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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

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133話 心霊写真

「風評被害であります!」


 悪い魔女と言われ、タニスは血相を変えて反論した。


「私について心無い噂が多々あることは知っております。しかしそれは風評被害であります!」

「でもタニスってワルキューレの魔女のリーダーだろ?」


 セプティマスは疑惑の半目でタニスを睨めつけた。


「た、たしかに、私は、ワルキューレの隊長を務めておりましたが……」


 タニスは大いに動揺を見せ、しどろもどろに答えた。


「森を焼いた悪い魔女じゃねーか」

「も、森、ですか……?」

「昔、マークウッドの森を焼いたのお前だろ。北側の大火事」


(あのときの、あれか!)


 セプティマスが何を言っているのか、バジリスクスは理解した。


 マークウッドの森林火災は過去に一度だけ。

 イングリス王国とゾヌグラシア王国が国境を争っていた時代。

 ゾヌグラシア軍に組みしていたバジリスクスたち魔道士が行った攻撃により引き起こされた火災だ。

 森に火をつけたのは、タニス率いる飛空隊ワルキューレだった。


(まずい、非常にまずい……)


 バジリスクスは自分が今、窮地に陥っていることを覚った。


(わし)が森を攻撃するよう命じたと、下民が知ったら……非常にまずい!)


 飛空隊ワルキューレによるマークウッドの森への攻撃は陽動だった。

 派手に暴れて魔物たちの目を引きつけろと、タニス率いるワルキューレに命令した上官はバジリスクスだ。

 まさか彼女らがやすやすとマークウッドの魔物たちの版図に侵入し、結果的に森林火災を起こすほどの戦果を上げるとはバジリスクスも予想外だったが、命令したのは事実だ。


 マークウッドの魔物たちの総司令官として、戦争の全体を見ていたツェペシュは当然そのことを理解しているだろう。


(ツェペシュ、言うなよ、絶対に言うなよ!)


「悲しい戦争の時代だったのであります!」


 セプティマスに糾弾されおろおろしていたタニスは、腹をくくったのか、真っ直ぐな反論を開始した。


「私はゾヌグラシア軍の兵士として、上官の命令に従っただけでございます!」


(儂が悪者になるじゃないか!)


 タニスの反論に、バジリスクスはますますの窮地に追い立てられた。


「でも火炎魔法をぶっ放しまくって大火事にしたのお前だろ?」

「命令だったのでございます!」


(ま、まずい! タニスを何とか援護せねば、儂の身が危ない!)


 バジリスクスは内心で大いに狼狽えながら思考を高速回転させ、タニスを何とか弁護しようと試みた。


「恐れ入ります、セプティマス殿」


 バジリスクスは努めて悲しそうな顔を作り、セプティマスに話しかけた。


「とても悲しいことですが、タニスの言うとおり、あれは戦争だったのでございます。バジリーたちだって戦いたかったわけではありません。戦うしか道がなかったのです。バジリーたちは仕方なくゾヌグラシア王の命令に従っていたのです。とても悲しい時代でした」


 時代やゾヌグラシア王に責任を負わせる方向でバジリスクスは説明をした。

 バジリスクスの話にセプティマスは首を傾げた。


「細かいことはよく解らんが、火炎魔法をぶっ放したのはワルキューレだよな」

「じ、時代が悪かったのでございます!」


 説明を理解しないセプティマスに、バジリスクスは大いに焦った。


 そのとき、意外な助け舟が現れた。


「解ります」


 バジリスクスに同意を示し、進み出たのは灰金髪(アッシュ・ブロンド)の吸血鬼の少年、『血の議会』エゼルワルド十三世だった。


「戦争とはそういうものです。兵士は上官に従い、軍は王に従い、諸国の王たちは国のために戦争を起こす。このナイアティア諸島は痩せた荒地だったと聞いています。中世の時代には少ない実りを奪い合い、それぞれが生き残るために争わねばならなかったのでしょう」


(こいつ天使か! 地獄なのに)


 血の議会の加勢を得て、バジリスクスはさらにセプティマスの説得を試みた。


「エステルヴァイン殿のおっしゃる通りでございます。時代が悪かったのでございます。北のゾヌグラシアは瘦せた土地。民は飢えておりました。ゾヌグラシアの王も必死だったのです。バジリーたちも、ゾヌグラシアの可哀想な痩せた子供たちのため、戦わねばならなかったのです」


「そうです、時代が悪かったのです!」


 タニスも必死の形相で言った。


「もともと私は人の役に立つ善い魔道士なのであります。戦争が全て悪かったのです。その証拠に、終戦後、私は大勢の人間たちを助けております。複式顕微鏡を改良し六百倍の倍率を実現したのも、この私めにございます!」


