123話 国難の化身(5)
「すみません、料理長、折り入ってお話ししたい事があるのです」
ロジャーと同時期このロスディン城で働き始めた厨房女中の一人が、思いつめたような表情でロジャーに告げた。
その様子を伺うように、ドスト男爵の推薦で採用された新参の厨房女中たちがこちらを盗み見ていた。
「その、個人的な事情も含みますので、できれば料理長だけにお話ししたいのですが……」
ロジャーは了承し、料理長に与えられている個室で話を聞くことにした。
「実は、辞職しようと思っております」
彼女は話し難そうに訥々と語った。
「何か問題があったのかね」
前侍従長から聞かされた脅迫状事件をロジャーは思い出していた。
「いいえ。仕事に問題はありません。ですが……」
彼女は盗み聞きを警戒するかのように、小さな声で事情を語った。
彼女は没落した下位貴族の娘だった。
親が新世紀派という新興宗教にのめり込み、土地や財産を新世紀派に寄付してしまったため没落したのだという。
「先日の園遊会にソルヴォス男爵が来ておりました。ソルヴォス男爵は新世紀派の信者です。新世紀派の信者は『一人を見かけたら、そこに百人いる』と言われています」
先日の園遊会に集まった貴族とは思えないガラの悪い人々や、屋台業者たちを思い出し、ロジャーの気分はずしりと重くなった。
ロスディン城の使用人たちも大分入れ替わりが進み、初期とは雰囲気がガラリと変わっている。
新しく雇われた者たちはドスト男爵の推薦という事だが、一介の男爵の人脈とは思えない人材がぞくぞくと集まっていた。
――あまり深く知らないほうがいい……。
――解雇されたメイドたちは幸運かもしれない。
前侍従長アドキンズ子爵の言葉が、ロジャーの脳裏を過った。
(ドスト男爵の後ろ盾は新世紀派か)
「料理長にはとても良くしていただいて、感謝しております。辞職する不義理をどうかお許しください。私にはもう、ここで正常な精神を保って仕事を続けていける自信がありません。一刻も早く離れたいのです」
ロジャーはロスディン城への移動が決まった時、次代の王室のために一生仕えるつもりであった。
師である王宮料理長バクスレイ氏に、イングリス料理の伝統の守り人として、次代の王室の厨房を託されたのだ。
料理人としての仕事に、熱意、希望、矜持を持っていた。
イングリス王国の王族でありながら、イングリス料理を「貧乏臭い」といって嫌う王太子夫妻には落胆した。
それでも、少しずつでもイングリス料理の良さを解ってもらおうと、現代風の味付けや他国の料理の良い点などを研究し、イングリス料理の改良を試みていた。
次代の王族にイングリス料理の良さを知ってもらうことが、王宮料理人としての使命であるように思ったのだ。
(だが、このままここに居て、イングリス料理の伝統を守れるのだろうか)
王太子夫妻はイングリス王国の伝統を蔑ろにし、自分たちを賞賛しない国民を逆恨みしては悪し様に言う。
ロスディン城には国民を悲しませる者たちが集い、肉料理を貪り食う。
その厨房で働き、彼らの好みの外国料理を提供するのが今のロジャーの仕事だ。
王国を蝕む寄生虫の群れに給餌しているような絶望感が、ロジャーの心を徐々に侵食しはじめていた。
――翌々年。
ロジャーがロスディン城の料理長となった二年後、その事件は起こった。
「ロスディン城の仕事を辞めて欲しいの」
ロジャーはロスディン城に住み込みで働いていたが、ひと月に数日の休日があった。
休日は自宅に戻り、妻子と過ごしていた。
その日、ロジャーが自宅に戻ると、ロジャーの妻が深刻な表情で言った。
「可哀想に、大勢の子に石を投げられたのよ」
まだ幼い息子クリスが怪我をしていた。
他の子供たちに石を投げられたのだ。
頭に巻かれた包帯が痛々しい。
手足にも擦り傷があった。
「意地悪な料理長の息子だと、デイリー・ブラスト紙の報道を知った近所の子たちに虐められたの」
(あのゴシップ紙の記事で……?!)
