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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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255話 魔女ハーミア

 魔道士ギルドの地下、管理室。


 その部屋は一般的な屋敷の家政婦長室に相当する部屋であり、魔道士ギルド会館の管理維持を担う六つ星魔女ハーミアの仕事部屋であった。


 だがそこは一般的な家政婦長室とは大分様相が違った。

 魔道具が並び、幾人もの常駐の屍鬼(ゾンビ)たちがそれぞれの魔道具の前に座っている様子は、どこか軍の情報部や軍艦の艦橋(ブリッジ)を思わせる光景だ。


 その管理室に並ぶ魔道具の一つ、常時傍受の体勢にある遠話の魔道具が切羽詰まった声を受信した。


 ――タラ・タラ・タラ!


 遠話の魔道具の担当である屍鬼(ゾンビ)メイドは受信したその声を聞くなり驚愕に目を見開いた。


 ――タラ・タラ・タラ! 二二一! 繰り返す、タラ・タラ・タラ! 二二一!


 遠話の魔道具は遠い場所にいる者と会話ができるが、同じ魔道具を持っていれば誰でもその会話を傍受できる。

 しかしその音声は第三者の会話ではない。

 管理室へ向けられた急を告げる暗号(コード)だった。


「ハーミア様! 遠話に暗号通信が入っております! タラ・タラ・タラ、二二一! 繰り返します、タラ・タラ・タラ、二二一!」


 ゾンビメイドは声を上げ、緊急事態を知らせた。


 ガタン、と席を立ち上ったハーミアは、いつもの無表情で指示を飛ばした。


「マヤ」

「は、はい!」


 ハーミアに名を呼ばれた遠話担当のゾンビメイドは緊張した面持ちで返事をした。


「遠話に返信。『東ノ山羊、参ル』」

「了解!」


 ゾンビメイドはすぐさま遠話の魔道具に向かい返信の暗号を伝える。


 ハーミアは矢継ぎ早に他の部下にも指示を飛ばした。


「ドナはすぐにヘカテ様に連絡を」

「はい!」

「シエラ、指揮を預けます」

「はい」


 副室長である魔女シエラが得たりと静かに頷く様子を確認し、ハーミアは定型通りに行先と対応を告げた。


「私はタニスの下宿に向かいます。私に緊急の用向きがある時はカラスを飛ばしなさい」






(まったく……)


 タラとは『タニス』『乱心』のそれぞれの頭文字。

 暗号『タラ・タラ・タラ』はタニスの世話役である五つ星魔女ルーナが急なトラブルの発生を知らせるものであり、救援の要請だ。

 暗号『二二一』は中央区ベーコン街二二一番地、タニスの下宿を指す。


 タニス絡みで救援が必要となると、タニスに意見できる者、すなわち六つ星以上の実力者が出向かなければ役に立たない。

 そこで暗号名(コードネーム)『東ノ山羊』、ハーミアが出る。


(早々にこのマニュアルを使うことになるとは)


 過日、タニスがマークウッド辺境伯邸へ乗り込んだ騒動を受け、ハーミアは今後同様の事態が発生した場合に早急に対応できるようマニュアルを作成した。

 それが暗号による遠話通信と管理室での先の対応だ。


(今度は何をやらかしたのやら……)


 認識阻害のマントを羽織ったハーミアは箒に搭乗すると、中央区のタニスの下宿を目指して空へと飛び立った。






「ハーミア様!」


 ハーミアがタニスの下宿に到着すると、タニスの世話役である魔女ルーナが悲劇的な形相でそれを出迎えた。


「一体、何事です」


 いつも通り冷静なハーミアの問いに、恐怖に顔を引きつらせているルーナは声を震わせながら簡潔に説明した。


「タニス様がプロスペロー様を連れてお帰りになられたのです」

「なるほど」


 ハーミアは瞬時に察した。


 タニスとプロスペローは犬猿の仲だ。

 だが二人はともに魔眼の子の契約奴隷となっており、心霊探偵の仕事で顔を合わせる機会が多い。

 気分の浮き沈みが激しい気まぐれなタニスと、外面は良いプロスペローが、偶然に調子(ノリ)が一致して同行することはあるだろう。


 だが元々が反りが合わぬ者同士なので、一瞬調子が一致しても、すぐに争いとなるのは必然。


 そして二人は魔道士ギルドでもトップクラスの実力者。

 先ごろ王都を騒がせた終末竜バハムートと大海獣リヴァイアサンの中の魔道士である。


 タニスは怒りやすく攻撃性の高い火属性の人馬宮。

 プロスペローは温厚な水属性ではあるが、一度切れれば感情爆発で手が付けられなくなる巨蟹宮。

 万が一にも二人の理性の枷が外れた場合、災害級の魔術戦となるだろう。


「すでに争いが始まっております」


 悲愴な顔でそう知らせるルーナの声にかぶさり、別室で言い争っているタニスとプロスペローの声がハーミアの耳にも届いていた。


「状況は解りました」


 落ち着き払った態度でハーミアは言った。


「私が二人を止めます。ルーナはお茶の用意を三人分お願いします」

「え、あの……」


 不安そうな顔で戸惑いを見せたルーナに、ハーミアは淡々と答えた。


「私には切り札があります。争いはすぐに収めますから、あなたは安心してお茶の用意をなさい」






 言い争う声が聞こえているドアをハーミアは一応ノックしたが、予想通り返事はなかった。


「タニス、プロスペロー」


 ハーミアはすぐにドアを開けると、部屋の中で言い争っている二人に声を掛けたが、二人はその声に気付いているのかいないのか罵り合いを続けていた。


 しかしハーミアは動じることなく、切り札を出した。


「ファウスタ様とユースティス様について耳寄りな情報があります」


「ふぁっ!!」

「なんと申された!」


 ハーミアの言葉に、タニスとプロスペローは同時に振り向いた。


「ファウスタ様とユースティス様は、()る人物のお茶会に出席なさいます。そのお茶会に招待された者は、二人とお話しすることができましょう」


 無表情で淡々と述べるハーミアに、タニスとプロスペローは鬼気迫る形相で詰め寄った。


「誰のお茶会ですか! 教えてくだされ! ハーミア! 我らは親友でありましょう!」

「ハーミアさん! どちらのお茶会かどうか教えてください! お願いします! 私にできることでしたらどんなお礼でもいたします!」


 一瞬にしてタニスとプロスペローの注意を引き付けたハーミアは、さらに言葉を続けた。


「実は私からも二人にお願いがあります」


「了解であります! 全部了解するので教えてくだされ!」

「私にできることなら何でもいたします!」


 良い返事をしたタニスとプロスペローに、ハーミアは微かな笑みを浮かべてみせた。


「二人とも、まずはそちらのテーブルへ。お茶でもいただきながらゆっくりお話ししましょう」

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