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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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263話 不作法者

「エステルヴァイン殿、再びお目にかかることができ恐悦至極にございます」

「こちらこそ、再びお会いできて光栄です。バジリスクス殿」


 バジリスクスとユースティスは笑顔で挨拶をして握手を交わした。


「私のことはどうかバジリーとお呼びください」

「……一介の顧問である私には身に過ぎたるお心遣い。ご容赦ください」

「私がそう呼んでいただきたいのです。それにここは私的な場。身分は気にせず、ぜひ気楽に過ごしていただきたく……」


「そうだぞ、ユースティス」


 バジリスクスの言葉を途中で遮り、ティムが口出しをした。


「バジリーがそうして欲しいって言ってるんだ。バジリーって呼べよ」


 あっけらかんとそう言い、ティムは親指でくいっとユースティスを指差し、今度はバジリスクスに言った。


「バジリー、こいつはユースティス。みんなユースティスって呼んでるから、バジリーもユースティスって呼べばいい」


 ティムの指示に、バジリスクスとユースティスは笑顔を微妙に痙攣させた。


「あっ! お前、タニスか?!」


 バジリスクスの後ろにタニスを見つけてティムが声を上げた。

 笑顔で固まっているバジリスクスとユースティスを放置し、ティムはタニスに駆け寄った。


「今日は随分めかしこんでるな!」

「お久しゅうございます。マークウッドの盟主代理殿」

「心霊写真たくさん撮れたぞ! 新聞にも載ったんだ!」


 心霊写真の話を始めたティムに、バジリスクスの笑顔は引きつりと凄みが増していた。

 ユースティスも笑顔のままで微妙に肩を震わせている。


(ユースティスさんが言っていた通り、お作法が滅茶苦茶なのだわ)


 ファウスタは出発前にユースティスから予備知識を得ていた。


 最も格が高く主賓であるティムが作法を守らないので、他の者がティムに合わせることになり、お茶会は手順通りには進まないだろうと。

 ファウスタは自分に出来る範囲で作法を守って振る舞えば良い、気負う必要はないと、ユースティスは言っていた。


(ティムさんのおかげで、私は恥かしくないのだわ)


 初めてのお茶会に少し緊張していたファウスタは、最初の挨拶の時点で混沌としてしまった場に不思議な安堵を覚えていた。






「何だこれは!」


 混沌とした挨拶を終え、ファウスタたちは不思議な世界観で統一された華麗な部屋に通された。


 天井や柱や暖炉の飾り枠(マントルピース)は、星や月の浮彫り(レリーフ)で飾られていた。

 壁紙もカーテンも絨毯も青色で統一されており、まるで明るい夜空の中にいるように思えてくる。

 シャンデリアには小さな金色の星の飾りがいくつも吊り下がっている。


「これじゃ写真が出せないぞ!」


 部屋の中には四人掛けの丸テーブルが二組あった。

 真っ白なリネンのテーブルクロスが掛けられたそれには、お茶の準備がなされており、カトラリーが並んでいる。


 ティムはテーブルの上に写真を出すつもりだったのだろう、カトラリーが並んでいるテーブルを見てバジリスクスに不満を言った。


(お部屋の飾りに驚いたんじゃないのね)


 不思議な雰囲気の部屋に少し驚いていたファウスタは、ティムが全く違う部分を見て声を上げたことに気付き、肩透かしを食らったような気分になった。


「申し訳ありません、セプティマス殿。バジリーはファウスタ様にお菓子を食べていただきたくて、お茶のご用意をしていたのです」


「ファウスタのお菓子か。それじゃあ仕方ないな」


 ティムは振り向いてファウスタを見た。


「ファウスタはここでお菓子を食べてていいぞ。俺はバジリーと隣の部屋で写真を見てるから。バジリー、来い!」


 そう言いティムは部屋を出て行こうとしているのか身を翻した。


「ドリー、写真を持って来い。そうだ、タニスも来いよ。俺の写真が使われた新聞も持って来てるんだ」


 主催者や招待客の分断を始めたティムに、耐えかねたのか、ユースティスが凄みのある笑顔を向けて言った。


「……ファンテイジ殿」


 格式ばった呼び方をしたユースティスに、ティムは迷惑そうな顔をした。


「おう、なんだ?」

「まずはお茶をいただきましょう。ファンテイジ殿は喉が渇いているご様子。ここはバジリスクス殿のご厚意に甘えましょう」

「何言ってんだ? 俺ら死んでんだから喉なんて乾くわけないだろ」


 ぶっきらぼうに言い返したティムに、ユースティスは爽やかな笑顔を浮かべて同じ言葉を復唱した。


「喉が渇いているご様子です」

「……っ!」


 途端にティムは顔を歪めた。

 そして首に手をやった。

 まるで見えない縄が首に巻き付いてでもいるかのように、ティムは首のあたりを手でかきむしった。


「おお、大変だ、ファンテイジ殿は喉が渇いていらっしゃる」


 ユースティスはわざとらしい困り顔をして言った。


「お茶をいただけばきっと喉の渇きは癒されるでしょう。さあ、ファンテイジ殿、お茶をいただきましょう」


 苦悶の表情で首に巻き付いている何かを外そうとしているティムに、ユースティスは笑顔で近付くと、テーブルに付くようティムを促した。


「さあ、席につきましょう。お茶を一杯飲めば、その渇きは癒されるはずです」


(エーテルでティムさんの首を絞めているの?!)


 力ずくでティムをお茶会の手順の枠組みに引き戻したユースティスに、ファウスタは戦慄した。

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