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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第1章 ファンテイジ家の使用人たち

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50話 変化の朝

(吃驚しちゃうよね……怖いお人形が飛び出すんだもの)


 箱から飛び出したナスティ人形に驚き、腰を抜かしてソファの上にひっくり返ったマークウッド辺境伯に、ファウスタは深く同情した。


 オクタヴィアはマークウッド辺境伯の反応に大満足のようで、口元を両手で押さえて忍び笑いをしている。


「ファウスタ、この箱はどこで手に入れたのかね?!」


 家令アルカードと近侍ルパートに助け起こされ、立ち直ったマークウッド辺境伯はやや興奮気味にファウスタに質問した。


「お嬢様にいただいたのです」


 申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、ファウスタは答えた。


「オクタヴィアに?!」


 マークウッド辺境伯はオクタヴィアを振り向いた。


「オクタヴィア、どういう事かね?」

「ファウスタがバネ式の仕組みのお勉強をするために作った箱なの。とってもよく出来ているでしょう」

「勉強道具なのかね?」

「そうよ。バネ式の仕組みが一目で解るのよ」

「ふうむ……」


 マークウッド辺境伯は興味深そうに、人形を箱に押し込めて蓋を閉め、手を離してビヨンと飛び出させた。


「なるほど、なるほど、バネ式で蓋が自動で開くのだね」


 仕組みを確認するように何度も人形を飛び出させ、マークウッド辺境伯は感心するように唸った。


「ヴァネッサはこの箱を知っているのかね?」

「いいえ、お母様にはまだ見せてないわ」


 オクタヴィアが答えると、マークウッド辺境伯は悪戯っぽくニヤリと笑った。


「ファウスタ、この箱をしばし私に貸して貰えるかね?」

「はい」

「この愉快な勉強道具をヴァネッサにも見せるのだよ」


「閣下、そろそろお仕度をなさいませんと……」


 マークウッド辺境伯の予定を管理する近侍ルパートが、少し困ったような表情を浮かべて意見した。


「何、五分ほどだ。見せに行くだけなのだよ。着替えを用意して部屋で待っていてくれたまえ。すぐに戻る」


 楽しい遊びを見つけた子供のようにうきうきした笑顔でそう言ったマークウッド辺境伯に、ルパートとアルカードは微妙な表情になり目配せをし合った。


「よし、ではヴァネッサの部屋へ行くのだよ」


 マークウッド辺境伯は箱を持つと意気揚々とソファから立ち上がり、オクタヴィアとファウスタに良い笑顔を向けた。


「もちろん君たちも一緒に行くだろう?」

「もちろんよ!」


 マークウッド辺境伯とお揃いの良い笑顔でオクタヴィアが即答した。






「やあやあ、ヴァネッサ、先刻(さっき)ぶりだね」


 ファウスタはオクタヴィアと一緒に、マークウッド辺境伯に付き従い辺境伯夫人ヴァネッサの部屋を訪れた。


 ヴァネッサの部屋には、三人の侍女たちと、薄い灰色のドレスの恰幅の良い夫人がいた。


(厨房の方だったかしら)


 恰幅の良い夫人は、使用人食堂(サーバンツホール)で使用人一同にファウスタが紹介されたとき、青い縦縞模様(ストライプ)柄のドレスのメイドたちを堂々と引き連れ、アルカードと頷きあっていた夫人だ。


「……どうなさったの?」


 にこにこの笑顔で部屋を訪れたマークウッド辺境伯と、その後ろに付き従うオクタヴィアとファウスタを交互に見やり、辺境伯夫人ヴァネッサは訝し気に眉を顰めた。


「うむ、少々見せたいものがあったのでね、持って来たのだよ」


 マークウッド辺境伯はしれっと、何でもない風を装ったすまし顔で言った。


「ハミル夫人もぜひ見て行ってくれたまえ」

「……ご配慮ありがとうございます」


 灰色のドレスの夫人は一瞬戸惑うような微妙な表情をしたが、恭しく使用人の礼をした。


(このお方が! 年棒五千ドログのハミル夫人!)


