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8「空へと手を伸ばせ!」



《──vivivivi!!》



 状況開始!


 電子爆竹から唸る轟音は、大気の焼け付くプラズマ音。

 安物メーザー銃特有の騒音で、都市の人間ならば誰しもが聞いたことのある死の足音だ。


 僕は音楽の重低音に足を合わせ、目をつけていた空席に滑り込む。フロアの人波が悲鳴をあげ、ほとんどは物陰に伏せるか駆け出していった。


 音楽だけが、変わらず唸り続ける。七色のライトが異常事態を照らし出す。

 パニックの客が出口へ殺到するなか、銃声に反応しないノロマ数人はフロアに突っ立ち、用心棒パウンサーがショットガンを構え叫び必死に威嚇していた。


 EDМとライトにあわせて漂う煙だけが踊り狂っている。

 予定通り。

 そっと裏口を開けたスカルマスク二人がハンドサインを送ってきた。腕をぐるぐる回して返答とする。位置と状況は予定通り、楽な仕事だ。


 スカル・トルシャにスカル・コーツォ。

 ドグドックにロールガン。

 素人なんてすぐに鎮圧できるーーそう、気を抜いてしまったことは否めない。



タ!

 タタタ!


タタタ!!!


《ビープ音が鳴る》


 銃、声ッ!!


「動くな!!止まれ!!撃ちやがったやつはどいつだ!?」

「フリィィィイズ!!」


 銃を構えた男たちが連携し、素早く展開した、最悪のパターンだ!


 アサルトライフルを乱射しつつ偏光ガラスを叩き割った愚連隊。軍靴でバリバリとガラスを踏み割り銃口で威嚇している。

 ビップルームからは出てこないと想定していたのに、素人にしては反応が早すぎ、対応と動きは的確すぎた。部屋にこもるとジリ貧で死にかねないとして瞬時に示し合わせたのだ。


 軍隊あがりかもしれないーー下調べしてなかったのか、あいつら!?


 僕はスカルマスクを睨みつける。なんてふざけたマスクだ……よく考えたら、ヤク中とトルシャに丁寧な仕事を期待していた僕が馬鹿だった。戦闘時に後悔などなんの役にも立たない、呆然と突っ立つスカルマスクたちへ、とりあえず隠れろと祈り続けるがーー


 用心棒は太い眉を歪め、お得意様にショットガンを構えるか迷っていたがーー


 ーースカルマスクで佇む間抜け二人をみつけて、ビクッとした。銃口が動揺で跳ね上がり、二度見して肩だめにベブショットガンの照準を合わせる。


「おっーーおまえら、なんだァ!? 動くなよ!?撃つぞ!!」

「そっちかあァ!!」


 アサルトライフル二丁とベブショットガンの銃口にみつめられた二人は、腰のあたりで両手を広げ、ガイコツマスクなのに心なしか情けなさそうな顔をして見える。

 体格の良いガイコツは右手をしきりにグッパし、小さいガイコツがパシッとその手を叩いた。なんてお似合いのコンビだろう、僕だけ早く逃げだしたい。


「どこのチームだテメェら!? フリィィィズ!! リーチフォーザスカイ(手を上げろ)!!」


「空なんてーー見えやしないだろうがッ!!」


 スカル・コーツォが叫んだ瞬間、パラパラ軽い銃声を響かせロールガンが突進してくる!!

 反射的に並んだ銃口がロールガンを向いたと同時、スカル・コーツォはスカル・トルシャの首を引っ張り、テーブルをけたたましくぶっ倒して影に隠れた。


 フロアに液体が広がる。

 その海に浮島として、酒や大麻、白い粉や、ナノドラッグに、大人のオモチャが散らばって展覧された。


ビビ…ビビっ


《──ローターが震える》



 ろくでもない店だ! これを機に潰れたほうがいい!

 傍観者となっていた僕は拳銃を抜き打ちして、2丁のアサルトライフル、その持ち主の胴を撃ちーー簡易外骨格を着込んでいることはわかっていたので、衝撃に尻もちをついた男二人、剥き出しの手と足に銃弾を叩き込む!


「ア゛ァアア゛!!」

「クゾォオ!殺し屋だ!リーダー、はやく」


 太い腕から赤い血が間欠泉のように湧いた。コーツォは用心棒を牽制し、トルシャは頭すら出しやがらない!

 思わず楽しくなりつつ、電磁パルス手榴弾を最小半径にセットして床を滑らせた。


「アッラーアラライ!!!」

 やつらは狂人を見る目で僕をみたが、ドグドックへの緊急合図だ。すかさず犬笛を加え、ピー・ピッピッピピと細かい支持出しで目標決定、EMP手榴弾の起爆とかぶらないよう腰の引けている用心棒パウンサーへ突っ込ませた。


『グルドゥルル!』


バツン!!!


