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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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260話 真っ黒な悪魔

 月のない夜。

 窓の明かりや瓦斯(ガス)灯の光が、街に覆いかぶさる夜の帳としのぎを削っている。


 その王都の夜景を眼下に、赤毛の魔女が箒で空を行く。


 魔女の箒は、煌めく繁華街の灯りの群れを飛び越え、閑静な住宅街にさしかかると夜の暗がりの中へと降下した。






「ミラーカ、マグス商会の新商品のことでお知らせがあるの」


 赤毛の魔女ヘカテは、女吸血鬼ミラーカの隠れ家を訪問していた。


 女主人の屋敷らしく部屋には繊細な意匠の家具が並んでいる。

 テーブルの上にはロゼリアの花を漬け込んだ薄紅色の混成蒸留酒(リキュール)のグラスがあった。


「まあ、何かしら」

「終末竜バハムートと大海獣リヴァイアサンの模型を売り出すことになったの」


 ヘカテがそう言うと、ミラーカは微笑みを深くして問いかけて来た。


「その新商品の売り出しに、ファウスタの協力が欲しいというお話かしら?」

「そうよ。どうして解ったの?」


 ヘカテは軽く驚いて問い返した。


「このあいだマグス商会にお買い物に行ったの。そこでファウスタの影響で商品が売れているって話を小耳に挟んだのよ」

「もう知っているのね」

「偶然よ」

「知っているのなら話が早いわ。新商品の監修を話題の『聖少女ファウスタ』様にお願いしたいの。今が旬よ」


 ファウスタの影響で商品が売れていることや、ファウスタが監修すれば売り上げが期待できることなどをヘカテはミラーカに説明した。


「商売のチャンスなの。これは純粋にマグス商会の商売の話。他意はないわ。賛成してもらえるかしら」


 ヘカテのその言葉に、ミラーカは曖昧に微笑んだままで疑問を呈した。


「本当に?」

「ええ、本当よ」

「ファウスタを魔道士ギルドに入れたいのではなくて?」

「確かにバジリスクスは行く行くはそうしたいと考えているみたい。でも早急にどうこうするような話は出ていないわ。……そちらで何かあったの?」


 ヘカテの問いに、ミラーカは苦笑した。


「ティムがファウスタを魔道士ギルドに入れるって言い出したの。バジリスクス様に言われたんじゃないかしら?」

「ああ……」


 知り得る状況から事態を推測して、ヘカテは眉間に少し皺を寄せた。


「最近、そちらの盟主代理殿が魔道士ギルドに遊びに来ていたみたい。きっとその時に、バジリスクスがそういう話をしたのね。社交ごっこの一環よ。ギルドではそういう話は出ていないから無視してもらってかまわないわ」


「魔道士ギルドに入ればファウスタは安全だって言われたみたい。ティムはすっかりその気になっているのよ」


「それは、結論としては正しいわ」


 ヘカテは真摯な眼差しで解説した。


「もしファウスタ様が魔道士ギルドに入会したら、私の派閥に入ることになるもの。うちの派閥が全力で守るから安全よ」

「あなたの派閥に入ることが決まっているの?」

「決まっているわけではないけれど、多分そうなる。もともと私は女性魔道士のまとめ役だったから、魔道士ギルドの女性は大抵が私の派閥に入るの。だからバジリスクスは、もしファウスタ様が魔道士ギルドに入会したら、いつも通りに私に世話をまかせると思うわ」


 ヘカテは肩を窄めた。


「それに魔道士にとって魔眼はとても価値があるの。ファウスタ様の身を危険に晒そうとするものは魔道士にはいないと言い切れるわ。きっと宝物みたいに大切に扱われる。心配するとしたら洗脳や魅了ね」


「やっぱりそちら方面なのね」


「そうよ。でも血の議会が付いているから大丈夫でしょう。もし魔道士ギルドに入会するようなことがあるならば、条件を出せば良いわ。血の議会をファウスタ様の護衛として認めて(から)の記章を与えることって」

(から)の記章?」

「ギルド会員ではない者の入館証よ。(から)の記章があれば魔道士ギルド会館に出入り自由になるの。血の議会が護衛で付いて来れば、誰も手出しなんて出来ない。むしろ血の議会をギルド会館に入れることを危険視して、バジリスクスはファウスタ様を入会させる話を断念するかもしれないわね」


 ヘカテが対策を提示すると、ミラーカは面白そうに微笑んだ。


「貴女はファウスタが魔道士ギルドに入らなくてもいいの?」

「ファウスタ様がギルド員になるかどうかには、私はこだわらないわ。魔眼で研究の手助けをしていただけたら嬉しいけれど、それってギルド員にならなくても出来ることだもの」


 ヘカテはそう言うと、テーブルの上のリキュールのグラスに手を掛けた。


「ヘカテは魔眼で何が視たいのかしら?」


 リキュールで喉を潤すヘカテに、ミラーカが少し興味ありそうな眼差しで問いかけた。


「そりゃあ色々あるけれど。差し当っては……」


 ヘカテはふっと口の端に暗い笑みを浮かべた。


「タレイアン公爵夫人かしら」

「彼女が呪い返しの術を使っているかどうかの確認のため?」


 以前ヘカテは、タレイアン公爵夫人が呪い返しの術を使っている疑惑をミラーカに語った事がある。

 ミラーカはその話を覚えているのだろう。


「それもあるわ」

「他にも何かあるの?」

「ええ」


 ヘカテは昏い三日月のように微笑んだ。


「二百年前の魔眼が言っていた『真っ黒な悪魔』がいるような気がするのよ。それを確かめたいの」

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