 昨夜アメリアとテスが話していた、この屋敷の女性使用人の中で最も高給で雇われているというハミル夫人に、ファウスタは羨望の眼差しを向けた。


「ヴァネッサ、そこへ座ってくれたまえ」


 マークウッド辺境伯は、ヴァネッサにソファに座るよう促すと、彼女の目の前のテーブルに箱を置いた。

 もちろん箱の留め金とヴァネッサが向かい合うようにだ。


「ハミル夫人もソファに座りたまえ。皆もこちらへ来て、そちら側に回ってくれたまえ」


 マークウッド辺境伯は、ハミル夫人や侍女たちに指示を出し、テーブルの上の箱が正面からよく見える位置に誘導した。


「さあ、ヴァネッサ、その箱の留め金を外してみてくれたまえ」


 マークウッド辺境伯がわくわく顔でヴァネッサに言った。

 オクタヴィアもお揃いのわくわく顔でヴァネッサを見ていた。


(奥様、申し訳ありません……)


 飛び出すナスティの恐怖を知るファウスタは、これから起こることを予想し、罪悪感に胸が痛くなり拳をぎゅっと握りしめた。


「……これですか?」


 ヴァネッサは首を傾げながら、箱の留め金を外した。


 ――ぱん!


「きゃっ!」

「ひっ!」


 留め金を外した途端、例によってナスティ人形が飛び出し、女性たちのほぼ全員が反射的に身を縮め、一斉に悲鳴を上げた。

 美貌の侍女ミラーカ一人だけは平然としていて、少し困ったような顔で微笑んでいた。


「……これは……」


 すぐに事態を把握したヴァネッサは、箱から飛び出しビヨンビヨン揺れているナスティ人形を凝視しながら呻くように呟いた。


「これ……これ、はっ!」


 ヴァネッサはプッと吹き出すと、口元を手で隠し笑い始めた。

 崩れるように笑い転げ始めたヴァネッサに、マークウッド辺境伯はしてやったりとばかりに得意気に言った。


「驚いたかね? 驚いたろう? 私も驚かされたのだよ! あっはっは!」


 驚愕に目を見開いていたハミル夫人も、侍女のヘンリエタとネルも、口元を手で隠したり両手で顔を覆ったりしながら堪えきれずに肩を揺らして笑い出した。


「ミラーカは驚かないのだね?」


 少し残念そうにマークウッド辺境伯がそう言うと、ミラーカは艶然と微笑んだ。


「私はその箱の制作に関わっておりましたので、仕掛けを知っていたのです」

「おお! 君が作ったのかね?!」

「仕掛けを作ったのはバーグマン氏ですわ。私とネルは人形の制作に関わっております」

「そうだったのか! いやはや、大したものだ。バネ仕掛けでこんな愉快な勉強道具を作るとはね。子供が工作技術に親しむにはもってこいの玩具なのだよ」


 マークウッド辺境伯は箱の出来栄えを絶賛した。

 ヴァネッサはすっと真剣な顔になり、鋭い眼差しでマークウッド辺境伯に質問した。


「勉強道具とは、どういう事なのですか」

「ファウスタがバネ式を勉強するための箱なの!」


 オクタヴィアが得意気に説明した。


「これを見れば、バネ式で物が動く仕組みが一目で解るのよ」

「うむ、バネの性質を生かした衝撃的な箱なのだよ。勝手に蓋が開く怪奇現象に吃驚するのだ。しかしすぐに仕掛けが解る。秀逸なのだよ」


 浮かれ気味に語るマークウッド辺境伯とオクタヴィアを前に、ヴァネッサは何か別の事を考えているかのように少し目を伏せた。

 そして再び顔を上げるとマークウッド辺境伯に向けて言った。


「今日は議会の日だったのではなくて?」


 マークウッド辺境伯は、はっと気付いたような顔をした。


「しまった! ルパートを待たせているのだよ! すまないが、私は行くのだよ!」


 マークウッド辺境伯は大慌てで、風のように去って行った。


(やっぱりティムさんに似てるのだわ)


 マークウッド辺境伯の後ろ姿を見送りながらファウスタは思った。






 この日の夜、バネ式人形の箱の制作に関わった者たち全員がヴァネッサに呼び出される事になる。

 今日もまた大きく運命が変わろうとしている事に、ファウスタはさっぱり気付いていないのだった。

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