13話 暗躍
主人の晩餐の給仕を終え、ランプを手に持ち地階の廊下を歩いていたアルカードは眉をひそめた。
ボサボサの黒髪に貧相な服装の少年ティムが、家令室の扉の前にまるで物乞いのようにペタリを座り込んでいたからだ。
「ティム、そこで何をしているんです?」
ティムの目がランプの灯りを受けて金色に反射した。
「お、帰って来たか!」
ティムはぴょんと立ち上がった。
「勝手に部屋に入ったら怒るだろ? だから待ってた」
「私の部屋に何か用ですか?」
「デイリー・ブラスト紙を読みたい。あるんだろ?」
「ひどい嘘だな」
家令室の暖炉脇の安楽椅子に座りデイリー・ブラスト紙の過去号を読み始めたティムは、両袖机で仕事をはじめたアルカードに不満をぶつけた。
「嘘だけでこんな記事を書くのはさすがにやりすぎだろ。ほぼ空想小説じゃん」
「全てが嘘というわけではありません。真実の方が多いです」
「これの一体どこに真実がある?」
「人物が入れ替わっているだけでほぼ真実です」
アルカードは帳簿をつけながら、ティムの方は向かずに答えた。
ティムは新聞に再び目を落とした。
『マークウッド辺境伯家の崩壊! 悪魔憑きの異常行動!』
『マークウッド辺境伯令嬢オクタヴィア・ステラ・ファンテイジ様はドナリー伯爵令息イアン・ファーガス・ドナリー様とご婚約なさっていましたが、オクタヴィア様はドナリー伯爵家の家格や財産にご不満があったようです。「貧乏伯爵の分際で」とオクタヴィア様がご婚約者の家を罵倒なさるヒステリックな声がマークウッド辺境伯家には毎日のように響き渡っていました。格下の貴族との婚約を決めたご両親にオクタヴィア様は強く反発なさり、毎日物を投げつけるなどして荒れ狂う始末。お嬢様に物を投げつけられた使用人の悲鳴や、散乱する陶器や銀器でお屋敷の中はいつも戦場のようでした。オクタヴィア様に陶器を投げつけられマークウッド辺境伯夫人が怪我を負われた事も。「まるで悪魔憑き」と使用人たちはオクタヴィア様の異常な凶暴さに怯え、次々と辞職していきました(ファンテイジ家を知る関係者)』
「オクタヴィアは伯爵家との婚約が不満だったのか? 伯爵なら上位貴族だし格下ってほどでもないと思うけど」
「お嬢様からはそのようなお話は聞かされておりません、が、しかし……」
アルカードは帳簿に羽根ペンを走らせながら答えた。
「躾の悪いメイドが、お嬢様のご婚約者を『貧乏伯爵の息子』と侮り『格下との不幸な結婚』と他の使用人たちに吹聴して回っていたという報告は受けております」
「躾の悪いメイドってナスティとか言うメイド?」
「そうです」
「陶器が割れたのは騒霊現象のせいだよな?」
「はい。それ以外にも、躾の悪いメイドが階段に茶器や銀器をぶちまけたことがあります。ちなみに、それを見たバーグマンが悲鳴をあげておりました」
「その躾の悪いメイドもナスティ?」
「そうです」
「使用人が辞めたってのは?」
「躾の悪いメイドに恐喝されて辞職した者がおります」
「恐喝したのはナスティ?」
「はい。見習いも含め三人がナスティに脅され辞職しました」
「なんで手を打たなかった?」
「恐喝が行われていた事が発覚したのはナスティが解雇された以後です。その者たちが辞職を申し出た時点では把握していませんでした。皆もっともらしい理由で辞職しましたので当時は気付きませんでした」
「女が恐喝ってどうやったの? 破落戸や犯罪組織の後ろ盾があったとか?」
「警視総監のグロス男爵は自分の伯父であるから、自分に逆らったら警視総監に頼んで逮捕してもらうから覚悟しろ、などと脅したようです」
「制服を着てる組織が後ろ盾か……」
ティムが面倒臭そうな顔をしたが、アルカードはあっさり否定した。
