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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

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204話 燎原の火

「警視庁の怪異について調査委員会が発足したのだが、高級紙にはまったく報道されていないね」

「どこぞの勢力が新聞を押さえておるのでしょうな」


 このところ珈琲館(コーヒーハウス)吸血鬼の巣(ヴァンパイア・ネスト)』は満員だった。


 怪事件が起こっている警視庁と同じ中央区にあることも繁盛の一因だろう。


 珈琲館は大衆酒場(パブ)のように階級で席が分けられることはない。

 その一方で珈琲館独自のルールがある。


 例えば、持ち込みを含め酒類は禁止であり、酔っ払いは入店できない。

 喧嘩も禁止で、争いを起こした者は店内にいる全員に謝罪として珈琲を一杯ずつ奢らねばならない。

 誰が相手でも常に温厚な態度で会話せねばならない。


 中世後期に現れた珈琲館は、男性たちが素面(しらふ)で真面目な議論を交わす場所であった。

 当時は情報交換所であり、様々な情報が集まる場所だった。

 百年前に市民運動が盛り上がった際には、珈琲館が議論の場であり、情報発信所であり、また集会所でもあった。


 だが情報発信の役目を新聞が担うようになると、珈琲館は次第に下火になっていった。

 男性だけで議論を楽しめる場としては、会員制のクラブが隆盛を極めている。


 それでも珈琲館が未だに根強い人気を持っているのは、やはり階級の区別なく様々な者との会話が楽しめるからだろう。

 珈琲一杯の値段で、隣り合わせた大学教授から専門知識の話を聞けることもあれば、素性の知れない人物から裏社会の危険な話を聞けることもある。


「タレイアン・スポーツ紙に掲載されていた心霊写真は、トンプソン警部補に間違いないです。警視庁の入口に佇む姿が生前そのままでした」

「おお、知り合いだったのかね?」


 珈琲の香りと煙草の煙が漂う店内で、男たちは時事問題を語り合っていた。


「トンプソン警部補は絶対に自死じゃないですよ。手がけている仕事が、ようやく目途がついたと言っていた矢先の事件でした」

「彼が手がけていた仕事とは、警視庁の内部捜査かね?」

「多分そうだったんだと思います。彼は仕事の内容について話すことはなかったので、その時は知りませんでしたが……。目途がついたと言っていた、あのタイミングでの自死は有り得ないです」

「やっぱりあの宗教団体が絡んでいるのかね……」


 身なりの良い紳士が言葉を濁してそう言うと、周囲の者たちも明言こそしなかったが肯定するかのように難しい顔をして唸った。


「警視庁が霊能者シャールラータンに除霊を依頼したとタレイアン・スポーツ紙に書かれていたが……」

「他の新聞には書かれてませんやね。トバシじゃないっすか?」

「あの鬼火(ウィルオウィスプ)はやはり心霊現象なのだろうな」

「旦那は警視庁の鬼火(ウィルオウィスプ)を見たんですかい?」

「ああ、見たとも。半信半疑で見物に行ったが、あれは本物だ」

「留置所でも不審火があったらしいですよ。火事騒ぎの件で消防隊が警視庁の中を調査したら、留置所近くの廊下にも焼け焦げの文字があったそうです」

「君、その情報はどこから?」

「タレイアン・スポーツ紙です」

「タレイアン・スポーツの記事は信用できんからなあ……」


 タレイアン・スポーツ紙は賭け事や色事、貴族や俳優女優の下世話な話など、低俗な話題に特化したゴシップ紙であった。


「しかし警視庁のあれは霊能者にでも頼らなきゃどうにもならんでしょうな」

「静電気だの特殊な磁場があるだのと解説する者もいるが……」

「霊現象だとしたら一連の不審死が原因でしょう。殺し過ぎたのですよ」

「除霊するより、司祭を呼んで鎮魂するべきだろう」

「警視庁での不審死が明らかにならなきゃ、亡霊たちは鎮まらんでしょう」

「ラシニア孤児院事件の容疑者も暗殺されてしまったのかね」

「死んだらニュースになるでしょう。まだ生きているのでは?」

「容疑者がラシニア孤児院の院長に就任したのはエグバート王子の結婚後だ。タレイアン公爵家が無関係とは思えんのだがな……」

「しーっ!」


 労働者風の身なりの男が、人差し指を口に当て、静かにというジェスチャーをした。


「旦那、さすがにそれは口にしちゃなりませんぜ」

「あ、ああ、そうだな」

「……マルシャ妃の生家ドスト男爵家の連中は頻繁にロスディン城に滞在しているらしいが、ドストには横領の前科があるからな。……王子のご成婚でうやむやになったが……」


 別の紳士が難しい顔でそう言うと、その隣の紳士は飄々とした何食わぬ態度で言った。


「ロスディン城の主はドスト男爵であるという噂がありますな。あくまでも噂ですぞ。王太子の居城を外戚が仕切るなど有り得ませんからな。あくまでも噂です」

「そういえば……」


 身なりの良い青年が深刻な顔で口を開いた。


「学校やその周辺で事件が起こるようになったのも、公爵家の悪童たちが入学してからでしたね……」

「ああ……ゴドウィン学院の……」

「パルム作法学校でも死亡事件がありましたね……」

「あれは衝撃でしたな」

「作法学校にも出るそうですよ」


 身なりの良い青年が重々しい口調で言った。


「少女の幽霊が」

「それは事件で死亡した少女なのかね?」

「そこまでは解りかねますが。少女の幽霊が出るとパルム作法学校の生徒の間では噂になっているようで、学校が再開しても怖がって登校しない令嬢が多いそうです」

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