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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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266話 魔法使いのお茶会(3)

(ユースティスさんの家って何かあるのかしら)


 もしファウスタが歴史について学んでいたならば、エステルヴァインという家名に心当たりがあったかもしれない。

 だが自国の歴史すら良く知らないファウスタは、亡国の王家の家名など知る由もなかった。


「バジリスクスって名前も言わない方がいいだろ」


 ティムは皮肉っぽく口の端を歪めて笑うと、偉そうな態度で言った。


「バジリーだって人間としてバジリー・スミスだか何だかって言う偽名で生活してんだから」

「……バート・マグスでございます」


 バジリスクスが引きつった笑顔でティムの間違った偽名を訂正した。


「それだ」


 ティムはバジリスクスをびしっと指差しすると、今度は反対側の席のユースティスに言った。


「バジリーって普段から愛称で呼んどいたほうが外で会った時に混乱しないだろ。愛称ならちょっと変わってても不自然じゃないからな。お前らは人間として外で会うこともあるんだから少しは考えろよ」


 ティムは尊大な態度でユースティスに説教をすると、悠然とお茶のカップに手を掛けてコップで水を飲むようにぐいと一気に飲み干した。


 ――張り詰めたような沈黙が流れた。


 ユースティスは笑顔のまま無言で凍り付いている。


(こ、怖いのだわ……)


 明らかにぎくしゃくしている雰囲気に、ファウスタは戦々恐々として皆の様子を見回した。


 そのとき。


「ティム、少しは察しろよ」


(……!!)


 突然、銀髪金目の狼男ドリーがファウスタの視界に出現した。


 彼はファウスタの正面の席に座るティムの背後に、突然ぱっと現れたのだ。


瞬間移動(テレポーテーション)?!)


 オクタヴィアから教わった超能力の種類についての知識が、ファウスタの脳裏に閃いた。


「そういうのはお茶会の席で話すことじゃないぞ」

「言っといたほうが良いことだろ」


 ティムが不服そうな顔で反論すると、ドリーは皮肉っぽい笑顔を浮かべた。


「堅苦しい話は会議でいくらでもすればいいさ。ティムが会議を開きたがってるってドラキュリアに奏上してやるよ」

「……会議はいらん」


 ティムは少し顔色を変えた。


「そうか? 言っておいたほうが良いことなら、ちゃんと会議を開いて通達したほうがいいぞ」

「べ、別に、そこまでするようなことじゃないから……」


 ティムはしどろもどろになり、何かを恐れているかのように挙動不審になった。


「マークウッドの盟主代理!」


(タニスさん?!)


 今度はタニスが、ティムの傍らにぱっと現れて声を上げた。

 ティムとドリーが同時にタニスを振り向く。


「ご用命にあずかっておりました保護眼鏡(ゴーグル)を本日お持ちいたしました!」


 タニスは膝を折り、手に持っていた包みをティムに恭しく捧げた。


「お! 出来たのか!」


 ティムは今までの話を一瞬で忘れたかのように、ぱっと顔を輝かせてタニスから包みを受け取り、乱雑に包みを開け始めた。


「ファウスタ様」


(……っ!)


 急に右隣で声がしたのでファウスタは振り向いた。

 そこには闇落ちした司祭のようなプロスペローが、満面の笑顔を浮かべて傅いていた。


(い、いつの間に来たの?!)


 何の気配もなく突然、隣に居たプロスペローに、ファウスタは吃驚仰天して息を飲んだ。

 プロスペローが現れた場所は、ファウスタとユースティスの席の間だった。

 しかしユースティスは全く驚いておらずプロスペローに目もくれない。


(みんな瞬間移動(テレポーテーション)ができるの?!)


 ドリー、タニス、プロスペローの瞬間移動を次々と目の当たりにして、ファウスタの頭は大混乱した。

 隣のテーブルの四人が全員こちらに来てしまったので会話も大混乱している。


 ティムは保護眼鏡(ゴーグル)を前に完全に意識が切り替わったのか、タニスと二人でわちゃわちゃと話し始めており、それにドリーが相槌を打っていた。


「こちらの氷菓(アイスクリーム)をぜひご賞味ください」


 落ち着き払った声でプロスペローはファウスタに言った。


 プロスペローはテーブルの上の、小ぶりな硝子(ガラス)の器に入った薄紅色のクリームの塊を示した。


「実は私は氷魔術を使い、氷業を営んでおります。この氷菓に使われている氷は私の会社で作ったものなのです」


 ファウスタは目まぐるしく変わる状況に思考が追い付かず、口をはくはくさせていたが、プロスペローはいつもの笑顔で平然と説明をした。


 そしてプロスペローはユースティスの方に顔を向けた。


「ユースティス様も、どうぞこの氷菓をお召し上がりください。我らの氷魔術をぜひご堪能あれ」


 そう言いプロスペローは再びファウスタのほうを向いた。


「さあファウスタ様も、ぜひぜひ」


 雑談に混沌とする中で、少し前までの緊迫していた話題は完全に流されて行った。






「私はバート・マグスと名乗り、マグス商会の商会長として人間社会で働いております」


 バジリスクスは偽名と人間社会での仕事について語った。


 少し前の混沌は収まり、テーブルにはゆったりとした時間が流れている。


 席替えが行われ、ティムが隣のテーブルに移り、代わりにハーミアがこちらのテーブルに来ていた。


 ティムが移動して行った隣のテーブルは何やら賑やかになり、ティムが得意気に写真やら何やらの話を披露しているのが聞こえていた。


「マグス商会はオカルト用品を専門に扱っておりまして、プロの霊能者の方々にもご利用いただいております。ぜひ一度遊びにいらしてください」


(あの素敵なお店はバジリーさんのお店だったの?!)


 ほんの数日前、ファウスタはオクタヴィアに連れられてマグス商会を訪れた。

 幻想的な商品が並ぶマグス商会はまるで宝箱のようで、ファウスタはとても気に入っていた。


「このあいだマグス商会でお買い物をしました」

「おお! なんと光栄な!」


 バジリスクスは驚いたような顔をして、乙女のように瞳を輝かせた。


「憧れのファウスタ様にご来店いただけるとは、なんという栄誉でございましょう。バジリーは幸せすぎて気絶してしまいそうです」


 大げさな身振りで喜びを表現するバジリスクスに、ファウスタは少し戸惑った。


「ファウスタ様」


 ファウスタの正面、ティムと席替えをしたハーミアが今度は口を開いた。


「私はマグス商会の商品をいくつか手掛けております」


 ハーミアは淡々と語った。


「実は新商品を開発するにあたって、ファウスタ様にご協力いただきたい事があるのです」

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