「いいえ。同じグロス姓ですが、調査の結果グロス男爵家との間に縁はありませんでした」
「成りすましかよ!」
『マークウッド辺境伯の嫡子セプティマス・オズワルド・ファンテイジ様は女好きで有名な方です。王立ゴドウィン学院を退学処分になったのも女性問題が原因でした。遊び好きのセプティマス様はご婚約者であるルース子爵令嬢に不満があったようで「つまらない地味な女」と常日頃ご友人たちに愚痴をこぼしていました。(ファンテイジ家に近しい関係者)』
「セプティマスって書かれてると、オズワルドの事だって解ってても、自分が悪口言われてるみたいでむかついてくるな」
「同じ名前ですからね」
「オズワルドのことをセプティマスって言う時点で身内の発言じゃないじゃん」
ティムは不機嫌そうに眉を歪めた。
「それにここに書かれてる奴はオズワルドと完全に別人だろ。あいつ引きこもりで友達いないのに、どうやって友達に愚痴言うんだよ。空想の友達か? どっちかっていうとオズワルドが女に嘲笑される側だし」
「別人であるという部分には同意いたします」
「そういえばオズワルドが学校辞めた理由って何だったの?」
「上級生から暴力を受けたことをきっかけに自主退学されました」
「あいつ顔からして弱そうだから……やられ役の顔だよな」
「同じような顔をして、よくそういう事が言えますね」
「いや、俺とあいつは、顔は全然違うだろ」
「そっくりですよ」
『マークウッド辺境伯の嫡子セプティマス様は不埒な目的でメイドを無理やりご自分のお部屋に引き入れようとなさいました。しかしメイドの悲鳴を聞きつけた他の使用人が助けに入り、事なきを得たのです。セプティマス様はメイドが思い通りにならなかった事にご立腹され、被害者であるメイドを解雇なさいました。(ファンテイジ家関係者)』
「オズワルドの世話してるのは従僕だろ? 部屋から出て来ない奴がどうやって部屋の外にいるメイドを連れ込むんだ」
「躾の悪いメイドがオズワルド様のお部屋に不埒な目的で忍び込んだ事がありました」
「ナスティ?」
「そうです。ナスティに夜這いをかけられ、オズワルド様は呼び出しベルを鳴らし助けを呼ばれました。オズワルド様の悲鳴を聞きつけたユースティスが即座に駆け付けました」
「悲鳴をあげたのはオズワルドか」
「そうです。呼び出しベルの激しい鳴らされ方に従僕たちも異常を察し大至急三階に向かいナスティを取り押さえました」
「なんかそれ、すごく想像できる」
「想像通りだと思います」
「オズワルドがメイドを解雇したってのは?」
「この件にはご当主も奥様も大変ご立腹なされ、お二人の合意のもと暴力事件として警察に通報し、ナスティ・グロスの身柄を警官に引き渡しました」
「解雇じゃなくて逮捕かよ!」
「ええ。ですが彼女は軽い罰金だけですぐ釈放になりました。ナスティはこれみよがしに泣きじゃくって被害者を装っていましたし、若様がメイドに襲われたと聞いて警官は首を傾げていましたから、上手く警官の同情を引いたのでしょう」
「普通は逆だもんな」
「事件の翌日に解雇の処理をしたのは私です」
『マークウッド辺境伯は悪魔召喚の儀式に熱中していらしゃいます。辺境伯が召喚した悪魔がお子様たちに取り憑いたのではないかと周囲ではもっぱらの噂です。悪魔憑きと噂されるほどファンテイジ家のお子様たちは異常行動を繰り返しているのです。(ファンテイジ家に近しい関係者)』
「悪魔憑きって噂してるのはデイリー・ブラスト紙だけだろ」
「ええ、そうです」
「ナスティのやらかしが全部、オズワルドとオクタヴィアに擦り付けられて、悪魔憑きとか言われてるわけか」
「そうです」
「じゃあ悪魔憑きはナスティだろ」
「オクタヴィア様も同じ事をおっしゃっています。ナスティが来た当初から」
