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第七十五話 聞き取り調査は難航しがち

 一行はそそくさとその場を離れ、宿に戻る。

 今日は今日で朝から荒野を歩き、町に来ても今一つ気の休まるタイミングは無かった。そのため昨日に続いて疲労は重く、話し合いはまた明日ということで今夜は各々もう休むことになる。


 そして、翌朝。

 四人は一階で、トレイに朝食を持ち寄りながらテーブルを囲んでいた。朝食兼会議といった感じだ。まばらに他の客もいるため、声を抑えてではあったが。


「昨日、俺がぶつかった男。あいつが間違いなくハーレーだろうな……あからさまに雰囲気がリーダー格だ。FPSプレイヤーって話だったが、ゲーマーにあるまじき威圧感だったぞあれ」

「人殺しも辞さないって触れ込みだからねぇ、ただのゲーム好きサークルとはわけが違うさ」


——それはこちらも同じことだが。

 塩っけの強いぺたんこのスクランブルエッグをフォークで口に運びながら、アレンは微かな覚悟を青の双眸に過らせる。

 あのサルーンに溜まっていた彼ら、<オドメント>は潰す。壊滅させる。

 それはもう翠蝶紅景を手にするために必要なことで、アレンにとっての決定事項だ。


(……でも、殺すべきかどうかはまだわからない)


 手を血に汚すことは先日、覚悟を決めた。決めた以上は揺らがない。

 だがそれは間違っても、進んで人を殺すという意思などでは断じてない。撃つのはあくまで、『悪』のみだ。

 自分や仲間、誰かの命を脅かすような、明確な悪。

 そうでない者を自身のために——翠蝶を手に入れるために殺したとなれば、それこそアレンが絶対的に悪だろう。死すべきだ。


 悪でなければ殺さない。

 悪でなければ殺せない。

 だから、もう少し彼らについて調べる必要がある。見極めるために。

——しかし、これだとまるで殺す理由を探しているようではないか?


「……違う」

「え?」


 思わず、脳裏に浮かぶ自らの思考を否定する。

 すると、突然呟きを発したアレンの方を三人の目が不思議そうに見た。


「どうかしたんです?」

「ああ、いや。なんでも……ただ今日は、もう少し<オドメント>について探りたいなって」

「確かに、ある程度の規模とギルドハウスにしてる場所、あとはハーレーの顔もわかったけど……まだ情報を集めたいところだね。動きを知りたい」

「ですけど、あまり悠長にしてる暇もないかもです」

「それもそう、か」


 元々、この町に長く滞在するわけにもいかない。

 今シリディーナは動きのある時期だ。アンティルが生き延びている以上<エルピス>もいずれはまた現れるだろうし、<ギルド>と<泰平騎士団>はともにバベルの攻略を進めている。

 転換期にもなりかねない、大切なタイミングに違いない。

 そんな時に、アレンの武器調達のために騎士団副団長のシグレを借り続けるわけにもいかない。


(今思えば、騎士団なのに副団長が<ナイト>でもなんでもないFPSプレイヤーの<ガンナー>ってのも妙なハナシだが……)


 ともかくゆっくりはできないのだ。町に残してきたリーザとマシロのこともある。ここの<緑蝶会>と<オドメント>の対立だって、放っておけばまた抗争の火が悲劇を生みかねない。


「時間は掛けてられないから、費やすにしても今日だけ……二手に別れて探ってみるか?」

「いい案だと思います。単純に散らばれば得るものも増えるし」

「そだね、なにも常々四人で動くこともない。問題はどう分けるかだけど」

「……あの、昨日、一応親子ってことにしちゃったアレンさんとユウさんは固まったほうがいいんじゃないですか?」

「あ」

「げ」


 おずおずと意見するシグレの言い分は、言われてみればその通りだった。

 万が一ハーレーと遭遇したとき、アレンが別の人物といたら怪しまれかねない。一度親子設定を晒してしまったのなら、それを貫くほうが無難なのは確かだろう。


「おいおいマジかよ……よろしく頼むぞ、パパ」

「ねぇその呼び方できれば必要最小限にしてくれない? 中身を考えると怖気おぞけするから」

「怖気て。実際、俺の顔見たことあんのかよ?」

「ないね、僕FPSはさっぱりだし。でも今の幼女フェイスじゃないのは確実だ」

「……まあ、そりゃそうだ」


 普通に反論の余地がなかった。

 また本物の幼女のフリをしなければならないのかと思うと、既に気が重い。

 ただ、アレンとユウが組むのなら必然的に、もう一組はシンリとシグレと言うことになる。両者とも知り合って間もなく、アレンも胸襟を開いてとはまだいかない間柄だ。


(……まあでも、心配ないか。二人ともどこぞのカードゲーマーみたいにひねくれちゃいないし)


