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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

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213話 凶弾

「私は小銃の射手を受け持ちますから、エリンは拳銃の方をお願いします。ミアは警官の銃撃で被害が出ないよう弾道を誘導してください」


 飛空隊ワルキューレの副隊長である魔女ブリギッドは、ワルキューレの隊員であるエリンとミアに指示を出した。

 いつも細かい段取りをブリギッドに任せているタニスは、今日もブリギッドの隣りで話半分に聞き流したり、興味の赴くままにキョロキョロ周囲を見回したりしている。


「ブリギッド様ぁー、私は警官の撃った銃弾が野次馬どもに当たらないようにすればいいんですよね? 犯人が射殺されるのは放っておいていいんですよね?」


 魔女ミアの質問に、ブリギッドは笑顔で答えた。


「吸血鬼ギルドは、人間の暗殺者は人間の警官に逮捕させたいとの意向です。ですから人間が犯人を生け捕りにできるよう致命傷を防いでください。弾丸が犯人の足に命中するよう誘導できると良いです」


「ブリギッド様、拳銃の暗殺者の銃弾についてですが……」

「そちらは暗殺を狙ったということが解るように……」

「それは了解しております。そのあとの事なのですが……」


 おそらく陽動であろうと思われる拳銃を持った暗殺者の担当を告げられた魔女エリンは、しかつめらしい顔でブリギッドに言った。


「暗殺の意志の証拠になるよう弾痕を残したあと、跳弾を全部プロスペローに向けて飛ばしたら面白いと思うんです」


 真面目な顔でそう言ったエリンに、魔女たちは一瞬目を見張った。

 その一瞬で、魔女たちは跳ね返った銃弾が一斉にプロスペローへ向かう様子を想像した。


「エリン! 冴えてますぞ!」

「なんて愉快な光景でしょう! やはりエリンは賢い! この状況なら事故に見せかけることは可能です!」

「いいね! プロスペローに風穴を開けるチャンスだ!」


 魔女たちはエリンの提案から、絶好のチャンスが到来している幸運に気付き、勝利を確信して笑い転げた。


 魔女たちの幸せな笑い声の合唱の中、しかしタニスがふっと顔色を変えた。

 タニスは急に眉を吊り上げ、悲愴な表情で警告を発した。


「駄目です! 二次災害が洒落になりませぬ!」


 血相を変えて眉を吊り上げたタニスを、魔女たちは訝し気に見やった。


「二次災害とは?」

「プロスペローが穴だらけになるだけっしょ?」

「人間が死ななければ事故という事で何とでも言い訳が出来ると思いますが」


 口々に疑問を呈する魔女たちに、タニスは深刻な顔で説明した。


「プロスペローの奴がユースティス様とヴァーニーに言いつけるに決まってます。そしたら私が叱られるのです。ユースティス様の長ーい小言と、ヴァーニーの女々しい愚痴と嫌味の乱れ打ちが私に襲い掛かるのです。酷い二次災害であります! 精神的苦痛です!」


「それは……有り得ますね……」


 ブリギッドは気の毒そうな視線でタニスを見やると苦笑を浮かべた。


「タニス様、小言や嫌味くらい聞き流せば良いじゃないですか」

「事故だって言い張れば大丈夫ですよ」


 ミアとエリンは二次災害の対策を提示したが、タニスは頭を振った。


「あの二人はとーっても面倒臭いのです! あの二人を怒らせたら、ますますファウスタ様に近付けなくなってしまう!」


「処女宮と双魚宮はタニス氏とは相性最悪ですからね」


 ブリギッドがそう言うと、エリンがはっとした顔になる。


「処女宮は血の議会ですよね。ヴァーニーが双魚宮?」

「そうです。タニス氏の人馬宮とは大凶角の関係にあります」

「うわ! 私とミアが混ざったら大十字(グランド・クロス)じゃん」

「そう言えばそうですね」


 エリンとミアは双児宮、タニスは人馬宮である。

 双児宮、処女宮、人馬宮、双魚宮はそれぞれ九十度と百八十度の凶角関係にあり、四つの星を結ぶと十字型になることから、この凶角関係を占星術では大十字(グランド・クロス)と呼ぶ。


 世界の行く末を占う場合にこの座相が出ると、天変地異や戦争、あるいはそれらに類する過激な大事件が起こると読む。


「プロスペローを狙ってはなりませぬ! 私が大変なことになってしまいます!」


 タニスは魔女たちにきつく言いつけた。


「絶対に余計な事をしてはなりませぬ! 淡々と仕事をするのです! 歯車のように! 淡々と!」






「あっちが騒がしいな」


 王立裁判所前の人だかりの中。

 ロット卿はにわかに騒がしくなった通りへと視線を投げた。


「ロットの旦那、護送馬車が来たようでさあ」


 同じく通りを見ていた貧相な身なりの男ダフが、護送馬車を確認して声を上げた。


「道を開けろ!」


 警官を乗せた蒸気自動車に先導され、容疑者を乗せた護送馬車が裁判所の門をくぐった。

 警官たちは野次馬や物売りを追い払い、道を開けさせる。

 新聞記者たちは写真機(カメラ・オブスキュラ)を構えた。


 ロット卿とダフも警官の誘導に従い、先ほどまで話し込んでいた紳士たちと共に場所を移動する。


 ある者は人の流れに乗り、またある者は右往左往しながら、警官に追い立てられて場所を移動して行く。


「おっと、失敬」


 人の流れの中で、突然正面に現れた労働者風の男にぶつかり、ロット卿は反射的に軽い謝罪の言葉を述べた。


「……」


 その男は憮然とした表情で、ロット卿を嫌な目つきでジロリと見ると、ぷいと顔を背けて無言で去って行った。


 男の失礼な態度にロット卿は少し気分を害しながら、去り行くその背中を振り返った。

 男は人の流れに逆らい、行く手の人々にぶつかりながら歩を進めて行く。


 ロット卿はその男の行動が妙に気になった。


「ロットの旦那、どうかしやしたか?」


 ロット卿が何度も足を止め、気になる男を振り返っているせいだろう、共に行動していたダフが質問して来た。


「いや何、少々おかしな奴がいるのだ」


 ロット卿の視線の方向を振り返ったダフも、逆流する男に気付いた。


「あいつ変でやんすね。警官の野郎もなんで止めないんだか」


 人々を誘導する警官の脇をすり抜け、男は護送馬車に近付いて行った。

 警官は気付いていないのか、男は止められる様子がない。


「出て来たぞ!」


 護送馬車の扉が開き、容疑者らしき男が裁判所の玄関の馬車寄せに降り立った。

 保安局員なのか刑事なのか、素人らしからぬ動きをする男たちがその両脇を固めている。


 ロット卿は目を細めて、話題沸騰の容疑者をよく見ようとした。


 そのとき。


 先程ロット卿にぶつかり人の波を逆流して行った男が、警官の脇をすり抜けて飛び出した。


「おい、止まれ!」


 警官の一人が声を張り上げた。

 容疑者に付き添っている男たちも反応し、近付こうとする男を振り向きながら、拳銃を出そうとしてか上着の中に手を入れる。


 ――パーン!


 銃声が響いた。

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