ティムは新聞から顔をあげ、アルカードに目をやった。
「なるほどね。なんで悪魔なんていう明らかなガセネタで婚約解消になったのかと思ったら、こういう書き方をされたわけか」
「それだけというわけではありませんが、外堀を埋めたのはその報道でしょうね」
「他にも何かあるの?」
「ええ、まあ」
アルカードは思案するような顔で動きを止めたが、やがて羽根ペンを置いた。
「読んだ方が早いでしょう」
アルカードは両袖机の引き出しから別の新聞を取り出し、ティムに渡した。
「またデイリー・ブラストか」
「最新号です」
『また婚約者が逃げた?! マークウッド辺境伯家の醜聞! 悪魔に狙われた悲劇の花嫁たち!』
『マークウッド辺境伯の嫡子セプティマス・オズワルド・ファンテイジ様の最初の婚約者はメクミラン侯爵令嬢でした。しかし婚約中にセプティマス様は女性関係で問題を起こし王立ゴドウィン学院を退学処分となってしまったのです。セプティマス様の乱行は社交界でも激しく批判を浴び、これを問題視したメクミラン侯爵家は令嬢とセプティマス様との婚約を白紙に戻しました。大事な愛娘が女たらしの不良との結婚で不幸になることに侯爵は我慢がならなかったのでしょう。(社交界を知る記者)』
「こいつらなんで退学は女性問題って決めつけて書いてんだ?」
「女性問題という事にしたいのでしょう」
「学生のオズワルドがどうして社交界で話題になったかね」
「新聞に書かれたからでしょう。昨年、王立ゴドウィン学院を自主退学なさった時分、ゴドウィン学院周辺の地区で起こった事件を絡めて、まるで犯人であるかのように書き立てられました」
「なんか事件あったの?」
「ゴドウィン学院近隣で少女死亡事件がありました。実は殺人事件であり犯人はゴドウィン学院の生徒だという推理があちこちで話題になっていました。大手新聞がこの事件をあまり追及しないことから、かなりの地位や財産のある家の子弟が犯人であるという説が有力でした」
「ゴドウィン学院の生徒で、かなりの地位や財産のある家の子弟って、オズワルドに完全に一致するじゃん」
「ええ、ですから自主退学は、疑惑を遠ざけるためにも賢明な判断でした」
『マークウッド辺境伯が、嫡子セプティマス・オズワルド・ファンテイジ様の結婚相手として次に目をつけたのはルース子爵家の令嬢でした。ルース子爵家は貴族としては慎ましい生活ながら、令嬢は評判の美少女。マークウッド辺境伯は財力にものを言わせ嫡子セプティマス様とルース子爵令嬢との婚約をまとめたのです。「金で花嫁を買った」ともっぱらの噂でした(ファンテイジ家を知る関係者)』
「さっきの新聞ではルース子爵令嬢は地味でつまらない女だったよな。いつのまに美少女になったんだ」
「個人の感想でしょう」
「しかも財力にものを言わせて花嫁を買ったとか……まあ財力はあるけど」
「それは大体合っています。ファンテイジ家の財力に期待して、婚約を積極的に進めたのはルース子爵の方ですが」
「買われたんじゃなくて売られたのか」
「体面を保てず没落する貴族が多いですからね。ルース子爵はファンテイジ商会の事業に関わりたかったようです」
「しっかしセプティマス、セプティマスって、デイリー・ブラストは俺に喧嘩を売ってるな」
「同じ名前ですから仕方ないですね」
『身分を超えた恋! 真実の愛を選んだ貴族令嬢!』