ピィィィーーィィィーーーーーィィィィーーーーーーィィン


『BOWWOW!!!』

「のわぁああ!!!」


「ドンファン!立ちやがれ!ジャンケンしてる場合じゃないんだ!!」

「撃っていいですか!? リーダー!」

「機械従者を止めろォ!!」


《ビープ音が鳴る》


──耳を済ませるだけでいい──

──きっとまだ心臓は動いてる。動いていなければ、ハンマーで殴りつけてやる──

──殺してやる──


 電磁パルス特有の耳鳴りがしたあと、敵のフォノンメーザー銃が派手な火花を散らした。あれは高そうだから壊れていても鹵獲したい。



 ズンズンーーー


《ビープ音が鳴る》


 ズンズン──





────




──────静寂。



ーーーー音楽が止まり、ふいの静寂に緊張感が満ちた。

 あたりを見回すと、客たちがナメクジのように張いつくばって出口へと進んでいた。不屈の生命への執着を感じる、まるでジャングルのゲリラ兵のようだ。

 僕は都市の人間のたくましさに驚嘆の念を覚えつつ、念のため、ダンゴになっている敵へバツンバツン銃弾を打ち込んで牽制しつづける。


 コーツォがハンドサインを送ったことでドグドックが走り、ロールガンが追随する。


「こっーーこうさぁぁんん!!! やめろ、やめろォ!!!」


 四方からの銃口はどうしようもなく、敵は降参を叫んできた。

 よかったよかった。あとは殺すだけだ。



「オイ! ドンファン! 震えるな! 男をみせろ!」

「あ……ああ! ……まかせろ! 俺はやる、俺はやるぞ!!」


 戦闘が終わったとたん勇気を取り戻すのってずるくない?


 トルシャを白い目でみやりつつ、武装解除に向かう。



 半泣きになった敵三人と、連れていた女二人。

 計五人を手早く簀巻にした。僕は取り出した目出し帽をかぶりつつ、依頼主に問いかける。


「で、やるのか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…………ふぅ。おまえら、おもってたより百倍慣れてるな……。オレァ脚が震えて、うまく歩けない……」


「初陣ならしかたない、とっとと殺してズラかろう」

「……イーリ、おまえ悪いやつだったんだな」


 こいつ……。


「そ、その声は〈伊達男〉! トルシャァ! テメェ! おぼっちゃまのくせしてヴァルチャーなんか雇いやがって!! ここで会ったが百年目! タダですむと」


「生意気を言うな」


 ガツン!

 話の途中で無慈悲にもコーツォの暴力が襲いかかる。


「…………」

 銃底にぶん殴られた男はカクンと無音になった。物理的に生意気な口を叩けなくなったのだ。

 みな怯えた目で呼吸音をこだまさせるのみ、ネゴシエーションは終わった。


「名前、知られたぞ? やるしかないよな……」

 半ば脅し、半ば催促、半ば本気で撃鉄をトントンつつくと、派手な女が叫び声をあげる。


「トルトル! わ、わたしだってぇ! あんたの男前と酒の勢いで浮気したのは悪かったけど……こんなことする必要ないでしょ!? ミート、血がでてる!!」


「トルシャ! なんなのあんた! 邪魔してばっかり! このロクでなし!! キャリオネのことは諦めなさい、あんたみたいなヒモよりよっぽどマシだわ!!」





 …………。




 うん? 聞いていた話と違うぞ?


「キャリオネのこたぁどうでもいい!! ミタ、来るんだ、こんな男たちといたらダメだ!!」


「あんたよりはマシよ! このっ穀潰し!!」

「わたしのことはどうでもいいってどういうことよ、トルトル!」



 ーー???


 依頼の情報と、齟齬がものすごいぞ?


「「?」」


 僕はスカル・コーツォと顔を見合わせた。



《ビープ音が鳴る》


《ーー這いすすめ※※※※※。破滅はすぐそこに迫っているぞ》

《ーー尊厳を冒涜される、自由などない、綺麗な体で生き残れる可能性などなくなった。手足を失って生きるのか、いま動くのか。※※※※※ーーいま、決めればいいーー》

《ーーヒュドラを※※※、※※※※※!!!》




■■■

【点眼薬ヒュドラ】

ゾアークの培養血、俗称〈ヒュドラ再生薬〉を投与された者は、まさしく、始原の扉を開く。


星光共和機構の軍人は、入隊後すぐさま全員がヒュドラによって人格を漂白される。その空白に教官は軍人のイロハを叩き込む。


大半の薬物中毒者はヒュドラを単なる興奮剤とみなしている。その真価が発揮されるために必要不可欠な準備の整っていない者にとって、ヒュドラは、たとえばハードドラッグの代表格とされている、アルコールやヘロインやメタンフェミンよりもよほど安全な幻覚剤と見なされている。

適合者は知っている。ヒュドラはーー


冬場は食中毒にお気をつけください(げっそり

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