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第四十八話 再開の四者

 アレンたちは徐々に階層を上っていき、二十五階層でレベル上げをしばらく続けたところで、腹の虫も鳴き始めたため今日のところは切り上げることにした。

 ゲートを抜けロビーに戻る。来るときはほぼ無人だったロビーはそれなりの人で賑わい、まばらな喧噪を生んでいた。


 ちょうど、入口の方から一組のパーティが歩いてくる。ゲートを使うであろう彼らのため、アレンたちは自然と道を開ける。そのさなか、アレンは何気なく横目でその者たちを視界に捉えた。

 四人組だ。前に並ぶ男二人の陰で見えづらいが、後ろに女性も二人並んでいる。前にいるのはは槍を手にした背の高い男と、ヒーローじみた赤いマントを纏う男だ。

 両者もこちらを凝視している。どうして見つめてくるのか、その疑問以上に胸を過ったのは既視感だった。

 ……どこかで見た気がする。そう思うと同時に、

 

「……ん。アレンにリーザじゃない」

「えっ? あ、本当だ!」


 男性陣の後ろからひょこりと顔を出してきたのは、よりはっきりと見覚えある二人だった。

 艶やかな長い髪の茶色はバベルの薄暗さでわかりづらいが、そのつり目気味の瞳。加えて独特の声を聞いてすぐに思い出す。

 エライだ。隣の少女は、顔よりも先に目に入る、存在感抜群のいかにもなつば広とんがり帽子で思い出す。ポラリスだった。


「わっ。エライにポラリス! 久しぶり……でもないわね!」


 リーザも驚いたようで、突然の再会に手を叩いた。

 エライにポラリス。後の二人はさほど話してはいないが……確か、リオネラにサトシだっただろうか。

 バニットやマシロの件があり、体感的にはそれなりに以前のことにも思えるが、ついこの前バベル攻略に参加した際に出会ったパーティだった。

 浮遊島の階層にて、ノゾミとともにしばし行動を共にした短い間柄だったが、気のいい人たちなのは確かだ。


 四人もレベル上げだろうか。<ギルド>団員揃ってバベル攻略という様子もないので、おそらくはそうなのだろう。他人のことは言えないが、精の出ることだ。


「ふむ……やはり君たちだったか。元々目立つ二人組だったが、今日はなおのこと目立つな。なに、パーティメンバーが多いのは悪いことではないが」


 そう言ってふっと口元を緩めるのは、リオネラ。直接聞いたわけではないが、落ち着いた雰囲気でおそらくはパーティのリーダーだ。歳も一番高そうに見える。


「なンか、子ども二人連れてて戦闘ってよりピクニックみたいな感じだけどな。ハハッ」

「こら、サトシ。失礼でしょうが……ごめんなさい、本人に悪気はないの」

「んだよー、本当のことだろーが。こっちのちッこい子は初めて見るな、外国人か?」


 そう言って、サトシの目がマシロの方を向く。やはり見たことはないようだった。


「あ、マシロっ」

「ぅー……」


 すると、マシロは隠れるようにそそくさとアレンの後ろへ引っ込んでしまった。いきなり見知らぬ人たちが現れて驚いてしまったのかもしれない。


「サトシさん怖がられてますねー。実際怖いですもんね、目つきちょっと悪いし」

「なっ……おれはそんなつもりじゃ……ちょ、ちょっと待ってくれよ。ほらええと、マシロちゃん? おれ怖くないよ? 優しいお兄さんだよ?」

「ひゃ、こわいっ」


 怖くない、とアピールするように顔を近づけるも、同じだけ距離を開けられる。

 強面こわもてというほどではないが、確かに目つきは少し険しげだ。それに体格もよく、まだ人付き合いに慣れていないマシロが怖がってしまうのも無理はないかもしれない。サトシは純粋なマシロの反応に心を痛め、膝を折って落ち込んでしまった。こうなると少しかわいそうだ。

 その様子を見て、ポラリスはお腹を押さえてけらけらと笑っている。……最年少らしき彼女だが、仲間に対する遠慮はないらしい。


「あ、あの……もしかして、ブラックストーンのアサガミユウさんよね……ですよね! あの、あたし見てました。キメラに来てたんですねっ、お見かけしたことなかったので知りませんでした」