「貴方に非がないことは解っているわ。でも世間はそんなこと知らないの。中傷されるのはロスディン城で働いているからでしょう。だから辞職して欲しいの。貴方の仕事のせいで子供が虐められて怪我までしてるのよ」
(まさか子供に被害が及ぶことになろうとは……)
マルシャ妃は体調不良を理由に、王族としての仕事の大半を欠席するようになっていた。
明らかに異常な事態だったが、その異常が日常になっている。
マルシャ妃が出て来ない方が幸いとでも思っているのか、女王の真意は測りかねるが、結果的にマルシャ妃の希望はかなっていた。
一カ月に一日二日しか仕事をせず、時には一ヵ月丸々休暇である状況で、マルシャ妃は頻繁にお忍びで外出し遊び回っていた。
その結果、王太子妃として国中に顔を知られているマルシャ妃は、外出先のあちこちで国民に目撃され批判を受ける事となった。
その批判を逸らすために「料理長がマルシャ様を虐めているのです。ロスディン城では粗末な食事しか出されません。マルシャ様は栄養不足を補うため仕方なく外出し、レストランで食事なさっているのです」などという密告記事がゴシップ紙に掲載された。
例により『ロスディン城の関係者』なる人物の密告だ。
毎日料理を「貧乏臭い」「不味い」と叱責されているロジャーには、そんな中傷記事は余裕であり、「またドスト男爵一家の下手な言い訳が始まった」と思うだけで何も感じなかった。
同僚が暴漢に襲われて重傷を負ったり、悪辣な新興宗教の者たちが出入りしていたり、常に間者に監視されていたりする過酷な職場で働いているのだ。
新聞記事などそよ風に過ぎない。
ただの新聞紙だ。
手渡しでプレゼントされ、間者たちの手前、捨てるに捨てられぬ怪しい宗教本に比べたら無害と言える。
ロジャーの心はすでに石のように冷たく固くなっており、捏造記事程度に動じることはなかった。
だが大切な家族が、その新聞記事が原因で怪我をした。
(子供がゴシップ紙など読むだろうか)
ゴシップ紙の報道を真に受けて、子供たちが結託して息子を虐めるというのは、どこか不自然に思える話だった。
この辺りの子供たちは初等学校で文字を習っているが、さすがにゴシップ紙など読まないだろう。
親が教えるにしても、ゴシップ紙の内容を子供に読み聞かせる親がいるだろうか。
(親が新世紀派なら、子供も新世紀派だというが……まさか?)
ロジャーは疑惑を持ってから、新世紀派の噂について敏感になっていた。
その噂の中には、子供すら手先として使うという噂があった。
教団内の身分は絶対で、幹部は信者に命令することができ、信者は自分の妻や子供すら道具として差し出すのだという。
タレイアン大橋の上に集まっている哀れな物乞いの子供たちは、実は新世紀派の子女であるという噂があった。
幼い子供たちに物乞いを演じさせ、同情を引き荒稼ぎしているというのだ。
物乞いの子供たちに紳士淑女が恵んだ金銭は、すべて教団に吸い上げられているので、まとまった金銭を恵んでもその子供が物乞いを止めることはなく、翌日もまた勤勉に物乞いをしているのだという。
タレイアン大橋の上と場所が限定されているのは、そこが彼らの縄張りだかららしい。
路上業者や物乞いの世界には、動物のように縄張りがあるのだ。
(子供たちが親に命令されていたとしたら?)
