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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

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211話 一陣の風

「そろそろ容疑者が到着しても良い頃だが……」


 王立裁判所の周辺に集まった人だかりの中。

 霊能クラブの会員であるロット卿は、上着のポケットから懐中時計を取り出し時間を確認した。


「すでに何か起こっているのだろうか……」


 ロット卿がそわそわしている様子を見て、貧相な身なりの男ダフはすかさず営業をした。


「保安局も小僧たちに見張らせてるんで、何かありゃあ小僧たちが報告に来る手はずになっておりやす」

「さすがだな、ダフ氏。頼りにしているよ」


 ロット卿がそう言うと、つい先刻ダフから初めて情報を買った紳士も興味津々に目を輝かせた。


「その報告、私も聞きたいのだが」

「十ドログになりやす」


 ダフの狡猾な営業に、紳士は苦笑いで追加料金を了承した。


「たくましい奴だなあ」

「へへ、まいどあり。あっしも生活がかかってますんで」


 ――そのとき、びゅうっと風が吹いた。


「うおっ!」

「おっと」


 突然の突風に人々は驚きの声を上げた。

 皆が反射的に帽子や上着を押さえて身を縮めた。

 突風にうっかり帽子を飛ばされてしまった紳士は慌てて帽子を追いかける。


「こ、この風は! 似ている!」


 かっと目を見開きそう言ったロット卿に、ダフもすかさず同意した。


「似てるでやんす! ぞわっとしやした!」

「そうそう! ぞっとする奇妙な風! あのときの風と同じだ!」


「あのときの風とは何なのだね?」


 ロット卿とダフの高揚している様子に、他の紳士たちは好奇心を刺激されたのか説明を求めた。


「私が宙に浮いたときの風に似ているのだ!」

「警視庁で大勢の紳士が空中に舞い上がったときの風でさあ!」


 ロット卿とダフは、警視庁に火事の幻が出た日、一連の怪異の始まりとも言える不思議な夜の体験談を紳士たちに語った。

 話を聞いた紳士たちは半信半疑で、頷いたり唸ったりする。


「たしかに先程の風は、ふっとした妙な感覚があったような……」


 紳士の一人が少し考え込むような顔で言った。


「きっと亡霊たちが来ているのだ」


 ロット卿は確信を持って予言した。


「あのときと同じ風が吹いたのだ。警視庁の亡霊たちはここに来ている!」






「キルディアのブリギッドと申します。拝顔の栄に浴し身に余る光栄に存じます」


 箒に乗り飛来した魔女ブリギッドは、社交用の顔で少年吸血鬼ユースティスの前に立つと、国王の御前であるかのように膝を折り優雅に一礼した。

 ブリギッドはゆるくうねる金髪を垂らしており、認識阻害のマントの下はいつもの男装だ。


「吸血鬼ギルドで顧問を務めております、エステルヴァインです。私にそのような礼は不用です」


 ブリギッドの挨拶を受け、ユースティスは淡々と言った。


「ブリギッド氏、銃弾の軌道を変えて欲しいのであります」


 ユースティスが「礼は不用」と発言したので瞬時に無礼講だと超理解したのか、タニスが早速会話に割り込んだ。


「可能です。……一体どのようなお望みでございましょう」


 ブリギッドは眉をひくつかせてタニスに微妙な笑顔を向けると、ユースティスに視線を戻して質問した。


 ユースティスが簡潔に意向を説明すると、ブリギッドは恭しい態度で了承した。


「ご用命いただけるとは光栄の至り。謹んでお受けいたします」

「報酬については後日の相談となりますが、吸血鬼ギルドが責任を持ってお支払いします」

「ありがたき幸せに存じます」

「ただし、くれぐれも人間に危害が及ばないようにお願いします。人間の安全は最優先です。その点をご留意いただきたい」


 ユースティスはブリギッドに冷たい視線と丁寧な口調で念を押した。


 元より人間に危害を加える事は条約で禁止されている。

 ユースティスの発言は、吸血鬼ギルドに依頼された仕事であっても人間に危害が及んだ場合、魔道士側に責任追及するという意味を含んでいる。


 ブリギッドは余裕の微笑みで受け答えた。


「私は襲撃者が動き出したら、風の道を作り銃弾を誘導し、なるべく馬車や建物に弾痕が残るように図らいます。周囲の人間はプロスペロー殿が防護してくださるのであれば、万が一、銃弾が風の道を逸れた場合でも人間の安全は守られるでしょう。その場合には弾痕は残らないでしょうが死傷者が出ることはないかと」


 ブリギッドは不測の事態が起こった場合、責任をプロスペローに擦り付ける準備を怠らなかった。

 そして自信満々といったゆったりした様子で優雅に微笑んだ。


「ですが万が一にも、銃弾が私の風の道から逃れることはないでしょう」

「銃を所持している襲撃者は現在二名が確認されています。二か所で同時に発砲された場合、同時誘導は可能ですか?」

「可能です、が……そうですね。万全を期すために、こちらでもう少し人員を揃えましょう」






「おーい、エリン! ミア!」


 ――王都タレイアンの官庁街。


 イングリス王国の国旗を掲げた堂々とした巨大建築が立ち並ぶ区画。

 その区画の中に優美にして清廉な白亜の四階建ての建築があった。

 内務省である。


 ラシニア孤児院事件の容疑者ジュード・カニングは、現在その内務省の中にある保安局に保護されていた。

 保安局は内務大臣の管轄下にある情報部であり、保安局員は文官ではなく軍人だ。


「ブリギッド様がお呼びだよー!」


 内務省の建物の上空で、箒に乗って暇そうに浮かんでいたワルキューレの魔女たちは、その声に一斉に振り向いた。


「エリンとミアは大至急、裁判所の方へ来いってさ!」


「えっ?! 裁判所?!」

「行っていいの?!」


 二人の魔女が驚きと喜びの混じった表情で、知らせを持ってきた魔女に確認する。


「エリンとミアには裁判所前で仕事があるらしいよ」

「こっちの警備、抜けていいの?」


 飛空隊ワルキューレ隊長タニスの指示で、ジュード・カニングが保安局から裁判所まで移動する道中の護衛をするよう魔女たちは指示されていた。


 だが普段からあちこちに小銃を持った警備員が配置されている官庁街や、容疑者が堅牢な護送馬車の中にいる状況では、暗殺者が動き出す可能性は低い。

 事件が起こる可能性が最も高いのは、裁判所前であろうことはあらかじめ予想されていた。


 タニスの命令であるとはいえ、歴戦のワルキューレの魔女たちにとって、保安局からの容疑者の護衛という仕事はとても暇で怠く、安全すぎてつまらない仕事であった。

 すでに待ちくたびれてもおり、気の短い者が多いワルキューレの魔女たちの中には、始まる前からこの仕事に飽きてしまっている者もいる。


「もし人が足りなければ、狩りの会に手伝ってもらえってさ」


 魔女たちの楽しい趣味の集まりである『狩りの会』。

 その会長であるタニスが何やら仕事をすると聞いて、面白そうなことになると予想した会員たちが多数、箒に乗って見物に来ていた。


「裁判所って最前線じゃん!」

「やった! 戦争だ!」


 魔女エリンと魔女ミアは目を爛々と輝かせ、快哉を叫んだ。

 他の魔女たちは二人のその様子を羨ましそうに眺めた。

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