 それでも二人とも素直で気の遣える方だからそう心配はいらないだろう。どっちも敬語だし。……ちょっぴり抜けていそうなところも同様だけど、と若干の懸念は残ったが。


 ともあれアレンらは一度別れて行動をすることに決め、シンリとシグレはホテルを出てまずは、昨日の銃砲店の店主を当たってみることになった。

 アレンとユウの方も外に出るつもりではあったが、まずは同じホテルの人間に軽く聞き込みをしてみるという腹だ。

 そんなわけで、一階から順に戸をノックして中の転移者プレイヤーに話を訊こうとするも——


「オ、<オドメント>? 知らねえよ俺は、どっかいけっ」

「あっ、ちょっと待っ——」


 言い終えるより先に、バンッとドアを閉め切られてしまう。

 これでノックの応じてくれたところだけでも四部屋目。一事が万事、そのどれもが<オドメント>の名を出した途端にこれと変わらない有り様だ。

 関わり合いになりたくない。そういう姿勢をありありと感じずにはいられない。


「やはり……町では恐れられているみたいだね」

「日夜ドンパチやってる連中らしいもんな。トラブルの種に首突っ込みたくはないか」


 だが、それでも聞き取らねばならないのだ。ここで諦めるわけにもいかない。

 二人はホテルから出ると、ちょうど前の通りに人を見つけた。外を出歩く者のいない町ではあったが、かといってまったく皆無というわけでもないようだった。

 男が三人。いかにもゴロツキといった風情の、隠し切れない粗野な雰囲気を漂わせながら屋根の下にたむろっている。

 物は試しだ。アレンとユウはゴロツキたちを訪ねて、<オドメント>について知っていることを訊いてみた。


「<オドメント>ぉ? へへ、子ども相手に教えることなんかねぇなぁ……」

「ケケケ、そっちのニイちゃんは子守りかぁ? ヒョロくてこの町じゃやってけなさそうだぜ」


 すると二人してナメられた、ある意味想像通りの反応が返ってくる。

 ヒョロいと言われたのが心外だったのか、ユウはむっとしてなにかを言いかけたが、アレンはそれを遮った。

 こうして軽んじられるのは、なにもキメラだけの話ではない。プロゲーマーになった今ではそんなこともないが、少し前、中学生の時なんかはこんな感じで子どもだからと侮られてきたことが何度かあった。もちろんFPSゲームの中での話だ。

 そしてそんな時、実力を見せてやれば大抵は黙る。


「だったら、早撃ちで俺が勝てば教えてくれるか?」

「ハハッ! 聞いたかお前ら、早撃ち勝負を挑んできたぜ! こんな子どもがよォー!」

「ギャッハッハ! アニキと早撃ちで勝負だってぇ⁉ 身の程知らずにも限度があるぜェ!」

「アニキは町内早撃ちグランプリでベストエイトに残りかけたことだってあるんだぜェ⁉ ガキンチョが勝てると思うなよ!」

「そっかあ」


 適当に流す。

 距離を開けて位置に着くと、子分っぽい男がインベントリから例のカエル、きまぐれフロッグくんを取り出して地面に投げた。

 軽く息を吐く。……五秒が経過し、さらに二秒と半分が経ったところで、きまぐれフロッグくんの鳴き声が上がり——


「ぐあああああああああああああああッ‼」

「アニキィーーーっ!」


 早撃ちであるからには当然のことだが、勝敗は一瞬で決した。『アニキ』とやらが銃を抜く間すら与えず、胴体に拳銃ブルホーンの弾丸を叩きこむ。

 特に語るべきこともなかった。


「ひゅー、さっすがプロ」

「目ぇつぶってても勝てるわ……」


 ブルホーンをインベントリに仕舞い、地面に片膝をついた『アニキ』へ近づく。約束通り、知っていることを聞かせてもらおうとしたのだ。

 しかし、結論から言えばこの勝負は無意味な、不毛極まるものでしかなかった。

 元々この男も大したことは知らず、ただアレンたちをからかっただけらしい。<オドメント>に通じていたりなんかもしない。

 無駄な時間を過ごしたことに悪態をつき、アレンとユウはまた他をあたることにした。

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