新世紀派は常に複数人で行動し、狙った標的を集団で取り囲むという。
――もし危険を感じたら、躊躇う必要はない。逃げたまえ。
前侍従長アドキンズのその言葉を聞いた時から、二年が経過していた。
その間、辞職について考えた事が無かったわけではない。
しかし次代の王室の厨房を守るという大任を放り出し、辞職するような不義理は出来なかった。
かつての侍従や侍女たちも、次代のために最後まで必死に仕えていたのだ。
自分だけが尻尾を巻いて逃げることは義に反するように思っていた。
だがそのために、家族に被害が及んでしまった。
ロジャーは、次代の王室と自分の家族とを天秤にかけた。
「……解った。辞職しよう」
「えっ?! 本当に?!」
あっさり了解されると思っていなかったのだろう。
ロジャーの妻は驚き、やや狼狽えながらも期待に目を輝かせた。
「本当に良いのですか?!」
「ああ、本当だ。前々から私も考えていたのだ。決心がついたよ」
ロジャーは幼い息子の頭を撫でた。
「クリスにも怖い思いをさせてしまったな。私のせいで、すまない」
「僕は平気だよ。ユースティスと遊ぶもん」
「ユースティス? 友達かい?」
虐められて怪我をしたというのに、意外に元気いっぱいで明るい表情をしている息子に安堵しながらも、ロジャーは初めて聞く名前について尋ねた。
「うん、友達になったんだ。ユースティスは魔法使いなんだ」
「ほう! それはすごい」
幼い息子の夢のある話に、ロジャーの心は和んだ。
「ユースティスはめっちゃ強いんだよ。大勢がかかってきても、ぱーっとやっつけちゃうんだ。めっちゃ強いよ!」
「ふむ。喧嘩はあまり感心できんな」
息子の話から、ロジャーは腕白な少年を想像した。
「だってあいつらが悪いんだもん!」
「グレイブスさんのご親戚のお子さんなのよ」
ユースティスという少年について、妻は笑顔で説明をした。
「ご親戚がお仕事で外国に行くことになって、その間グレイブスさんがお子さんをお預かりしているんですって」
グレイブスさんというのは、ロジャーの一家が住む下宿の隣りの屋敷に住んでいる老夫婦だ。
この辺りには下宿として部屋を貸し出している屋敷が多いが、隣の屋敷は下宿ではない。
年老いたグレイブス夫妻が住んでいる。
老夫婦は幾人かの使用人を雇っており、この辺りでは少し格上の良い家だった。
「びっくりするくらい綺麗な少年よ。見たらびっくりするわよ」
ユースティス少年について、息子の話から腕白坊主を想像していたロジャーは、妻の説明により想像の少年にハンサムな顔を付け加えた。
「毛並みが全然違うの。グレイブスさんのご親戚だし、もしかしたら貴族のお子さんかもしれないわ」
(毛並みか……)
王族に仕えているロジャーは、身分と毛並みが必ずしも比例しないことを不本意にも知る事となったが、その曇った思いは家族の前では心の中に閉じ込めた。
「クリスが虐められていたところを助けてくださったの」
「そうだったのか。では、きちんとお礼をしなければならないね」
「僕も行く! また遊ぶ約束したもん」
息子が世話になった礼をするため、ロジャーは隣のグレイブス夫妻の屋敷を訪ねた。
息子のクリスも一緒に付いて来た。
「きちんとご挨拶するんだぞ」
「解ってるよ」
ロジャーとクリスは、グレイブス家の執事に応接室に案内された。
執事を雇っていることから、グレイブス夫妻が資産家であることが解る。
成金はとかく派手な内装にしたがるものだが、その落ち着いた雰囲気の応接室は、館の主の育ちの良さや品位を感じさせた。
グレイブス夫人に伴われ応接室に現れたユースティス少年に、ロジャーは目を見張った。
「息子を助けていただいたと聞きました。大変感謝しております」
「紳士として当然のことをしたまでです。ご子息に大事がなく幸いでした」
(この子が、めっちゃ強い、のか?)