「ハハ、これは驚いたなぁ。まさか君みたいな若い子に知ってもらえてるなんて、まったく光栄だ」


 その間、エライは珍しくも慇懃いんぎんな口調でユウに話しかけていた。壁の小さな灯りが僅かに紅潮する顔を照らしている。

 ファンなのだろうか。少し意外だが、エライの人柄を知り尽くせるほどに言葉を交わしたわけではない。……ユウのファンになる気持ちはちょっと、アレンには理解しがたかったが。


「なんだか悪いわね。これから階層に行くって時に邪魔しちゃって」

「気にすることはない。ただの習慣的な鍛錬で急ぎではないからね。それより、君たち二人も息災のようでよかった」

「リオネラさん……だったよな? そっちもみんな元気そうでよかった」


 眼鏡でも似合いそうな理知的な喋り口。前に会った浮遊島の階層では男性陣の二人と話すタイミングはあまりなかったが、冷静で好感の持てる相手だ。どことなく現実世界のチームメイト——<デタミネーション>の一員を思い出す。

 IGL(インゲームリーダー)、すなわち司令塔の役割に適性の高い人間はそう多くない。彼が稀なそれだ。

 それに流れでポラリスたち女子グループで話していたが、元々アレンは男だ。場面でたまに話しづらさを感じないと言えば嘘になる。それも近頃は薄らいできたが。


「僕たちは変わりないが……時に、君たちは中々に奇怪……失敬。愉快なパーティをしているね」


 微妙に無礼さを均しきれていない気もする。


「ああ……まあ、成り行きで」


 しかし、言いたいことはわかる。リーザと二人だったパーティも気づけば所帯が膨らんで四人、しかも中々に奇抜なメンバーが揃っている。

 金髪幼女に白髪幼女に銀髪美少女、あとはなんだかへらへらした男。パーティの50%が幼女の時点でもう崩壊寸前にも見える。しかも片や中身が十八の男、片や記憶喪失のNPC疑惑がかかった謎経歴だ。キメラ中を探してもこんなヘンテコなパーティはないだろう。


「その、最近は色々とシリディーナもきな臭い。余計な心配かもしれないが、気を付けて過ごしてくれ」

「? ん……ああ、ありがとう。肝に銘じるよ」


 妙に言葉を選んだような、迂遠な警告。その意味を測りかねたアレンだったが、すぐに納得して頷く。

 きっと<エルピス>のことを言っているのだろう。まだ公にはしていないが、<ギルド>の団員には伝えてあるようだ。アレンたちがレイブン直々に聞かされたことは知らないようだが。

 見た目だけとはいえ、女子供三人のパーティだ。心配からつい親切心で言ってしまったのだろう。


「ねえリオネラさん、今日はもう鍛錬止めにしてみんなでどっか遊び行きません? こんな機会中々ないですよー」

「む……ポラリス君。しかしだな、こういうのは習慣付けることが大切で——」

「……いいんじゃないの? 一回くらい。親睦を深めるのは悪いことじゃないわ」

「エ、エライ君まで」


 ちらりと、リオネラの目がアレンを見る。

 助けを求めているのかもしれないが、アレンたちはもうバベルを出るところだ。断る理由もとくにない。

 その意を表情から汲み取ったのか、リオネラは手にする青い槍をインベントリに仕舞い、軽くため息をついた。


「はぁ……なら、アレン君たちが構わないのであれば僕もそれでいいが。僕とて好きで厳しくしたいわけではない」

「どうせ俺らも狩り終えたとこだし、そっちこそ平気なら大丈夫だ。だよな、みんな?」

「もちろんだとも。僕ぁちょっと先にご飯行きたいけど」

「私もどうせ予定もないし」

「マ、マシロも……あの人はちょっと怖いけど、へいき」


 若干一名ビクついていたが、概ね大丈夫そうだ。

 思わぬ再会だったが、また会えたのは喜ばしいことだろう。いつかのように合流し、八人の大所帯になりながらバベルを出た。

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