『ルース子爵令嬢にはかつて慕い合っていた幼馴染がいました。お似合いの美少年と美少女でしたが身分違いであったため少年は令嬢の幸せを願い身を引いたのです。しかし青年となった彼の耳に、悪魔憑きと噂されるマークウッド辺境伯家の不良息子とルース子爵令嬢が婚約したという驚くべきニュースが飛び込んで来ました。こんな事になるなら身を引くべきではなかったと彼は後悔しました。想い人の不幸を見過ごすことはできず彼は令嬢を救う事を決意しました。青年の申し出に、令嬢も身分を捨て愛に生きることを選び、二人は将来を誓い合いました。そして二人は手に手を取って出奔し、新天地ネオレイシアを目指し船出したのです。ロマンス小説のような二人の大恋愛に周囲は大変驚かされました。まさに運命の恋と言えるでしょう(社交界を知る記者)』
「令嬢は……かどわかされたのか?」
「令嬢の意志で家出をしたようですが、世間知らずの貴族の娘ですから甘言につられたのでしょう。相手の男は舞台俳優だそうです」
「ネオレイシアに行って役者の妻になるのか」
「ネオレイシアは舞台演劇が盛んですから渡航を望む役者は多いようです。しかし成功するのは一握りでしょうから、どうなることやら」
「うーむ……」
ティムは安楽椅子に体を沈め、天井を眺めて唸った。
「この二人は駆け落ちしたのに、新聞社はどうして行先がネオレイシアだって知ってるんだ? ルース子爵は取材を受けたのか?」
「ルース子爵は令嬢の駆け落ちに大変な衝撃を受けて卒倒なさり、現在自宅療養中との事です。新聞社の取材を受けたとは思えませんが……」
「じゃあナスティと同じで、男も仕込み?」
「そうかもしれません。あるいは身内の誰かが金銭を得るために新聞社に情報提供をしたのかもしれません」
「物騒だなぁ……。そもそも貴族が役者と幼馴染って変だよな」
「それは有り得ます。ルース子爵家の暮らしぶりは中流と大差なく、料理人と雑役メイドがいるだけで執事がいない家でしたから、庶民と親しくする機会もあったのでしょう」
「執事がいないとか、ほぼ庶民みたいな家となんで婚約したんだよ」
「ご当主はルース子爵とは占星術クラブで親交がありました。令嬢とオズワルド様の相性が占星術で大変良好であったと伺っております」
「そんなんでよくヴァネッサが了承したな」
「奥様は当初は反対なさっていましたが、令嬢にお会いして気が変わられたのです」
「ほう」
ティムは興味ありげな顔で、安楽椅子の上でのけぞりながらアルカードに問いかけた。
ランプの光に照らされた室内に、ティムの座る安楽椅子の影が大きく揺れた。
「ヴァネッサが気に入るような娘だったのか?」
「ルース子爵令嬢はオズワルド様より三歳年上で、父の顔を立てるために招きに応じたものの、占いなどは信じておらず、オズワルド様との結婚も非現実的ととらえていたようです。令嬢は家庭教師の仕事で生計を立てる事を考えておられ、その現実的な考えが奥様のお気に召したようです。線の細いオズワルド様には、しっかり者の年上の妻が釣り合うだろうと」
「なるほど」
「ルース子爵は事業の才はありませんが血筋は良く、令嬢もお目にかかった当初はしっかりしたお嬢さんのようにお見受けしました。家庭教師の職を探しているだけあり教養も作法も申し分ありませんでした」
「血筋の良いお坊ちゃんが事業で騙されて財産持っていかれるとか、世間知らずの令嬢が色男に騙されるとか、ありがちな話だなぁ」
ティムは何か不味い物を食べたかのように顔を顰めた。
「三歳年上なら十九歳か。ガキんちょのオズワルドより、同い年か年上の男のほうがそりゃ良いよな。だったら普通に破談にすりゃ良かったのに」
「相手の男は舞台俳優ですし、恋愛小説のような劇的な演出に酔ってしまったのかもしれません。若者にはよくあることです」
「オズワルドは金持ちってだけで完全に悪役じゃん。令嬢と役者とオズワルドの三人で小芝居ができそうだな」
「オズワルド様は幸いずっとお部屋に引きこもっていらっしゃっるので、最近の新聞記事をご存知ありません」
アルカードは横目でじろりとティムを睨んだ。
