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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第1章 ファンテイジ家の使用人たち

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47話 メイドたちの朝

 早朝、ファウスタはアメリアとテスに起こされた。

 何故かデボラと、二人の大人のメイドも居て、にっこり微笑んでいた。


「私、ポリーよ。よろしくね」

「私はセイディ。身支度のお手伝いに来たわ」


 自己紹介をした二人のメイドは、洗面器にお湯をそそぎ、ファウスタの洗面の準備を始めた。


「私がネルさんにファウスタの身支度を頼まれたんですけれど……」


 テスが少し不服そうに言うと、二人のメイドは意味深に笑った。


「いいじゃないの、貴女は昨夜たっぷりファウスタとお話ししたんでしょう? なかなか部屋に帰って来なかったわよね?」

「私たちだって悪魔を倒した英雄とお話ししたいのよ」


「英雄だなんて、そんな……」


 ファウスタは身支度を手伝われながら、再び事の顛末を話した。


 ファウスタが話の中で「呪いの人形が……」と言ったところで、デボラがプッと吹き出して、まるでスイッチが入ったかのように笑い出した。


「デボラさん、どうしたんですか?」


 第二家女中(セカンドハウスメイド)という地位に付き、メイドたちの上役を努めるデボラが壊れたように身を折って笑い始めたので、メイドたちと見習いたちは訝し気な顔をした。


「に、人形、が……!」


 デボラは呼吸困難のように笑いながら言葉を発した。

 彼女は自分の笑いを止めようとしてか、両手で顔を覆った。


「ごめんなさい、バーグマンさんが持って来た人形を、思い出してしまってっ!」


 そこまで言うと、デボラは再び笑いの発作を起こした。

 メイドと見習いたちは首を傾げてその様子を見守った。


「バーグマンさんが持って来た人形って、ナスティという人にそっくりだというバネ式の人形の事でしょうか」


 ファウスタがそう言うと、皆が一斉にファウスタに注目した。


「そう! ……それよっ!」


 笑いながらデボラは、ファウスタに相槌を打った。

 デボラは必死に呼吸を整え、ようやく自分の笑いの発作を治めた。


「ファウスタはナスティを知らないから解らなかったでしょうけれど、あの人形は本当にナスティにそっくりだったのよ。もう可笑しくてっ!」


 デボラはまた吹き出し、慌てて口を両手で覆うと肩を震わせた。


「そんな人形があるんですか?!」

「えー、見たいなー」


 メイドたちは興味津々になった。


 デボラはファウスタの着替えを手伝いながら、それがネルが作った人形である事や、今日の朝食後にバーグマンが改造した人形を再び持って来る事などを話した。


「どんなものが出来上がるのか、実は私もすごく楽しみにしているの」


 デボラは期待するように目を輝かせて、ファウスタに言った。


「でもお嬢様の前ではしたない姿を見せないように、今日は一層気を引き締めなければならないわ。人形の家(ドールハウス)からナスティが飛び出したら絶対に笑ってしまいそうだもの。気が抜けなくてよ」


 デボラの話にメイドたちは頷き合い、口々に感想を漏らした。


「それは笑うわ」

「ネルさんの作った人形見たいなー」

「どのくらい似てるのかしら」


 メイドたちのおしゃべりに、ファウスタは気持ちが和むのを感じた。

 孤児院で何人もの子供たちと一緒に生活していたファウスタは、軽いおしゃべりが飛び交うワイワイした雰囲気にほっとするのだ。


「さあ出来たわ。とっても可愛いわよ」


 ファウスタの身支度を終えてデボラがそう言うと、アメリアがすかさずさっと動いて置き鏡をファウスタの前に持って来た。


(これが私!)


