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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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419話 猫妖精事件

「こ、これは……!」

猫妖精(ケットシー)だ!」


 マグス商会中央区支店は、前代未聞の混乱の中にあった。

 店内に収まりきらないほどの客が集まり、店先には長蛇の列が出来ている。


 マグス商会中央区支店の支店長である魔道士モージは、混乱している店内の状況を見回すと店員に指示した。


「魔術の使用を許可する。使役魔術で人間たちを誘導せよと、皆に伝えろ」

「モージ様?! ……よろしいのですか?」


 マグス商会はオカルト用品店として商売をしているが、それは魔道士ギルドの表向きの看板だ。

 この店の店員たちは皆、魔道士である。


 人間に対して魔術を行使することは、魔物たちの条約で基本的には禁止されているため、店員は戸惑いの色を浮かべた。

 しかしモージは難しい顔をして言った。


「育ちの悪い野次馬どもが集まり始めている。混乱に乗じて盗みを働く者がいるかもしれん」

「た、たしかに、おっしゃるとおりです」


 店員はモージの言葉に頷いた。


「外の人だかりを見て、野次馬も集まって来ております」

「うむ」


 オカルト用品を売るマグス商会の客は、大抵が趣味の品に金を使える余裕がある者、身なりの良い好事家の紳士淑女たちだ。

 しかし今、大混雑している店内には、ちらほらと、マグス商会のいつもの客たちとは毛色が違う身なりの悪い者たちが散見されている。


「使役魔術で人間たちをきっちり従わせろ。混雑による事故を未然に防ぐためであったと言えば、止むを得ない状況であったと認められるだろう。行け!」

「ははっ!」


 店員の背を見送りながら、モージは混乱している店内を半ば茫然としながら見つめた。


(まさかこれほどの事態になろうとは……)


 その日は、終末竜バハムートと大海獣リヴァイアサンの模型の予約開始日だった。


 店内には見本品として模型が飾られ、その模型とともに監修者である霊能者ファウスタの写真も飾られた。

 その写真は、このマグス商会中央区支店で、ファウスタがバハムートとリヴァイアサンの模型を前にして、マグス商会会長バジリスクスと並んでいる記念写真だ。

 しかしファウスタの背後には、異様なものが写り込んでいた。


 その異様なものは、ファウスタよりも小さい幼児のような人型で、猫のような顔と手足と尻尾を持ち、中世の貴族のような服装をしていた。

 それは物語の挿絵などに描かれている猫妖精(ケットシー)そのものだった。

 猫妖精はファウスタの背後の宙に浮いていて、半透明で背景が透けていた。


「本当に猫妖精が写っている!」

「間違いない! これは猫妖精だ!」

「こ、これが、聖少女ファウスタ様の守護精霊!」


 模型の予約に来た客たちは、皆が皆、猫妖精の写真に驚嘆し、そしてあれよあれよという間に店内に入りきらないほどの大勢の客が押し寄せた。


「おお! この場所だ! 写真の場所だ!」

「ここに猫妖精が!」


 王都タレイアンにマグス商会の店舗は五軒ある。

 五軒全ての店舗に、今日からバハムートとリヴァイアサンの模型の見本品と記念写真とが飾られていた。

 他の店舗で写真を見て、写真が撮影された場所が中央区支店であると聞き、ここを訪れた者たちもいるようだった。


「バハムートとリヴァイアサンのご予約はこちらの列にお並びください! 見学だけを希望の方はあちらです!」


 古めかしいフード付きの長衣という、物語に登場する魔法使いのような出で立ちのマグス商会の店員たちが、押し寄せた客たちを必死に整理していた。


「あの、悪魔めが……!」


 モージは苦虫をかみつぶしたように苦渋に顔を歪め、マークウッドの悪魔セプティマス・ファンテイジを呪った。


 写真の猫妖精は、幻影の像を作り出す魔術、幻影術により作られたものだ。

 どういう仕組みで撮影されたかは解らなかったが、猫妖精の像が幻影術で作られていることは、魔道士にはすぐに解ることだった。


 幻影術による像が撮影されている写真を店内に飾る事に、店長を任されている魔道士たちは皆、疑問と難色を示した。

 しかしマグス商会の総支配人である六つ星魔道士ルゴバロスは、その写真はマークウッド同盟の盟主代理セプティマス・ファンテイジにより撮影されたものであり、模型と一緒にその記念写真を飾れというセプティマスの要望があるため、拒否することはできないと店長たちに説明した。

 また魔道士ギルド長バジリスクスが、その写真を店内に飾ることを了承していることもルゴバロスは付け加えた。


(悪魔があの写真をマグス商会の店舗に飾るよう命じたのは、マグス商会を混乱させ、マグス商会の品位を落とすことが目的か?!)


 今後、マグス商会の客には成り得ないような、身なりの悪い者たちが、店内に多数入り込み混乱している状況に、モージは内心で頭を抱えた。






 マグス商会中央区支店の前の通りは、大変な混雑だった。


「君、この人だかりは一体何なのだね?」


 普段であれば、寂れてもいないが賑やかでもない、ゆったりとした時間が流れている通りが、市場でも開かれているかのような大騒ぎとなっていた。

 その様子に興味を引かれた通行人たちの中には、マグス商会の前に集まっている者に事情を尋ねる者もいる。


「マグス商会に心霊写真が飾られているのだ!」

「心霊写真?」

「心霊写真ではない。妖精の写真だ!」


 質問する声、事情を説明する声、真偽を話し合う声などがあちこちで飛び交い、祭りのような大賑わいとなっていた。


「ファウスタ様の猫妖精が撮影されたのだ!」

「何だと?!」

「それは本当かね?!」

「本当かどうか見てみなければ解らん。それを確かめるために並んでいるのだ」


 人々の口から口へ、猫妖精の写真の話が次々と伝わり、マグス商会前の長蛇の列はさらに伸びた。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーそういうことでしたか 意外と店員にはあまり歓迎されてないんですね
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