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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第3章 心霊探偵

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124話 幽霊の齟齬

「私はバクスレイ氏に目を掛けてもらい、彼の下で多くを学ばせていただきました。しかし私は彼に任された仕事を真っ当することができず、信頼を裏切りました」


 高給レストラン『黄金の鹿』の経営者であるサー・ロジャー・シスレーは非常に深刻な表情で、罪を告白するかのように言った。


「バクスレイ氏に任された仕事とは、ロスディン城の厨房かね」


 ロスマリネ侯爵は少し難しい顔をしてサー・ロジャーに問いかけた。

 サー・ロジャーは溜息を吐くように俯いて、重々しく肯定した。


「……はい」

「ロスディン城について君が責任を感じる必要はない。あそこを辞職したのは君だけではない。非常に難しい場所であることは皆が知っている」


 ロスマリネ侯爵も眉間に皺を刻み、サー・ロジャーとおそろいの難しい顔になった。


「いいえ……」


 サー・ロジャーは首を振った。


「私は料理長、厨房の管理者でした。女王陛下直々のご命令を受け、管理職を任されていながら、自分の勝手で辞職した者は私だけです。侍従長も侍女長も、立ち行かなくなる最後まで立派に仕事を全うされておりました」


 サー・ロジャーは遠い眼差しをした。


「私をロスディン城の料理長として女王陛下に推薦したことを、バクスレイ氏は後悔なさった事でしょう。私は女王陛下を失望させ、バクスレイ氏の信頼を裏切りました。……幽霊になって出て来るくらいです。恨み言を言いたいのでしょう」


(恨み言を言いたいって、恨んでるってことかしら?)


 ファウスタにはサー・ロジャーの話は少し難しく、耳をすり抜けたが、「恨み言」という部分は耳に入って来た。


 ファウスタはもう一度、幽霊のほうを見た。

 幽霊はファウスタの視線を受け止めて、ニパッと笑って手をひらひら振った。


(……あの顔は、やっぱり遊びに来てるだけじゃないかしら)


 幽霊のお気楽な様子に、ファウスタはただの物見遊山を再び疑った。

 一方、サー・ロジャーはこの世の終わりのような悲劇的な顔をしている。


 幽霊とサー・ロジャーの態度があまりにも違いすぎて、ちぐはぐだったので、ファウスタは何か大きな誤解がある気がした。


(サー・ロジャーは勘違いをしていらっしゃるのだわ)


 辛そうな表情のサー・ロジャーにファウスタは同情した。

 あんなに苦しそうなのに、原因がただの勘違いで実は何もなかったとしたら、あまりにも不憫で可哀想だと思った。


「あの、すみません、サー・ロジャー」


 ファウスタが口を開くと、皆が一斉にファウスタを振り返った。


「幽霊のおじいさんはサー・ロジャーを恨んでいないと思います。ずっと楽しそうに笑っています。遊びに来ているようにしか見えません」


 サー・ロジャーはファウスタの言葉に顔を上げたが、眼差しは暗いままだった。


「恨みや未練があるからこそ、幽霊は出て来るのでは?」

「そうなのですか?!」


 ファウスタは今まで幽霊が何故出て来るかなど考えた事もなかった。

 物心ついたころからファウスタにとって幽霊は世界に存在していたので、何故人間がいるのかと疑問に思わないのと同じく、幽霊も最初からそこに在るものだと思っていたのだ。


「恨みがあるから幽霊は出て来るのですか?!」

「普通はそうでしょう」

「でも幽霊のおじいさんは、すごくお気楽な顔です。恨みがあるように見えません」


「縁がある王宮料理人で、貴女の言う特徴を備えた人物はバクスレイ氏しかいません。バクスレイ氏の幽霊なら、私に恨み言の一つや二つ言いたいはずです。それだけの事を私はしでかしているのです」


 バクスレイ氏の幽霊であれば、恨み言があるはずとサー・ロジャーは主張する。

 しかしファウスタには、幽霊が恨んでいるようには見えない。


「……では、人違いでしょうか?」






「この写真の中に、その幽霊の人物は居ますか?」


 サー・ロジャーは、一度退室すると、写真立てを持って戻って来た。

 彼はその写真立てに入れられた写真をファウスタに見せた。


(あっ! この人!)


 その写真は何かの記念写真なのか、幾人もの料理人が並んで写っている写真だった。

 写真は枯葉色なので元の色彩は解らなかったが、料理人たちが並ぶ中央でニコニコしているふくよかな人物は、幽霊のおじいさんと同一感があった。


 ファウスタは写真から顔を上げ、幽霊を振り返ってもう一度顔を確認し、また写真に目を落として再確認した。


「この人です。髪の毛は無いですけど、顔は同じです」


 ファウスタは写真の中央の人物を指摘した。


「それがバクスレイ氏です」


 サー・ロジャーは悲しそうな顔のままで答えた。


 写真の中のバクスレイ氏は、幽霊のバクスレイ氏よりも少し若いようで、頭のてっぺんは光を放ち始めていたが、完全な禿げ頭ではなく、産毛のような薄い髪が頭をぐるりと覆っていた。

 子供のような笑顔は同じだ。


 写真の中のバクスレイ氏の隣りには、若かりし日のサー・ロジャーだと思われる料理人がいた。


「やはり、バクスレイ氏は私に恨み言を言いたいのでしょう」


 サー・ロジャーは表情を曇らせた。


(恨んでいるようには見えないけれど……)


 ファウスタは再び、かつての王宮料理長バクスレイ氏だという幽霊を振り返った。

 幽霊はファウスタの視線ににっかりと笑い、また何かしゃべりはじめた。

 その楽しそうな笑顔や、ちょっと得意気な様子は、とても恨んで出て来たようには見えなかった。


(直接聞いてみたら解るかしら)


 先程、幽霊がファウスタの問いかけに、頷くなどの身振りで答えてくれていたことを思い出した。


 ファウスタは幽霊に顔を向け、幽霊と目を合わせて質問した。


「あの、すみません……」


 何もない空間にまたしても語り掛け始めたファウスタに、皆は静かに注目した。

 暗黙の了解のように皆は口を閉じており、声を発する者はいなかった。


 サー・ロジャーは憂い顔のまま、給仕の青年は戸惑いながらも平静を装い、ロスマリネ侯爵は興味深そうに、ロスマリネ侯爵夫人は目をきらきら輝かせ、それぞれがファウスタの行動を見守っていた。

 三人の吸血鬼はいつも通りだ。


「貴方はバクスレイ氏ですか?」


 ファウスタの問いに、幽霊は大きく頷いた。


「サー・ロジャーのことを恨んでいらっしゃいますか?」


 幽霊は驚いたように一瞬目を大きく見開き、そして右手の平を立てて激しく数回振り、無い無いのジェスチャーをした。


(やっぱり)


 ファウスタはサー・ロジャーに答えを告げた。


「バクスレイ氏は恨んでないそうです」

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