 タニスの言葉はセプティマスの耳をすり抜けているようだったが、エゼルワルド十三世は驚いたように青い双眸を見開いた。


「六百倍の複式顕微鏡……ティナス社の顕微鏡ですか?」

「はい、ティナス社は私の会社でございます」

「それは凄い」


 タニスとエゼルワルド十三世のやりとりに、セプティマスは盛大に首を傾げた。


「ユースティス、何の話をしている?」

「複式顕微鏡の話だよ。ティナス社は光学硝子の製造が主力で、光学機器をいくつか売り出している。複式顕微鏡もその一つ」


 エゼルワルド十三世が、話に付いて行けていないセプティマスに説明した。


「高性能の鏡面(レンズ)が顕微鏡の倍率を向上させたんだ」

「便利になったってことか?」

「病原菌が発見されて医学が進歩した」

「……うん?」

「万単位の人間の命を助けた、と言えば解る?」

「まじか!」


 急に吃驚したようにセプティマスは叫び、そしてまた首を傾げた。


「どうやって?」

「だから、高性能の顕微鏡のおかげで、病原菌が発見されて……」


 エゼルワルド十三世は懇切丁寧にセプティマスに説明をした。


 プロスペローはそんなエゼルワルド十三世をうっとりと見つめ、美しい音楽に浸るようにその説明に聞き入っていた。


 魔女ヘカテとハーミアは、静かな眼差しでその場を見守っている。


 ヴァーニーは不機嫌そうなままだが、事の成り行きには興味があるのか、タニス、セプティマス、エゼルワルド十三世の言動を伺うように交互に見ていた。


 疲労の色の濃いブラックモアは茫洋とした眼差しで、どこか投げやりな雰囲気でぼんやりと立っている。


(ツェペシュはやはり何か企みがあるのか)


 ツェペシュも平然とした顔でその場を眺めていた。


 玄関先では挨拶のみで、これから館内に案内されるはずが、状況は盛大に脱線している。

 ツェペシュであればすぐにでもこの場を仕切り直しそうなものであったが、彼は何故か静観していた。


鏡面(レンズ)だけでそんなに変わるのか?」

「変わるよ。高性能の鏡面(レンズ)が登場したから、顕微鏡も性能が上がって……」


 説明を理解しないセプティマスと、根気よく説明するエゼルワルド十三世。

 その二人のやり取りをしばらく見ていたタニスが、おもむろに口を開いた。


「お、恐れ入ります、マークウッドの盟主代理!」


 タニスは意を決したような顔で言った。


「実は、鏡面(レンズ)の有用性を証明する品を、本日持参しております!」


 そう言いタニスは、手にぶらさげていた婦人用小物袋(レティキュール)の口紐を緩め、中をごそごそと探った。


(ここでその変な袋を開けるのか?!)


 タニスが何を取り出すか、バジリスクスは一瞬身構えた。

 だが意外に、普通のものが出て来た。

 それは薄い小冊子だった。


写真帖(アルバム)か?)


「こちらの写真をご覧ください」


 やはり写真帖(アルバム)だったらしい、その小冊子を、タニスはセプティマスに差し出した。


「私の開発した鏡面(レンズ)により、心霊写真の撮影に成功いたしました。これが証拠の品にございます」


「まじかーっ!!」


 セプティマスは瞠目して大声を上げ、タニスの差し出した写真帖(アルバム)に食いついた。


「これ幽霊か?!」


 手渡された写真帖(アルバム)を開き、セプティマスは食い入るように写真を見た。


鏡面(レンズ)で心霊写真が撮れるのか?!」


「はい。私の開発したエーテルを可視化する鏡面(レンズ)、魔鏡として販売しておりますが、それを写真機(カメラ・オブスキュラ)に組み込み幽霊を撮影することに成功いたしました」


 タニスはここぞとばかりに自分の有用性を宣伝した。


「怪奇事件を調査する心霊探偵社を設立なさったと聞いております。私を心霊探偵としてご採用いただければ、写真機(カメラ・オブスキュラ)にて幽霊を撮影し、調査に貢献する所存でございます」


「お前を採用すれば心霊写真が撮れるのか?!」

「はい!」

「よし、採用!」


(は?)


 一瞬、何が起こったか解らず、バジリスクスの時間は止まった。


 他の面々もバジリスクス同様、声も無く固まっていた。


「ほ、本当でございますか?! 私を採用していただけるのですか!」

「お前を採用すれば心霊写真が撮れるんだろ?」

「はい!」

「採用だ。決まり」

「ふおぉぉ!!」


 タニスは変な声を出し、面接の合格に歓喜した。

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