「余計な事はしないでくださいね」
「お、おう」
「オズワルド様はご婚約者のルース子爵令嬢が駆け落ちなさった事をまだご存知ありません。周囲が落ち着いてから、時期を見てご当主がご説明なさるとの事で、それまではそっとしておくようにとのご指示です」
「婚約者が逃げたのに本人知らないのかよ。鈍い奴だなー」
他人事のように軽口を言うティムに、アルカードは呆れた視線を向けた。
「あなたもつい先程まで知らなかったでしょう」
「まあ、そうだけどさ。でも俺は本人じゃないし」
「オズワルド様は繊細なお方で、まだ十六歳でいらっしゃいます。世間の風評からは遠ざけて差し上げた方が良いでしょう」
「それもそうだな。まだ子供みたいなもんだし……」
ティムは安楽椅子に体を沈めると、腕組みをして難しい顔をした。
「しっかり者のヴァネッサが倒れたんだもんな。オズワルドは小心者だから倒れる以上の事が起こりそうで確かに怖いな。三年くらい寝たきりになりそうだ」
「奥様が倒れたのは、半分くらいあなたのせいですよ?」
アルカードが咎めるような目でティムにそう言ったので、ティムは水でも掛けられたかのように吃驚した顔になった。
「なんで?!」
「諸々の問題に悩まされている時に、ご当主が守護霊から手紙が来たなどとはしゃぎ始めたからです。頼りにしているご夫君がついに乱心なさったのかと、奥様は大変な衝撃を受けられたのです」
「ええー?!」
ティムは心底意外そうな声を上げた。
「リンデンの心霊好きはいつものことだろう。今更驚く事じゃないだろうに」
「時期が時期でしたから」
アルカードは頭痛に悩まされているかのように、こめかみを揉んだ。
「心無い新聞報道のせいで、ご当主は連日議会では野次を飛ばされ、家の中も騒がされ、すっかり意気消沈なさっていたのです。ひどくお疲れのようでこのところずっと暗いお顔でした。それが急に、弾けるような元気で『守護霊様から手紙が来た!』と小躍りなさいましたので、ついに狂ったかと思われたのです。ご当主のお気が確かかどうか私も少々疑いました」
「リンデンが元気になれたなら良かったじゃん!」
ぱあっと明るい顔で言うティムに、アルカードはじっとりした視線を向けた。
「それであなたは、皆を吃驚させる手紙だけ置いて、昨日はどこへ雲隠れしていたんです?」
「あー、昨日は魔道士ギルドに行ってた」
「ほう? 一体何用で?」
「ちょっと魔眼を自慢しに。あいつら吃驚するだろうと思って」
「……自慢? 楽しかったですか?」
「まあね。これ見てくれよ」
ティムは椅子から体を浮かすと、ズボンのポケットから何やら取り出した。
それは小さな手持ちの拡大鏡のようなものだった。
「これこれ、これ貰った」
ティムはその拡大鏡のようなものを自分の顔の前にかざし、鏡面を通してアルカードを見た。
「新作の魔鏡だよ! 放出された魔力が見えるんだと」
「ほう」
「アルカードはやっぱ魔力あるな。モヤってる」
「それ、いくらしたんです?」
「貰ったんだよ。貰い物だからタダだよ。そのかわり魔眼を見せる約束した」
「魔眼というのはファウスタのことですか?」
「他に誰がいるんだ?」
あっけらかんと言うティムに、アルカードは呆れ顔で言った。
「ファウスタを魔道士ギルドに連れて行くつもりですか?」
「どうだろ。そのへんはまだ全然詰めてない。向こうが来るかもしれないし。見せるって約束しただけ。魔眼はここ二百年くらい現れてなかったからな。あいつらめちゃくちゃ羨ましがってたよ」
楽しそうにはしゃぐティムを前に、アルカードは顔を曇らせた。
「ティム、一週間ほど守護霊部屋で謹慎していてもらえませんか」
「ええー、なんで?」
「問題を一つずつ片付けたいからです」




