九十二話
「今日から3ヶ月、準レギュラーとしてマナの部屋へ遊びにきてくれた結衣ちゃんです。皆んなぁ〜っ、拍手」
パチパチとまばらな拍手を受けてワタシはスイッチを切り替える。
ここは某放送局のラジオの放送ブース。
マナの部屋というのはもちろんマナ先輩の本当の部屋ではなく番組名だよ。そう、KING OF iDOLともなると冠番組のひとつや二つは持っているのだ。
うぅ〜っ、う、羨ましくなんてない。訳ない。
捨て台詞は心の中に置いてきてワタシはいつも通りに余所行きの声をデジタル通信に乗せる。
そう、ラジオだけに電波に乗せるとか使いがちだけど、最近はラジオもデジタル化しているのた。
だから【デジタル通信に乗せる】と言ってみたものの、やたらと語呂が悪い。たぶん二度と使わないや。
「レイヤードの次期エース候補‥‥の代理‥‥の補欠のぉ〜結衣です。宜しく。」
ワタシはいつもと違う自己紹介を披露する。
もちろん、ちゃんと狙いはあるんだけどね。
「いや、それってエースなの?エース?エースといえばレイヤードって確か美咲さんが抜けたんだっけ?」
計算通り。
ちなみに今話しているのはマナさんと元同じグループLCCの百合さんだ。
「そうなんですよ。大変なんですよ。それで、来たる17日19時からアレマTVで、レイヤード、センター争奪トーナメントを生放映しますので、皆さん見てくださいね。」
ワタシはあらかじめ用意していた台詞をスラスラと口から漏らす。ちなみに今やっているラジオは生放送なので編集でカットできない。
「ちょっと、勝手に宣伝はマズイって」
いきなりの番宣にフリーズした百合さんはすぐに復帰したけど、なんのフォローにもなっていない言葉を紡ぐ。
「あ〜っ、、ごめんなさい、、今の部分カットでお願いします。」
ワタシは両手でハサミを形作ってチョキチョキする。もちろん、確信犯だけど、そんな素振りはお首にも出さない。
ただ、ワタシに尻尾があったら間違いなく左右に振れていただろうけど。
「ねぇ、結衣。ラジオって初めて?」
少し様子見をしていたマナ先輩は薄く息を吐き出した後、ようやく助け船を出してくれた。
少し失望されたらしい。
まぁ、いきなりやらかしたから仕方がない。
「はいっ、、て言いたい所ですけど。ラジオはレイヤードのメンバーで出たことありますね。生放送ではなくフル録画なんですが」
これは真実。
そう、嘘をつくときは完全な嘘ではなく、真実の中に少し嘘を混ぜるほうが信ぴょう性が高いんだよね。
「えっ?ラジオで録画どりしてたの?」
まぁ、ラジオはLive感が売りだから一部ならともかく全てフル録画だと、ラジオである意味はまったくない。
「はい、レイヤードのメンバーは生放送に向いていませんからね。録画、編集が基本です。」
美咲先輩とか話を振っても数十秒沈黙をした後に
「えっと、、、なんだっけ?ボォーッとしてて聞いてなかった」
とか平気で言うし、ラジオで生放送なら完全に放送事故だと思うんだけどなぁ。
「あぁっ、、レイヤードって個性的な人が多いらしいよね。結衣ちゃんとか、結衣ちゃんとか。」
マナ先輩が悪戯っぽい笑みを浮かべて話に入ってくる。
こういう、勘の良いところはさすがと言うかなんというか、相手がコミュ症モンスターじゃなかったら会話のテンポも悪くないし、ワタシのアドバイスなんていらなかったんだろうなぁ。
「いやいやいや、ワタシなんて最年少の可愛いだけのマスコットキャラですよぉ。」
「おおっ、、自分で可愛いとか言っちゃうんだ?まぁ、可愛いよね、ラジオだからリスナーさんが見られないのが残念だね。まぁ、そんな可愛い結衣ちゃんに免じてワタシがプロデューサーさんに一緒に謝りに行ってあげる」
「いいんですか、ありがとうございます」
マナさんは案外チョロいなんて思いながら頭を下げる。
「ところで、2人はどんな関係なの?接点なかったよね。」
今度は百合さんが話を戻してくれた。
正直言って2人が居たらワタシがやる事がない。
「いや、ちょっと私が結衣ちゃんに相談事を持ちかけてね。解決してくれたんだよ。この娘、本当に凄いよ。」
「いえいえ、たまたまワタシの意見が上手くいっただけですから。」
「いやぁ、あれは小学生の意見じゃないよね?もしかして、、結衣ちゃん、二周目?」
ん?
二週目?
あ〜っ、人生二週目っぽいって事?
え〜っ、なんで。
はぁ〜っ、、話の流れ的にノるしかないのかぁ。
「はっ?いやいやいや、な、な、、な何言ってるんですか?そ、、そ、、そんな、、二周目なんてある訳がないじゃないですか?」
わざとらしく動揺を装うと、ダハァ〜、とマナ先輩が爆笑する。
「なんなの?この娘、、本当にアドリブが上手い。やっぱり、2周目?なのかな?」
百合さんも、話に乗ってくる。
本当に勘の良い人だ。
本気でレイヤードに欲しい。
その後も2人に弄られまくって散々だった。
もちろんそれで終わりだったら、ハッピーエンドなのだけど、人生というのはそんなに甘くはない。
その日のうちにツブヤイターでワタシは大炎上した。




