九十三話
「あれ?結衣ちゃんって前回のオンエアーでサヨナラかと思ってたのに、なんで居るの?」
オンエアー冒頭で、マナ先輩が酷い事を言う。
そう、この一週間は生きた心地がしなかった。
ただ、マナ先輩は一緒にプロデューサーさんとスポンサーさんに謝罪に行ってくれたし、冒頭の発言は単なる愛情の裏返しなのだろうけど。心情的には本当にシャレになってないって。
それでも、結局、上手く転がったのは、ツブヤイターとエンスタで炎上のお陰だった。
お陰で番組の知名度は鰻上り。
その後、プロデューサーとスポンサーさんの掌返しは凄かった。
大人って本当に怖い。。。
「いやいや、本当にごめんなさいでした。大先輩の番組、関係さんにいっぱい迷惑をかけてしまいました。」
ワタシは取れそうな勢いで頭を下げる。
「えっ?あっ、、冗談だからね。そんな殊勝な結衣ちゃん、結衣ちゃんじゃないみたい。」
ワタシの謝罪を間に受けたのか、マナ先輩が顔の前で残像ができそうな勢いで手を振る。
「もぅ、、反省したのに。。。まぁ、番組を暗くしてもダメだから、いつも通りにいきますね。」
そう、このまま暗い雰囲気を出すと番組自体潰してしまう。今日は特にリスナーにも注目されている回だから手を抜かずに最初から飛ばしていこう。
「えっと、、、まだ2人の世界に入ってる?それとも、出てきた?私、話していい?」
しかし、ワタシがエンジンをかける前に百合さんが早速イジってくれる。彼女は勉強ができるタイプの人間とは違うけどコミュニケーションに長けたタイプの人で、尚且つ奥ゆかしさも持っている。
たぶん、どの業界でもそこそこは活躍できそうなポテンシャルの持ち主だ。
「いや、2人の世界だなんて、、そんなことないですよね、マナお姉さま。」
ワタシが微笑みかけると、マナ先輩は脊髄反射より早く反応する。
「いつのまに、、お姉さま呼び?結衣ちゃん、アイカワラズカワイイネ。」
「いや、、なんで棒読みなんですか?」
ワタシは呆れた声音を出すけど、さすがマナ先輩だ。ちゃんと話を続けられるようにパスをくれる。
「まな、結衣ちゃんとはビジネスフレンドだとおもってるのがバレたみたいよ。ワクワク」
そこに百合さんが茶化しに入る。
うーん、、自分が頑張らなくてもスムーズにトークが回っていく感覚はとても良い。
「火のない所に煙を立たせた!百合先輩。今まで美人で優しくて聖母みたいな先輩だと思っててごめんなさい。」
「えっと、、それは百合を褒めしてる?貶してる?」
「いやですねぇ。聖母なだけじゃなくてマナ先輩との会話が息がピッタリでビックリしてたんですよ。まるで夫婦、、いや、、運慶、快慶みたいですね。」
ワタシは東大寺南大門にお住まいになっている2人の仏像を口にする。
まぁ、、夫婦みたいだと、あまり面白くないかというただの捻りのようなものなのだけど、、まぁ、あの2人なら多少乱暴なパスでも拾ってくれるという確信もあった。
「あぁっ。」
しかし、マナ先輩は、百合先輩と一緒に居たグループから抜けた気まずさを滲ませたような曖昧な返事をと表情を浮かべる。
あっ、、しまった。。。
ここってデリケートな部分だったの?
そこを思いっきり踏みつけてしまった。
まずい、、、どうするの。??
しかし、一瞬の逡巡は無駄に終わった。
「うん、、、そうだね。ワタシとマナはズッと仲良しだよ。もし、、この先、、卒業しても、何があっても」
「うん、百合、ありがとう。ズッと仲良しだね。」
「うわぁ、、ワタシって2人の引き立て役ですねぇ。どうか2人とも末永くお幸せに。って結婚式のスピーチみたいになってますけど、気を取り直してリクエスト曲行きます。ペンネーム、ブリッジ本、さんよりメッセージいただきました、いつも部屋でラジオを聞かせてもらって元気を貰っています。でも、最近の自分の推しはこの曲です。レイヤードの最大のヒット曲『インフレーション理論』」
ワタシが言い終えると曲がはじまった。
きっとワタシに気を使ってレイヤードの曲のメッセージを選んでくれたのだろう。
それでも嬉しかった。
あとは、曲中に『すごい、、リアル阿吽の呼吸じゃん。』『阿吽の呼吸』『あっ、、うん。』とか意味がわかんないコメントがいっぱい来ていたって。
後でスマホで調べたら‥‥あっ、そういうこと。
アイドル結衣ちゃんにはアイドルの神様だけでなく、偶然の神様にも愛されていたらしいね。
「ただいまぁ、、つ、疲れた。」
ワタシは半目になりながら扉を開ける。
「おかえりなさい、、ご飯できてるよ」
妹の莉奈は仕事で疲れているのにご飯を作ってくれている。
口先ばかり上手くても、、お姉ちゃんでも、、やっぱり莉奈には敵わないなぁ。
あれ???
「ん、、なんか元気ないね?莉奈、なんかあった?」
「なんで?」
相変わらず、言葉足らずで、、『それじゃ、誰にも伝わらないよ』と言いたいけどワタシにはちゃんと伝わっている。
『なんで、わかったの?』
と言いたいのだろうけど。
「見ればわかるよ。どうした?」
「尊敬していた人が、、、、本当は、、雑魚‥なんでもない。」
言い淀んだ莉奈は暗い顔をしていた。
それでも、、、こうなったら彼女は絶対口を割らない。そう、プライドのないワタシと違い、かなり頑固なんだよね。
満月の光は魔力を帯びていて、人の心を惑わせるらしい、、、けど、、今日は寝るまで莉奈のアタマを撫で撫でしてあげるしかないかな。
疲れた身体で家族を想って、、ワタシは今日も1日を終えるのだった。
感想とか頂ければ尻尾を振ってよろこびます。




