表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/730

219話 内務省の門前にて

 ファウスタたちを乗せた馬車は、堅牢な門の前で停まった。

 その門の中にはイングリス王国の国旗を掲げた白亜の巨大建築、内務省がある。


 門の前にはちょっとした人だかりがあった。


「おや、水兵隊の諸君は官庁街の見学かい?」


 ファウスタたちが馬車から降りると、人だかりの中の幾人かの紳士たちが笑顔を向けて来た。

 彼らはファウスタたちの水兵(セーラー)服のような装いを話の種にして、軽い会話を投げかけて来た。


「君たちがいれば海軍は安泰だな。はっはっは!」

「眼鏡が小生意気じゃあないか。航海士見習いかね?」

「王立海軍に栄光あれ!」


 ファウスタは訳が解らずポカンとしていたが、ピコはまた敬礼のポーズをして紳士たちを笑わせていた。


「この服、凄いわ。蒸気自動車に乗っていないのに注目される。魔法みたい」


 ジゼルが不思議そうな顔でそう呟くと、ダミアンが人気の種明かしをした。


「無敵の王立海軍はイングリス王国の誇りだからね。みんな海軍が大好きなのさ」


 イングリス王国は四方を海に囲まれた島国であるため、海軍は防衛の要であった。


 数十年前、飛ぶ鳥を落とす勢いで進撃を続けていたロンセル共和国が、ついにイングリス王国へ侵略の矛先を向けた際にも、王立海軍がこれに立ちはだかりロンセル軍の上陸を阻止した。


 その海戦の勝利により、イングリス王国の王立海軍は世界最強の海軍と謳われるようになったのだ。


 ファウスタたちは「無敵の王立海軍」という言葉を耳にしたことはあったが、ずっと孤児院で暮らしていたので世間の海軍人気に今まで触れたことがなかった。


 上流階級の少年たちは水兵風の服を一着は持っているものであったが、孤児のファウスタたちは上流階級の普通などもちろん知る由もない。


「どうしてこんなに人がいるのかしら。院長に人望があったとは思えないけど」


 ジゼルの無慈悲な発言にダミアンは苦笑した。


「最近ここにも鬼火(ウィルオウィスプ)が出たらしくてね。それで見物人が集まるようになったんだよ。さて、もう少し前へ行こうか」


 ダミアンはそう言い、ファウスタたちを内務省の門の真正面へと促した。

 小銃(ライフル)を持った門番が微動だにしないまま、視線だけでファウスタたちをちらりと見やった。


「……院長先生とお話しできるでしょうか」


 門番の視線に気後れしながら、ファウスタがそう尋ねると、ダミアンはにっかり笑って片目を瞬いてみせた。


「大丈夫。俺が何とかする」


 気安い口調でそう言い、自信満々に微笑んだダミアンにファウスタは疑惑の眼差しを向けた。


(ダミアンさん、吸血鬼の力を使うつもりかしら?!)


「君、今日はこれから犯罪者が出て来るのだ。子供には見せない方が良いだろう」


 親切な紳士がダミアンに忠告した。


「この子たちはラシニア孤児院で育った子たちなのです。元院長の見送りがしたいと願ってここへ来たのです」


「何?! ラシニア孤児院だと?!」

「ラシニア孤児院の子なのか?!」


 ラシニア孤児院と聞いて、周囲の紳士たちはファウスタたちを哀れんだ。


「可哀想に。今まで辛かっただろう」

「随分と貧しい生活をしていたと聞いている」

「実は私も寄付したことがあるのだが、まさか寄付金が子供たちに届いていなかったとはね」

「さぞやあの男が恨めしいだろう。一言言ってやるといい」


「僕はカニング氏を恨んでなんかいません」


 ピコは毅然とした態度で紳士たちに反論した。


「カニング氏は院長としての仕事はちゃんとやっていました。たしかに食事は粗末でしたが、毎日三食食べさせてもらえていた。病気になれば医者も呼んでくれた。死んだ子は一人もいない。最低の生活だったかもしれないけれど、最悪ではありませんでした」


 紳士たちは少し面食らったような表情でピコの言葉を聞いていた。


「僕はカニング氏が院長で良かったと思っています」


(ピコが院長先生をそんなふうに思っていたなんて!)


 ファウスタはピコの言葉に感動した。


 いつも院長を批判ばかりしていたピコが、実は院長の仕事を評価していたなんて、ファウスタは今まで全然知らなかった。


「院長先生は私の大恩人です!」


 感極まってファウスタも声を上げた。


「私が今、幸せに暮らしているのは院長先生のおかげなのです!」


 涙目で感謝の気持ちを叫んだファウスタの隣りで、ジゼルは淡々と語った。


「私も別に院長のことは恨んでないわ。むしろ哀れだと思ってる。だって貴族に恐喝されたら……」


 ダミアンがジゼルの肩を叩いて、首を横に振った。

 ジゼルは察したのか、途中で口を噤んだ。


「護送馬車だ!」


 犯罪者を乗せる護送馬車がやって来て、内務省の玄関口の馬車寄せに停止した。


「出て来るぞ!」


 紳士の一人がそう声を上げたので、皆が玄関口に注目した。

 玄関の扉が開き、中流の装いの数人の男たちが出て来た。


 その男たちに護衛されるようにして、元ラシニア孤児院院長ジュード・カニングが現れた。


「院長先生!」


 ファウスタは思わず叫んだ。

 その声に、ジュード・カニングははっとしたように顔を上げた。


「……ファウスタ……?」

「院長先生ぇぇー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