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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

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134話 心霊探偵の採用条件

「じゃあその魔鏡を取り付けた写真機(カメラ・オブスキュラ)を使えば、誰でも心霊写真が撮れるってことか」

「撮影は出来まする。ですが魔鏡には魔眼と同じ失明のリスクがございます。誰もが安全に使用できるというわけではありませぬ」


 セプティマスは心霊写真が撮影できる写真機(カメラ・オブスキュラ)についてタニスにあれこれと質問していた。

 過去に森を焼かれたことに対する憤慨より、心霊写真への興味が勝ったようだ。


「使えるけど失明するってことか?」

「エーテルに耐性の強い不死者(アンデッド)であれば問題無く使うことができます。ですがもし人間がこの鏡面(レンズ)を覗いたら失明するでしょう。ゴブリンやドワーフなど生身の身体を持つエーテル耐性の弱い魔物にも同様の危険がございます」


 バジリスクスたちは一階の応接室(ドローイングルーム)に案内された。

 大きな窓からは、庭に咲く大輪のロゼリアが見える。


 ソファに座ったバジリスクスたちにロゼリア茶が振る舞われた。


「ファンテイジ殿、そろそろ本題に入ってよろしいでしょうか」


 タニスの隣りに陣取り、心霊写真についてのおしゃべりを続けているセプティマスにツェペシュが尋ねた。


「タニスは採用で決まりだよな?」


 セプティマスが確認すると、ツェペシュは回答を避けた。


「これから検討いたします」

「えー」


(はて? タニスを指名したのは、吸血鬼ギルドの方なのだが……)


 バジリスクスは内心で首を傾げた。


(下民の了解が取れたらそれで決まりではないのか?)


 吸血鬼ギルドがタニスを指名したということは、吸血鬼ギルドはタニスの採用を望んでいるという事だ。

 マークウッド同盟の実質最高位にあるセプティマスも、最初は難色を示していたが、今やすっかりタニスの採用を望んでいる。

 タニスの採用は完全に決定したと思える状況だ。


(何を検討することがあるのだ?)


「すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、改めてご説明させていただきます」


 ツェペシュが本題を語り始めたので、皆が注目した。

 セプティマスを除く吸血鬼ギルドの面々は訳知り顔ですましていたが、魔道士ギルドの面々には軽い緊張が走った。


「我々、吸血鬼(ヴァンパイア)ギルドは違法な呪物が使用された事件について調査を進めております。この呪術事件は人間を狙ったものです。そのため人間社会での調査を円滑に進めるため、人間向けの探偵社を設立いたしました」


 静まり返った室内に、ツェペシュの声はよく響いた。


「しかし我が吸血鬼ギルドには呪術に明るい者が不足しております。そこで呪術者を多数抱える魔道士ギルドの皆様にご協力を仰いだ次第です」


(我が魔道士ギルドにも呪術者はそれほど多くはないがな)


 バジリスクスは内心で独り()ちた。


 魔道士は不死魔術師(リッチ)であり、魔術師の成れの果てだ。

 魔力(エーテル)中毒で身体を害し人間としての生命を終えた不死者(アンデッド)であり、魔力(エーテル)による魔術が得意な魔物だ。

 魔力(エーテル)ではない、呪力(アストラル)による呪術は専門外なのだ。


「そしてタニス殿についてなのですが、優秀な魔道士であるとのことで我がギルド内に推薦の声がありました。しかし疑問の声もあるため、採用には条件を提示することとなりました。もし条件を飲んでいただけるのであれば採用ということになります」


 ツェペシュはそこで一端言葉を切り、魔道士ギルドの面々を見回した。

 魔道士たちは緊張した面持ちでツェペシュの次の言葉を待った。


「条件とは、タニス殿に使役魔法にて『異能者』に従属していただくことです」


「な、なんですと!」


 とんでもない条件にバジリスクスは声を上げた。


 使役魔法とは奴隷魔法のことだ。

 要するに『異能者』の奴隷になれという事である。

 あまりにも一方的で重い条件だ。


「異論があるのはご尤もです」


 ツェペシュは表情を変えずに淡々と語った。


「先日の『異能者』についての騒動のこともあり、我がギルドには魔道士について疑問を持つ者が少なくありません。批判を抑えるためには安心材料が必要です。この条件を飲んでいただけない場合には、タニス殿の推薦は白紙に戻すこととします」


「おい、アルカード!」


 セプティマスがツェペシュに抗議した。


「使役魔法って奴隷魔法だろ! 大事な心霊写真の人に酷いこと言うな! そんな酷いこと言って、逃げられたらどうすんだ!」


 そのとき、タニスが声を上げた。


「喜んでお受けいたします!」


 タニスは感極まってソファから立ち上がり、神を目の前にしたかのように両手を胸のところで組み合わせ、歓喜に満ちた表情で宣言した。


「私は『異能者』様の奴隷になります!」


 タニスの発言に、吸血鬼ギルドの面々は軽い驚きの色を浮かべた。


「……いいのか?」


 セプティマスは若干引き気味にタニスに確認をした。


「はい! 望むところであります!」

「……ならいいけど……」


 セプティマスは首を巡らせてツェペシュの方を向いた。


「条件を飲むって言ってるんだから、これで採用決定だよな?」

「はい。条件を飲んでいただけるなら何の異存もありません」

「よし!」


 セプティマスは再びタニスに向き直ると言った。


「タニスは採用決定だ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 タニスは感激に打ち震え、今にも泣き出しそうな顔で感謝の言葉を連呼した。