 鏡に映った自分を見て、ファウスタは軽い衝撃を受けた。

 憧れの薄紅色のドレスに、フリルのエプロン、結い上げた髪にモブキャップ。

 そしてすっかり変わってしまった目は、黄色に近い茶色の中に、星のようにギザギザした緑がかった空色の染みがある。


(本当にこれは私なのかしら……)


 昨日の自分とは随分と変わった気がして、ファウスタは不安になった。


「ファウスタ可愛いー!」


 テスがファウスタの姿をうっとりと眺め、感想を漏らす。


「それで髪を垂らしてリボンを結べば、どこかのご令嬢みたいだよー」

「そりゃあそうよ。元はお嬢様の服ですもの」


 鏡を手に持ちファウスタの姿を映しているアメリアが冷静に言った。






「昨日はランプの光のせいで違う感じに見えてるのかと思ったけれど、ファウスタの目、なんだか随分変わった気がするわ……」


 ファウスタを送り出した後、アメリアとテスはおしゃべりをしながら、いつもの使用人食堂(サーバンツホール)の掃除に向かった。


「ファウスタは成長期なのよ」


 テスは特に何も気にしていないようで笑顔でそう答えたが、アメリアは釈然としないようで考え込むような顔をした。


「ねね、アメリア、ファウスタは侍女見習い(ウェイティングメイド)になっちゃったから、新しい見習い女中(トゥイーニー)がまた来るのかしら」

「そりゃあ来るわよ。人手が足りてないんですもの」

「エルザはもう戻って来ないのかなー」


 辞めてしまった見習い女中(トゥイーニー)の名前をテスは言った。


「エルザはもう別のお屋敷で働いているわよ。奥様の紹介状のおかげで、すぐに新しい就職先が決まったらしいわ」

「そっか、それなら安心だね」

「失業するよりはマシでしょうけれど、ここに比べたら給金も安いし、食事もあまり良くないらしいわ」

「ここの食事は美味しいもんねー」

「ナスティのせいでエルザは人生設計を台無しにされてしまったわね。可哀想に」


 アメリアは眉間に皺を刻んだ。


「ナスティがエルザたちを恐喝してたなんて吃驚したよねー。怖いね」

「テスは気付かなかったでしょうけれど、テスも脅されかけてたわよ」

「えっ?! 私が?!」


 アメリアの指摘に、テスは目を丸くした。


「いつ?!」

「ほら、ナスティが言ってたじゃない、私の伯父はグロス男爵よ、って」


 ――私の伯父はグロス男爵よ!

 ――そうなんだー。私の父様はラスウェル子爵だよー。よろしくねー。


「テスのお父様が子爵だって解ったらナスティは黙っちゃったけど。テスがもし庶民だったら、男爵の身分を盾にナスティは脅して来たわよ」

「ええー、男爵なのに?」

「もう、テスったら。男爵だって貴族なのよ」

「それは知ってるけどー。でも男爵だよ?」

「私たちが公爵家に敵わないように、庶民は男爵でも怖いのよ」


 アメリアの説明に、テスははっと気付いたように悲愴な顔をした。


「そっか、そうだよね……エルザ可哀想」

「私も多分脅されてたわよ。気付かなかったけれど」

「ええー、アメリアも?!」


 ――ちょっとあんた、お茶の用意してくれる?

 ――それは私の仕事ではありません。

 ――私の伯父はグロス男爵よ! 貴族に逆らうっていうの!

 ――私の父はしがない騎士爵ですが、私は貴女のメイドではありません。

 ――騎士爵ですって?! 嘘おっしゃい! 下働きのくせに!

 ――此処はマークウッド辺境伯のお屋敷ですよ?

 ――それが何よ!

 ――下働きにいたるまで全員が身元の確かな者です。

 ――ごちゃごちゃ言ってないでお茶の用意しなさいよ! 下働きでしょ!

 ――マクレイ夫人の許可がなければ、私はお茶の用意はできません。


「最初あの人が何を言っているのかよく解らなくて、酷い世間知らずなのかなって思ったのだけれど。でも後で恐喝の話を聞いて気付いたのよ」

「そんな事あったんだー」

「エルザは茶器を壊したって濡れ衣を着せられてたけれど、私もナスティの言いなりにお茶の用意をしてたらそうなってたかもしれないわ」

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