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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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259話 魔道士たちの戦略構想

「タニスとプロスペローはファウスタ様の従者で、レグルス心霊探偵社で一緒に働いているのよ」


 バジリスクスが一応の落ち着きを取り戻すと、ヘカテは説明を始めた。


「見知った顔が多い方がファウスタ様もご安心なさるでしょう。話しやすい雰囲気を作りやすいのではなくて?」


 笑顔で圧をかけてくるヘカテに、バジリスクスは眉間に皺を刻んだ。

 ヘカテは滑らかに説明を続ける。


「それにプロスペローは血の議会にご執心よ。彼がお茶会に参加したがるのは血の議会が目当て」

「そんなことは解っておる。だからこそ駄目なのだ」

「逆よ。だからこそ彼は血の議会への牽制に使えるの。プロスペローは血の議会に纏いつくでしょうから、何かと足止めしてくれるはずよ」

「見苦しい振る舞いをされては魔道士の恥になる」

「マークウッドの悪魔はそういうの気にしないわ」

「下民はそうだろうが、『異能者』は違うであろう。異能者の心象を良くすることが第一だ」


 バジリスクスは魔眼の子ファウスタを魔道士ギルドに迎え入れたいと思っている。


 現状ではそれは不可能だ。

 しかし魔眼の子が自ら魔道士ギルドに参加したいと言い、そこにセプティマス・ファンテイジの後押しがあれば可能となる。


 そのためにはまず魔眼の子と親睦を深め、魔道士ギルドの良い印象(イメージ)を植え付けること。

 魔道士ギルドが素敵でお洒落な組織であることを宣伝し、少女の心をしっかりと掴むこと。

 それが魔眼獲得の第一段階であると考えていた。


 その魔道士ギルドの印象(イメージ)戦略において、プロスペローやタニスの奇行は完全に逆効果だ。

 ギルド長であるバジリスクスですら、あの二人と無駄に関わることは御免(こうむ)りたい気持ちでいっぱいなのだから。


「魔道士のみっともない姿を見せるわけには行かぬ」

「ファウスタ様は心霊探偵社で血の議会やプロスペローといつも一緒にお仕事をなさっているのよ。見慣れている光景じゃないかしら。今更よ」

「……あの恥さらしが……」


 心霊探偵社で日々、魔道士の否定促進ネガティブ・キャンペーンが行われていたことに気付き、バジリスクスは苦虫を嚙み潰したかのように盛大に顔を顰めた。


「……プロスペローについては解った。だがタニスはどうなのだ。異能者はタニスの奇行も見慣れておるかもしれんが、タニスは異能者が目当てだ」


 バジリスクスには容易に想像ができた。

 しゃあしゃあと会話に割り込み、自分の話したい事をやかましく騒ぎ立てるタニスの姿を。


「あいつは邪魔にしかならぬ」

「タニスはマークウッドの悪魔に気に入られているわ」

「心霊写真か」

「そうよ。あちらからタニスに話しかけて来るでしょう。タニスはマークウッドの悪魔を無下に扱うほど馬鹿じゃないわ。貴方はその隙にファウスタ様とお話しができる」

「だが下民を説得せねばならんのだろう? 心霊写真の話で盛り上がったら、下民は止まらなくなるぞ。それに犬はどうする」

「もう一人、ハーミアを招待して欲しいの。ハーミアが上手く調整してくれるわ」

「ふむ……」


 魔女ハーミアは、戦争時代には裏方に徹しており前線には出ていない。

 そのため前線で暴れまくっていたタニスのように、マークウッド同盟の魔物たちの個人的な恨みは買っていない。

 セプティマス・ファンテイジの心象も良い。

 従者アドルファスとも面識がある。

 タニスの扱いにも慣れている。

 作法にも理性にも不安がなく、万が一役に立たなかったとしても損害はない。


 バジリスクスはハーミアを登用する損得を頭の中で整理すると、ハーミアに視線を向けた。


「ハーミア、タニスを上手く制御できるか?」

「はい。タニス、プロスペローの両名とも私にお任せください」


 ハーミアは微かに笑みを浮かべた。

 そのハーミアの反応に引っ掛かりを覚え、バジリスクスは思考を巡らせた。


(あの二人とすでに何か取引をしたということか?)


 ハーミアは常に現実的な計画を立て、手堅く成果を積み重ねて行く魔女だ。


 地味で目立たないが、損失を最小限に抑え、着実に利益を積み上げて行くので、最終結果ではハーミアの一人勝ちとなっていたという逆転劇がしばしば起こる。

 気分で意味のない冒険に手を出すタイプではない。


(そういえば、この変な怪獣の玩具をハーミアの工房で作ると言っていたな)


 それはつまり怪獣の玩具をハーミアが売り出すということだ。

 当然ながら売上金はハーミアに入る。


(魔眼の子の監修を得れば大売れだとルゴバロスが言っておったが。なるほど、そういうことか)


 バジリスクスの脳裏に天にある星の座相が閃いた。

 今年、幸運の木神星は水属性の天蝎宮にある。


「ハーミア、そなた土属性であったな。木神星の恩恵を受けておるか?」


 水と土は相性が良い。

 水属性の宮にある木神星は、土属性の宮にも吉角となる。


「はい。天運を得ておりますゆえご安心ください」


 ハーミアはそう答えると、再び薄い笑みを浮かべた。


「バジリスクス様、私の太陽は現在進行(トランジット)の木神星と百二十度吉角(トライン)です」


 ルゴバロスが庶民的な顔にくったくのない笑顔を浮かべ言った。


「お前もか……」


 バジリスクスは覚った。

 ここにいる四人のうち、幸運の木神星の恩恵を受けていない者は自分だけだと。


 ヘカテとハーミアは土属性。

 ルゴバロスは水属性。

 三人は現在水属性の天蝎宮にある木神星の恩恵を受けている。


(木神星の拡大のエネルギーか)


「……ヘカテ、一つ確認したい」


 バジリスクスは思考をめぐらせながら、推論を裏付けるために質問した。


「お前の目的は、この怪獣の玩具を、異能者に監修して貰うことに相違ないか?」


 木神星は拡大、膨張の星であるため、恩恵を受けるとエネルギーを傾けている物事にブーストがかかる。

 木神星の追い風が商売に向かえば、その事業は拡大し収益は上がる。


「第一の目的は、そうね」

「他にもあるのか?」


 バジリスクスの問いに、ヘカテは自信に満ちた笑顔を浮かべた。


「ファウスタ様との専属契約まで持って行きたいわ」

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