですもの。女王陛下が直々に、ファウスタに天文台の秘密を打ち明けてくださるかもしれないわ」


 オクタヴィアは素敵な夢を見ているかのように、瞳を星のように煌めかせた。


「もし誘われたら、ファウスタはもちろん宮廷魔術師になるわよね?」

「……私は……」


 ファウスタはどんよりと曇った表情で、俯いたまま答えた。


「私は魔法は使えないので、魔術師にはなれないと思います……」


 ファウスタが知っている魔術は、魔物たちが行っていたものだ。


 ファウスタは、タニスのようにたくさんの鬼火を出したりできないし、プロスペローのように雪を降らせたりもできない。

 ユースティスのように催眠術を使ったり風を吹かせたりすることもできない。

 瞬間移動もできないし、空も飛べない。


「ファウスタほど幽霊や魔法陣が視える者は滅多にいないわ」


 オクタヴィアは嬉々として語った。


「呪いも視えて浄化もできるんですもの。ファウスタはきっと魔力(エーテル)量が多いのよ。ファウスタが魔術儀式を行えばきっと凄い効果があるわ。エーテルは魔術の才能だもの」

「私は魔術儀式のやり方を知らないので、できないと思います」

「儀式のやり方は天文台で教えて貰えるんじゃないかしら。大魔術師プロスペローの防護魔法の儀式は代々の宮廷魔術師が受け継いでいるのよ」

「え?!」


 知っている名前が出て来て、ファウスタは顔を上げた。


(大魔術師プロスペローって……プロスペローさん?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 友人たちが将来の進路や計画を語っているのを聞いたら、焦りますよね。
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