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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

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127話 山積みの予定

「タレイアン公爵は呪われているのですか?」


 侍女たちの休憩室でもある裁縫室で、ファウスタは午後のお茶の時間を過ごしていた。

 三人の侍女のうちの一人、ヘンリエタはマークウッド辺境伯夫人と外出していた。

 残りの二人の侍女ミラーカとネルは吸血鬼だったので、ファウスタは視えざるものについて遠慮なく質問することが出来た。


「サー・ロジャーは、タレイアン公爵が呪われていると疑っていらっしゃるようでした」


 高級レストラン『黄金の鹿』で呪いの話が出たとき、サー・ロジャーはファウスタにタレイアン公爵を見た事があるかと質問して来た。

 呪われていると疑っているからこその質問だろう。


「タレイアン公爵は今までに何度かお体を悪くされているの。でも健康を害されている一番の原因はお酒の飲み過ぎよ。呪いではないわ」


 ミラーカは優雅にお茶を飲みながらファウスタの質問に答えた。


「食生活もあまり健康的ではなさそうだから、そのことでサー・ロジャーは責任を感じていらっしゃったのだと思うわ。サー・ロジャーがロスディン城の料理長を辞職した後、タレイアン公爵夫妻はみるみる肥え太っていったのですもの」


 吸血鬼の中では身分が高いらしいミラーカの前で、ネルは口を閉ざして控えていたが、興味がある話題らしく真剣な表情で聞き入っていた。


「暴食は七つの大罪だから、それでタレイアン公爵家は呪われていると言われることもあるの」


 ミラーカはファウスタに微笑みかけた。


「本当に呪われているかどうかは、来月にははっきりするわね」

「そうなのですか?!」

「そうよ。だってファウスタに視てもらうのですもの」

「私が?!」


 ファウスタは意表を突かれて驚いた。


「あら、忘れちゃったかしら? お嬢様の頭の上の王冠と同じものが王族の方々にもあるかどうか、即位記念祭にバルコニーに出ていらっしゃる王族の方々を霊視して確認するのでしょう? 女王陛下の即位記念祭は来月よ。王太子であるタレイアン公爵もバルコニーにいらっしゃるわ」


(そういえば、そうだったわ……)


 忘れかけていた予定を告げられて、ファウスタは軽く衝撃を受けた。


「そうそう、ファウスタのその眼鏡を作った魔道士が、タレイアン公爵夫人は呪い返しの呪術を使っていると予想しているそうよ」

「私の眼鏡を作ってくださったお方が?!」


 エーテル防護眼鏡の便利さにファウスタは日々感心していたので、眼鏡の制作者に敬意を持っていた。

 どんな仕組みでエーテルが眼鏡に弾かれて視えなくなるのか、ファウスタにはさっぱり解らない。

 こんな凄い眼鏡を作った人は、きっととても頭が良くて何でも知っている凄い学者なのだろうと思っていた。


(この眼鏡を作ったお方がそうおっしゃっているのなら、タレイアン公爵夫人にはきっと何かあるのね)


「ファウスタは来月は忙しいわよ」


 ミラーカは苦笑した。


「心霊探偵社も事務所が整ったから、そろそろ旦那様からお話しがあると思うわ。フラメールが神秘学の講師(チューター)として来るし、絵画の先生もようやく決まって来週からいらっしゃるから、お勉強の日程も組み直さなければならないわね」


(あっ! 絵のお勉強!)


 予定が山のように重なっていることに気付かされ、ファウスタの心は大きく動揺した。


 心霊探偵の仕事はファウスタにとって儲け話だ。

 頑張って沢山稼ごうと意欲を持っている。


 魔道士である古物商フラメールに魔術の色々を教えて貰えることについては、ファウスタは少し楽しみにしていた。

 ファウスタは視えざるものが視えるが、その意味は解らない。

 フラメールに色々教えてもらって勉強をすれば、視えたものの意味が解るようになるかもしれないという期待があった。


 しかし苦手な絵を習うことについては、高い山脈のような障害を感じた。


(でもお嬢様と旦那様のご希望なのだから、絵のお勉強は断ることはできないのだわ。私の下手な絵を二百ドログで買っていただいたんですもの。きっとこれは下手な絵を売った天罰なのだわ)


 ファウスタは神妙な顔で、殉教者のように絵画の勉強を受け入れた。


「ファウスタはこれから心霊探偵の仕事で外出が増えると思うけれど……」


 ミラーカはそう言い、少し思案気するように言葉を切って目を伏せた。


「そうね、少し話しておいたほうがいいわね」


 ミラーカは意を決したように、ファウスタを見据えた。


「ファウスタが見つけてくれた呪いの人形のことなのだけれど。私たちは人形の制作者を探しているの」


(そっか。呪いの人形があるってことは、それを作った人がいるんだ)


 ファンテイジ家の三階の部屋にあった悪魔人形に、黒い魔法陣がくっついていたことをファウスタは思い出した。


(魔法陣があるってことは、魔術を使った人がいるんだよね)


「だから外出先で、普通の人間とは違う人を見かけたり、何か変わった現象を見たりしたら、すぐに私たちに教えて欲しいの」

「普通の人間とは違う人というのは、魔物のことでしょうか」

「必ずしも魔物であるとは限らないと思うわ。見え方が違う人や、エーテルやアストラルの流れがおかしな風景、様子がおかしい幽霊、とにかくそういった異変は全て私たちに知らせて欲しいの」


(様子がおかしい幽霊……)


 それについてファウスタは思い当たることがあった。


「あの、最近、幽霊の間でおしゃべりが流行しているようなのですが、それも異変でしょうか」

「おしゃべり?」


 ミラーカは少し不思議そうな顔をして問い返した。


「はい。孤児院にいたときは幽霊同士でおしゃべりしている姿は見た事がありませんでした。でもこの間、孤児院に行ったら幽霊同士がおしゃべりしていました。今までより大胆になっていて昼間でも出てきていました」


「ラシニア孤児院の件は、別件のような気もするけれど……」


 ミラーカは思考を巡らせているのか、再び目を伏せた。


「ロスマリネ侯爵邸でデュランさんと御姫様(おひいさま)もおしゃべりをしていて、『黄金の鹿』でもデュランさんとバクスレイさんがおしゃべりをしていたので、上流社会の幽霊には普通のことかもしれませんが、孤児院の幽霊たちは今までと様子が違っていました」


「……普通ではないかもしれないわ。少なくともバクスレイ氏と黒騎士デュランでは生きていた時代が違うから接点はないもの」


 ミラーカは話しながら考えをまとめるかのように言った。


「生前におしゃべりしていた相手と、幽霊になってもそのまま日常を繰り返すというのは有りがちなことよ。でも幽霊が積極的に新しい友人を作り、交流の幅を広げようとすることは無い、と言い切って良いと思うわ」


「お嬢様は、大きな事件が起こる前兆かもしれないとおっしゃっていました」

「お嬢様が?」

「はい。大きな事件が起こる事を霊たちが感じ取って騒いでいるのだと、お嬢様がおっしゃっていました」


 ファウスタの言葉に、少し驚いたようにミラーカは一瞬目を見開いた。

 そして艶然と微笑んだ。


「ファウスタ、それはとても有益な情報の一つかもしれないわ」

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再読してるんだけどフラメールさんに神秘学習うのはやめちゃった?
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