267話 魔法使いのお茶会(4)
「私が……ですか?」
思いがけないハーミアの申し出に、ファウスタは戸惑った。
(マグス商会の新商品に、私が協力なんて……できるかしら?)
マグス商会には綺羅星のような素敵な品が沢山あった。
美しい装飾の施された杖や剣。
綺麗な石がはめ込まれたブローチやピン。
何に使うのか解らないがピカピカしていて素敵な器具。
たくさんのカードや本。
良い香りの魔除けの草花香。
だがファウスタは自分にはそれらの品を作ることは出来ないと思った。
ファウスタには工芸技術も草花の知識もない。
日記を書いて文章の練習はしているが、知識がないので魔法や超能力の本など書けない。
(超能力カードの絵なら描けるかな?)
超能力カードに描かれていた丸や四角なら描けそうだとファウスタは思った。
マグス商会の商品を作る手伝いで、自分に出来そうなのはそれしかないと。
(私がお手伝いできるとしたら絵を描くことだわ)
だがハーミアはファウスタの予想とは全く違うことを語り出した。
「これはファウスタ様にしか出来ないことにございます」
ハーミアはおだやかに微笑んだ。
「私はこの度、終末竜バハムートと大海獣リヴァイアサンの模型を作り、マグス商会にて売り出す予定にございます。その商品の監修をファウスタ様にお願いしたいのです」
「かんしゅうとは何でしょう」
聞いたことのない単語にファウスタは首を捻った。
「監修とは、仕事の監督をすることにございます。模型の出来栄えを見て、本物のバハムートとリヴァイアサンに似ているかどうか、審査していただきたいのです」
「私が審査するのですか?」
「はい。ファウスタ様はバハムートとリヴァイアサンを相手に戦った唯一のお方。バハムートとリヴァイアサンを最も良く知るお方です。ファウスタ様以外に、本物と似ているかどうかの審査ができるお方はおりません」
「ご、誤解です……!」
バハムートとリヴァイアサンは、タニスとプロスペローが魔術で作り出したものだ。
インチキなのだ。
「あれはタニスさんとプロスペローさんが魔法で作った怪獣です。タニスさんとプロスペローさんのほうが詳しいです。私は演技しただけなのです」
「存じ上げております」
ハーミアはファウスタの種明かしに全く動じずに微笑んだ。
(知っているのに、どうして?)
「あのバハムートとリヴァイアサンの正体が、タニスが作った模型であることは存じております。私はその模型を量産して売り出す予定でございます。タニスとプロスペローの了解は得ております」
「それなら、私の審査などいらないのではないでしょうか?」
怪獣を作った本人たちが了解しているのだ。
ファウスタは自分の出番などどこにも無いように思った。
「あの怪獣たちの正体が模型であることは、人間たちには秘密のことです。ですから人間たちにとっては、ファウスタ様こそがバハムートとリヴァイアサンに実際に相対した人物なのです」
(そっか。魔法のことは秘密だから……)
人間たちには魔術のことはもちろん、魔物の存在自体が秘密だ。
魔物は人間社会で自分を表に出して目立つ活動をすることは出来ない。
もし写真に撮影されてしまったら魔物であることがバレてしまうからだ。
そういった事情で、あの警視庁の怪奇現象を解決する仕事には、いつもの頼もしい魔物たちは表立って参加することができなかった。
だからこそファウスタが心霊探偵として事件を解決する役を演じたのだ。
ファウスタはハーミアの話を自分なりに理解した。
「私がタニスさんとプロスペローさんの代役で、審査した演技をするということでしょうか」
「はい」
ファウスタの理解に、ハーミアはにっこりと微笑んだ。
「監修の仕事をご了承いただけるなら、監修料金として一千ドログをお支払いいたします」
急に目の前に、大金の話が降って来た。
(っ!)
ファウスタの心臓は跳ね上がった。
(一千ドログっ!)
ファウスタは銀行に三千ドログ以上の預金があるので、一千ドログはファウスタにとってすでに現実的な金額だ。
手の届かない幻想の大金というわけではなかった。
しかし大金には違いない。
地道にメイドの仕事で一千ドログを稼ごうとしたら一年以上はかかるのだ。
タニスとプロスペローの代役として、審査をしたふりをするだけで一千ドログの報酬が手に入るなら、それはとても美味しい儲け話だ。
(このお仕事、引き受けたいのだわ。でも審査だけで一千ドログなんて……)
ファウスタの心は、欲望と警戒の狭間で大いに揺れた。
ファウスタは『上手い話には裏がある』という諺を知っていたし、最近では「有名になったら変な人も来るから気を付けなさい」と何かにつけアメリアに注意されたりもしている。
やたらプレゼントしたがるバジリスクスは、アメリアが言っていた「変なおじさん」に当てはまるような気もした。
ファウスタは判断に迷い、ちらりと、隣に座るユースティスの顔色を伺った。
ユースティスはずっと考えるような顔をして無言でファウスタたちの話を聞いていたが、ファウスタの視線に振り向いた。
「ファウスタは、その仕事を受けたいの?」
どこか脱力したような表情でユースティスがファウスタに問いかけた。
(引き受けてもいいのかしら?)
いつもと少し違うユースティスの反応に、ファウスタは答えを飲み込んで思考をめぐらせた。
(何か試されている……?)
ファウスタは正解を探ろうとしたが、さっぱり解らず諦めた。
(国際大学入学資格試験に合格するほど頭が良くて、百歳以上で、何でも知っているユースティスさんが何を考えているかなんて、私に解るはずがないのだわ)
「はい。私に出来ることなら、引き受けたいです」
ファウスタは率直に答えた。
(もし危ないことだったら、ユースティスさんがきっと教えてくれるよね)