息子クリスと妻の話から、ハンサムな腕白坊主を想像していたロジャーは、目の前の少女のような美貌の華奢な少年に、内心で首を傾げた。
少なくとも妻の「びっくりするくらい綺麗」という説明は的を射ていた。
十三歳か十四歳くらい、ロジャーの長男と同じくらいの年頃だったが、長男よりずっと落ち着いていて大人びており、少年とは思えない堂々とした風格があった。
(たしかに、毛並みが違うな)
ユースティス少年の珍しい灰金髪を見て、ロジャーは毛並みの話に納得が行った。
「ユースティス、魔法見せて!」
息子のクリスは、ロジャーに促されてユースティス少年に礼を述べると、これで仕事は終えたとばかりに、無礼にもユースティス少年にじゃれついた。
「こら、クリス、ご迷惑をおかけするんじゃない」
きちんとした教育がなされていると解る、見事な応対をするユースティス少年の前で、気ままにふるまう我が子が大変申し訳なく、肩身の狭い思いだった。
そして、ふと、エグバート王子の母である女王の心中を思った。
(息子夫婦があの有様で、女王陛下はさぞやお心を痛めておいでだろう)
ユースティス少年の好意でクリスは屋敷の中を案内してもらうことになった。
「ねえ、魔法は?」
「あれは一回しかできないんだ」
「ええー」
「もっと面白いものがあるよ。この屋敷には呪いの絵があるんだ」
「ほんと?!」
和気藹々と退室する二人の背を見送り、ロジャーはユースティスに感心した。
(年下の子供の相手などつまらないだろうに。なんと出来たご子息だ)
ロスディン城の王族たちよりも、城下の人々のほうが品が良く、少年ですら上流の風格を備えていることに、ロジャーは複雑な思いだった。
「息子がご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありません」
「迷惑だなんて、とんでもない。大歓迎です。あの子も話し相手ができて楽しいようです」
グレイブス夫人はしばし当たり障りのない世間話をしたが、やがて少し声を顰めて言った。
「あのガラの悪い少年たちにはお気をつけあそばせ」
息子のクリスに石を投げたという悪童たちについて、グレイブス夫人はロジャーに警告した。
「親が新興宗教の活動をしているとかで、悪い噂がある少年たちです」
(新興宗教……やはり……)
ロジャーの中で疑惑は確信に変わった。
「ロスディン城の仕事を辞めたら、もう中央区に住む必要はない」
ロジャーは王宮料理人であったので、職場である王宮の近く、中央区に部屋を借りて家族を住ませていた。
地価の高い中央区に自宅を購入することは、庶民には難しい。
年老いて引退したら、郊外に家を買いのんびりと隠居生活をする予定であった。
「予定より大分早いが、郊外の物件なら買えるだろう。一階で店ができる物件を探そうと思っている」
ロジャーは辞職後の計画を妻に話した。
「レストランを経営するの?」
「料理ができるなら、流行の喫茶店も良いかと思っている」
「素敵! お洒落だわ!」
妻は目を輝かせた。
「でもどうして? 貴方は喫茶店にもお洒落にも流行にも興味ないでしょう。全然そういうタイプじゃないのに、どうして急にそんな似合わない事を?」
妻が辛辣にロジャーを滅多切りにした。
「大勢の人にイングリス料理を食べてもらいたいんだ。そのためには流行を取り入れるのもやぶさかではない」
ロスディン城の厨房を辞職するという事は、次代の王室を支えるという仕事を放棄する事になる。
ドスト男爵一家に太刀打ちできず、新世紀派に恐れをなし、ロジャーはしっぽを巻いて逃げ出すのだ。
だがイングリス料理の伝統を守るという仕事は、微力ながら市井で続けていきたいと思っていた。
(せめてもの償いだ)
「随分と策士になったものね」
妻は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔で賛同を示した。