「必ずやお役に立ってみせまする!」

「ファウスタは悪い子じゃないから酷い命令はしないと思う。守ってやってくれ」

「おまかせください!」


 そのやり取りの中、もう一人立ち上がった者がいた。


「私も奴隷になります!」


 おもむろに立ち上がりそう宣言したのは、魔道士プロスペローであった。


「ぜひ私も奴隷にしていただきたい! 採用していただけるのであれば、私は喜んで奴隷になります!」


 プロスペローは怒涛のように自分の有用性を説いた。


「私はイングリス王国の宮廷魔術師でした。王宮の防護結界、秘密の部屋、隠し通路など、全て熟知しております。主だった貴族家の秘密についても存じております。現在、王室メンバーズにより密かに行われている防御魔術も私が確立した理論に基づいた術です。きっとお役に立ってみせます! ぜひ私も奴隷に!」


(……こいつら正気か?)


 バジリスクスは言葉もなく、目の前の光景に呆然としていた。






 奴隷の条件を了承したタニスと、奴隷に立候補したプロスペローに、バジリスクスは「待った」をかけた。

 この件はひとまず保留とし、魔道士ギルドへ持ち帰り協議してから、後日吸血鬼ギルドへ回答することとなった。


「プロスペロー、本当にそれで良いのか?」


 帰りの馬車の中でバジリスクスはプロスペローに確認した。


「かまいません。一つ星と言わず、追放でもかまいません」

「いや、追放はせぬ」


 プロスペローは七つ星魔道士だ。

 魔道士ギルドの頂点である七つ星が、吸血鬼ギルドへ出向することは認められないため、出向が決まったら六つ星に降格の予定であった。

 しかし出向するだけでなく奴隷となるのであれば、また話が変わって来る。


「さすがに吸血鬼の奴隷では外聞が悪すぎる。残念だが、一つ星に降格だ」

「心得ました。派閥も解散いたします」

「派閥は解散せずとも良い。だが長を務めることはならん。適任者を選び引継ぎをせよ」


 プロスペローの派閥は、魔道士ギルド内の三大派閥の一つだ。

 いきなり解散すれば混乱が予想される。

 ギルド長であるバジリスクスとしては穏便に治めたいところだ。


 吸血鬼の奴隷となった魔道士など、バジリスクスの個人的感情としては追放してしまいたいのだが、それもギルドの損害が予想されるので避けたかった。


 ただでさえ少ない魔道士の数はなるべくなら減らしたくない。

 そしてプロスペローは、魔道士ギルド内でおそらく最も知名度の高い魔道士であり、ギルドの威光を示すための広告塔でもある。


 現代社会において、バジリスクスたち中世の魔道士たちの大半はすっかりその名を忘れ去られているが、新参のプロスペローは逆に知名度が高い。

 二百歳そこそこのプロスペローの生前の時代は印刷技術も発達しており、彼の著作は広く一般にまで普及している。

 現代では、イングリス王国の偉大な魔術師といえばプロスペローなのだ。


 不死魔術師(リッチ)となる者は、ほぼ全員が生前は魔術師である。

 そしてプロスペロー以後の魔術師で、プロスペローの名を知らぬ魔術師はいないと言い切っても過言ではない。

 大抵の魔術師はプロスペローの著作から魔術を学ぶからだ。

 それゆえプロスペローの派閥には新参がぞくぞくと集まり、みるみる大きな派閥へと成長していった経緯がある。


「タニスの件、ヘカテは良いのか?」


 タニス本人は言い出したら一直線なので、確認するまでもないだろう。

 バジリスクスはタニスの上役であるヘカテに問った。


「ここで私が反対したら、タニスは魔道士ギルドを脱退するでしょう?」

「まあ、そうだな……」


 バジリスクスは深い溜息を吐いた。


「ではプロスペローとタニスは一つ星に降格、吸血鬼ギルドへ出向ということで皆に通達しよう」






「ハーミアには感謝してもしきれませぬ」


 もう一台の馬車の中、タニスはハーミアに感謝していた。


「ハーミアのおかげでマークウッドの悪魔に上手く取り入ることができました」

「良かったですね」


 心霊写真はハーミアの提案であった。


 魔道士ギルド会館の維持を任されているハーミアは、会館内の噂に明るい。

 バジリスクスやトリテミウスの会話から、セプティマスがロスマリネ侯爵邸の幽霊に興味を示しているという情報を入手していたハーミアは、タニスが以前に作った幽霊を撮影する写真機(カメラ・オブスキュラ)で気を引くことを提案した。


「ティナス社も作っておいてもらって本当に良かったです」


 光学硝子を製造するティナス社の設立は、そもそもハーミアの案であった。

 素晴らしい発明はするが、世事に疎く商売にも興味がない研究者タニスに、現実感覚があり実務に優れたハーミアが提案したものだ。

 会社や工房をハーミアが整え、社交が得意なブリギッドが製品を著名な学者に売り込むなどして宣伝した。


「ティナス社のおかげで血の議会は私に一目置いてくださいました。血の議会はファウスタ様の警備担当。心象を良くできたことは僥倖です」

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