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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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268話 魔法使いのお茶会(5)

「ハーミア殿のお申し出について、吸血鬼ギルドの顧問として確認したい点がございます」


 ユースティスは貼り付けたような笑顔をバジリスクスとハーミアに向けて言った。


「お申し出の内容は、商品の監修者として『霊能者ファウスタ』の偶像(アイコン)を使用したいという事で相違ありませんか」


「はい。監修者としてファウスタ様のお名前を表記するご許可をいただければ、それで十分でございます」


 ハーミアもまた仮面のような笑顔でユースティスに答えた。


「『霊能者ファウスタ』という偶像(アイコン)の名前を使用したいというお話しであれば、吸血鬼ギルドには反対する理由はありません」


 ユースティスは台本を棒読みするように、無機質な声で淡々と言った。


「ただし『霊能者ファウスタ』という偶像(アイコン)の名前の使用に限るという点にご留意いただきたい。本人は出向いたしません。また『霊能者ファウスタ』として活動するファウスタ・フォーサイス個人の本名、出自、住所などは安全のため秘匿しております。こちらもご協力ください」


「すべて承知いたします」


 ハーミアは提示された条件を二つ返事で飲んだ。


「元より我々も、ファウスタ様のお名前をお貸しいただく以外のことは求めておりません」


(名前を貸すだけでいいの?)


 ユースティスとハーミアの会話から、監修の仕事とは名前を貸すだけであり、審査も演技も必要ないと解ってファウスタは少し不安になった。


(何もしないで、本当に一千ドログ貰えるの?)


「ご理解に感謝いたします。安全対策にご同意いただけましたので、偶像(アイコン)の使用についてはファウスタ本人の判断に任せたいと思います」


 ユースティスはそう言い、ファウスタに顔を向けた。


「ファウスタ、あとは好きに決めて良いよ」


(ユースティスさんが良いって言ってるんだから、大丈夫……だよね?)


 ユースティスの仕事用の笑顔に一抹の不安を感じながらも、ファウスタはハーミアと話しをするべく正面を向いた。


「あの……質問があるのですが、良いでしょうか」

「はい。何なりとご質問ください」


 ハーミアはにこやかな笑顔を浮かべた。


「私は名前を貸すだけで、何もしなくて良いのですか?」

「はい。お名前をお貸しいただくだけで充分でございます」

「それで、あの……名前を貸すだけで……」


 ファウスタは自分のはしたなさに恥じ入りながらも、一番気になっている部分を口にした。


「それで一千ドログをいただけるのですか?」

「はい。お名前をお貸しいただければ一千ドログお支払いいたします」

「名前を貸すだけで、どうしてそんなにお金が貰えるのですか?」

「霊能者としてご活躍中のファウスタ様のお名前には、それだけの価値があるのでございます。ファウスタ様はすでに『聖少女』と称えられる有名人でいらっしゃいます。お名前には宣伝力があるのです」

「私の名前に、そんな宣伝力があるでしょうか……」


(美人じゃないのに……)


 悲しい理由からの疑問を、ファウスタは心の中でだけ呟いた。


 商品の宣伝のための広告には、華やかな容姿の美人女優や美人モデルが使われるということをファウスタは知っていた。


 ファウスタはありふれた茶髪で、最近少し瞳の色が変わったとはいえ、美人でも可愛くもなく、孤児院では養子を求める大人たちに一度も振り向かれたことのない地味な子供だったのだ。


「私の名前を宣伝に使って、もし売れなかったら……。そのときは一千ドログはお返しするのでしょうか」


 ファウスタが恐る恐る尋ねると、ハーミアはふっと笑みを零した。


「一千ドログはお名前をお貸しいただくという契約の料金ですから、商品の売り上げは関係ございません。契約した時点で一千ドログはファウスタ様のものです。如何でしょう」


 ハーミアは自信に満ちた余裕の表情でファウスタに問いかけた。


「監修者としてお名前をお貸しいただけるでしょうか」

「はい」


 ユースティスの了解を得て、お金についての疑問も解消され、ファウスタはハーミアに肯定の返事をした。


「監修者として名前をお貸しします。ハーミアさん、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします。ファウスタ様のご厚意に感謝いたします」


「おお……」


 ファウスタとハーミアの話がまとまった様子を見て、バジリスクスが歓喜の声を漏らした。


「ファウスタ様、バジリーからもお礼を申し上げます。ファウスタ様のお力添えがあればマグス商会は百人力です」


 バジリスクスは大喜びの表情でファウスタに感謝を述べた。


「ファウスタ様の宣伝力をもってすれば商品の大売れは間違いありません! バジリーはマグス商会の会長として感謝感激でございます。ありがとうございます。本当にありがたいことです。ファウスタ様はマグス商会の救世主です。王都で話題沸騰の『聖少女ファウスタ』様にご協力いただけるなんて、夢のようです!」


 大げさな礼を述べるバジリスクスの高揚した声に、ユースティスの冷たい声が続いて空気を冷やした。


「契約についてですが……」


 ユースティスはバジリスクスとハーミアを交互に見ると、冷ややかな声で具体的な契約の手順を述べた。


「マグス商会からレグルス心霊探偵社への依頼としてお申込みください」

「心得ております」


 ハーミアが得たりとユースティスに頷いた。


「商品の監修の依頼としてレグルス心霊探偵社に申し込ませていただきます」

「ファウスタとの契約は、レグルス心霊探偵社の所有者(オーナー)であるマークウッド辺境伯の了解を得た後となります。少々お時間をいただくことに……」


 ユースティスとハーミアが事務的な相談に入った。

 そのとき。


「話は聞かせてもらった!」


 突然、威勢の良い声が背後で響いた。


(ティムさん?!)


 隣りのテーブルにいたティムが、ファウスタたちのテーブルにばっと駆け寄って来た。


(また荒れてしまうのだわ……!)


 ファウスタは瞬時に災厄を予感して、びりっと緊張した。

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