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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第4章 オカルト旋風

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251話 マグス商会

「マグス商会にはファンテイジ版タロットの他にも、色々な種類のタロットカードが置かれているの」


 買い物に向かう馬車の中で、オクタヴィアはマグス商会についてファウスタに説明した。


 馬車の中にはファウスタとオクタヴィアの他に、付き添いの侍女ミラーカと従僕ラウルもいたが、二人はおだやかな笑顔を浮かべたままオクタヴィアの話を邪魔しないように黙って座っている。


「占いに使うお香や、浄化に使う水晶なんかもあるのよ。この機会に一式揃えてみるのもいいわね。アサメイも新しい物を買おうかしら」

「アサメイとは何でしょう?」

「魔法剣よ」

「魔法の剣なのですか?!」


 ファウスタは、かつてロスマリネ家で出会った幽霊、黒騎士デュランが振るっていた魔石が付いた剣を思い出した。


「儀式用の短剣よ。ファウスタにも買ってあげるわね」


(短剣……。危なくないかしら……)


 ファウスタたちを乗せた馬車は、中央区の賑やかな大通りから外れ、横道に入ってしばらく進んだところで停まった。






 マグス商会は古ぼけた建物が並ぶ横丁にあった。

 大通りほどの賑やかさはないが、寂れているわけでもない。


 道端で何かの屋台を出している者は労働者風の服装をしていたが、道行く人々はほとんどが立派な服装をしていた。


(儀式用品、鉱石、自然香料、アクセサリー、遊戯カード)


 ファウスタはマグス商会の入り口に置かれている立て看板の文字を読んだ。


 ――チリリン。


 銀髪金目の従僕ラウルがマグス商会のドアを開けると、ドアについている(ベル)が澄んだ音を響かせた。


 扉が開くと同時に、爽やかな緑や花のような香りがした。


(凄い!)


 店内の光景にファウスタは目を見張った。


(宝箱みたいなお店なのだわ!)


 入口の正面に置かれている台には、キラキラ光るものがぎっしり置かれていた。


 繊細な模様のある金や銀の杯、燭台、天秤。

 華やかな模様や飾り石がついた木製の短い(ワンド)

 飾りだろうか、掌に乗せられる大きさの、やはり金や銀の月や星や魔法陣。

 金や銀の台座に宝石のような美しい石がはめられたブローチやピン。


 それらは本物の金銀や宝石ではなく、金銀はメッキで、宝石のような美しい石は水晶などの鉱石や硝子だろうことはファウスタにも想像できた。

 しかし全てが伝説の宝物のように美しい見た目をしていた。


 商品棚の一角には、大小の硝子瓶がずらりと並んでいる。

 瓶の中には乾燥した草や花や実のようなものや、色々な色の液体が入っていた。


(草の匂いはあれだったのかな)


「あら、ラウルはこういう香りって苦手?」


 従僕ラウルが鼻をハンカチで覆い、顔を盛大にしかめている様子に気付き、オクタヴィアが言った。


「外で待っていてもいいわよ」

「いいえ、お供いたします」

「ゆっくり見たいから、時間がかかるかもしれないわよ?」

「ご心配にはおよびません」


 ラウルは苦行に耐えるような顔でそう言ったが、侍女ミラーカは少し困ったような顔で笑みをこぼしながらラウルに退店を促した。


「付き添いは私だけでも大丈夫よ。用があれば声を掛けるから、貴方は外で待っていなさい」


(ラウルさんは狼男だからやっぱり鼻が良いのかしら)


 ミラーカに促され、すごすごと店から出て行くラウルの背中を見送りながら、ラウルの正体を知るファウスタは狼男の鼻について少し考えた。


(狼男は鼻が良いから、きっと匂いが苦しいのね)


 ラウルの背中を見送った後、ファウスタが店内に視線を戻すと、昔話に登場する魔法使いのような長衣(ローブ)を着ている者と視線がぶつかった。


(……!)


 店内には客らしき数人の紳士淑女の他に、お揃いの古めかしいフード付きの長衣を着た魔法使いのような出で立ちの者が何人かいる。

 その長衣の者の一人がこちらを見ていて、ファウスタと視線がぶつかったのだ。


 その者はすぐにファウスタから目を逸らした。

 そしてこちらに歩み寄って来た。


「いらっしゃいませ、お嬢様方。何かお探しであればお手伝いいたします」


 長衣の者は、ファウスタたちの前に進み出てそう言った。


(店員さんだったのね。魔法使いみたいな恰好なのだわ)






吸血鬼(ヴァンパイア)狼人族(ライカンスロープ)が来ているだと?」


 ファウスタたちが来店したマグス商会中央区支店の事務室。

 支店長である魔道士モージは、店員である部下の報告を受けていた。


「はい。王都にいる狼人族はファンテイジ家の使用人だけと記憶しております。吸血鬼は女ですが只者ならぬ気配。高位と思われます。高位吸血鬼が使用人として潜伏しているのはやはりファンテイジ家であるかと」


「その通りだ。王都にいる狼人族はファンテイジ家の使用人、狼人族のラウルだけだ。兄のアドルファスも今、王都にいるようだが、使用人の服装をしているなら弟の方だろうな。ファンテイジ家には女吸血鬼もいる。間違いないだろう。丁重にな」

「はい、心得ましてございます。それで、あの……」

「まだ何かあるのか?」

「はい。あの……」


 どこか歯切れの悪い部下に、モージは訝し気に眉を寄せると問い返した。


「はっきり申せ」

「その一行に眼鏡の少女がいるのです」

「魔物か?」

「いえ、その少女は人間です。ですが、眼鏡を掛けているのです」


 深刻な顔でそう言う部下に、モージは一瞬首を傾げた。

 だが次の瞬間、はたと気付いたように目を見開いた。


「眼鏡だと?!」

「はい。あの者たちがファンテイジ家の一行だとしたら、眼鏡を掛けている少女は、もしや……」

「少女か?! 少年ではなく少女のほうか?!」


 モージはギルド長バジリスクスの派閥の魔道士だった。

 串刺し公(ツェペシュ)への対抗心から、ファンテイジ家を常に監視しているバジリスクスから、要注意人物のリストを受け取っている。


「はい。女装でなければ少女で間違いないかと」

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