「私は賛成よ。喫茶店の経営なんてとってもお洒落ですもの」
「そうか。賛成してくれるか」
「でも貴方に出来るの? 喫茶店はお洒落じゃないと流行らないわよ?」
「これから勉強するさ。勉強のために人気の喫茶店を見て回りたいんだが、付き合ってくれるかね」
「もちろんよ!」
「お暇したく存じます」
翌日、ロスディン城に戻った料理長ロジャー・シスレーは、エグバート王子に辞職を申し出た。
エグバート王子の隣りでマルシャ妃は少し顎を上げて、ロジャーを見下すかのように勝ち誇った笑みを浮かべていた。
すぐ近くのソファには、マルシャ妃の実母ドスト男爵夫人と、実妹ドスト男爵令嬢が陣取っていた。
彼女らは面白い見世物を楽しむように、薄ら笑いを浮かべてロジャーを見ていた。
「残念だよ」
さして残念そうでもなく、ふにゃりとした笑顔でエグバート王子は答えた。
「でも君がそう決めたのなら仕方ないね」
王子は二年前よりも顔がむくみ、体形もだらしなく弛み始めていた。
生まれながらの王子であるエグバート王子は、節目ごとに新聞でその成長が報じられていたので、多くの国民が王子の成長を聞き知っていた。
ロジャーもそれに漏れず、さらに王宮料理人としてマーグンキブ宮殿に勤めていたときに少年だった王子を実際に見かける機会もあり、たまに会う親戚の子ぐらいには情を持っていた。
新世紀派の魔窟となったロスディン城に、エグバート王子を一人残していくことは非常に心苦しく、後ろめたかった。
エグバート王子の側を離れることで、女王や師匠をはじめ、期待をかけてくれた全ての人々を失望させるであろうことにも大きな負い目を感じた。
だがロスディン城に残っても、ロジャーには王子を正しい道に戻す力はない。
その一方で、ロジャーには守らねばならぬ家族がいる。
「ご期待に添えず、大変申し訳ありません」
理由もさして追及されず、辞職はあっさりと認められた。
ロジャーは別れの挨拶を述べると部屋を退室し、静かに扉を閉めた。
その次の瞬間。
閉じた扉の向こう側で、甲高い笑い声が弾けた。
「あいつ、やっと辞めたわねー!」
「いい気味!」
「ロンセル人の料理人を雇って料理長にしましょ! 料理長はやっぱりロンセル人でなくちゃ!」
「貴族の家ではどこも料理長はロンセル人だもんねー」
「これでやっとロンセル人の料理長を雇えるわ」
「イングリス料理なんて時代遅れ。貴族はみんなロンセル料理を食べているわ」
(王族が、自分より格下の貴族の真似をしてどうする)
扉の向こうで大はしゃぎしている声に、ロジャーは心の中で反論した。
「貧乏臭いイングリス料理にはもううんざりよ!」
廊下に歩を進め、扉から遠ざかるロジャーの耳に、いつものマルシャ妃のお決まりの言葉が最後に聞こえた。
(それほどイングリス料理がお嫌いか……)
このとき、ロジャーの頭にランプの光がぽっと灯った。
(ならば私の店は、伝統的イングリス料理の店にしようではないか)
ロジャーは昨日までは、辞職後は流行の喫茶店を開店し、軽食にイングリス料理を提供しようと考えていた。
だがイングリス料理を嫌うドスト男爵一家の言葉に反発心が刺激され、最後のマルシャ妃のお決まりの罵倒で心が決まった。
(喫茶店は止めだ。伝統的イングリス料理の店が良い)
この二年間で石になっていたロジャーの心は、呪縛から解き放たれたかのように軽くなった。
今まで石の心の中に封印されていた反論が、一気に心中を吹き荒れた。
ロスディン城での二年間、忠義ではなく隷従を求められてきた。
ロジャーは主人たちに料理を気に入ってもらおうと努力して来た。
だが今や、むしろ嫌われる料理を思いきり作ってみたいという子供っぽい反発心がむくむくと膨れ上がり、心中で火山のように噴火した。
(イングリス料理店にすれば、イングリス料理を毛嫌いするドスト男爵一家は絶対に近付けまい。素晴らしい魔除けではないか)




