八十六話
トントントン。
ノックをすると、軽快な返事が返ってくる。
「どうぞ〜、あ〜っ、待ってたよ。期待してるからね。」
扉を開けると待っていたのは元LCCのセンター、霧崎マナさん。『キングオブアイドル』なんて異名で呼ばれるほどの人気の人がLCCを抜けてどうなるか日本中で注目を浴びていたんだけど。
まさか私と2人でユニットを組むなんて想想外だよね。
「私、レイヤード‥元、、、のミサキと言い‥申し、、ます。霧島先輩。足を引っ張っちゃうかもしれませんけど、これからよろしくお願いします。」
私が深々と頭を下げると霧島さんは立ち上がって私の前に来るとしゃがみ込んで、首を傾げて私を覗き込む。
上目遣いが可愛い過ぎて困ってしまう。
「ふむふむ、やっぱり可愛いね。でも、こっちはどうかな?」
霧島先輩は無遠慮に私の右胸を無造作に掴んだ。
「ひゃん」
自分の声だと信じられないような、可愛い声が部屋に響き渡る。
「うーん、Bってとこかな?あっ、まだまだ成長期だから大丈夫だよ。」
先輩は立ち上がりアイドルスマイルを浮かべた。
「むぅ〜っ」
言われて思わず先輩の胸を凝視してしまう。
D‥はありそう。
「あ〜、あげないからね。これは私のモノだから。」
先輩が胸を隠す仕草をすると胸が寄せられて、ますます大きく見えて、自分の胸を覗き込む。
「むぅ〜っ、全然違う。」
思わず先輩の胸に手が伸びてしまった。
男の子ってこういうのが好きなのかな??
「ひゃぁっ、、ミサちゃん、、なんで両胸?やられたらやり返すの?倍返しなの?」
あっ、、挨拶しに来ただけだったっけ?
本題をすっかり忘れていたよ。
「これからもよろしくお願いします。それではまた、夜に」
私はそう言って部屋を出た。
早速、今夜ネットテレビで私たちのお披露目番組をやるらしく、先にどうしても挨拶しておきたかっただけだし、あまり長居して迷惑をかけても良くないよね。
「えっ、、なによぉっ、、夜に何しに来る気?
えっ、、うそっ、、夜這いなの?えっ、、ミサミサちゃんってそっちの人なの〜?」
う〜ん、本当に挨拶しかしてないや。
私は少し落ち込みながら歩いていたので先輩の叫びは聞こえてはいなかった。。。。
「ふぅ〜っ、、、なんとか乗り切ったぁ。」
あの娘、、生放送とか出したらダメでしょ。
沈黙が長過ぎて放送事故クラスだったのに本人はキョトンとしていて、その事態にすら気づいていなかった。
そして、私とは言えば、背中に汗をダラッダラ流してフォローに回るハメに。
あの娘、レイヤードではどうやってアイドルやってたのよ?
そう、気になって彼女の噂を集めると、ミサミサちゃんはアドリブにかなり弱かった。例えば、、、握手会では定型文しか言わないとか、トークも天然系ツッコまれキャラだとか。
あ〜っ、こんなことならあの小学生、、結衣とか言ったっけ?あの娘と組む方が良かったな。
まぁ、引き立て役にしたって私にこんなに負担がかかるなんてデメリットでしかないし。
それでも、ミサミサちゃんをフォローする優しいアイドルって感じで評価は上がるよね。
しかし、私の黒い目論見はその翌日に破られる事になる。
初めての合同レッスン初日。
「おはようございま、、えっ、、、」
わたしが約束の十分前に行くとミサミサちゃんが一心不乱にダンスの練習をしている。
驚くべきは先日教わったばかりの新曲の振り付けがほぼ完璧に出来たことじゃない。
もう何時間練習したかわからないほど汗びっしょりなのに彼女のダンスのキレは最高潮に達していた。
というか、彼女のダンスは雄弁に語っている。
『私を見て。』と。
普段まともな事が喋れないのも、彼女にとっては欠点になり得ないって事?
ギリッ。
自分の歯軋りの音に驚く。
この私が、あの娘を羨んでいるの?
そんなわけない。
だって私はKING of iDOLなのよ。
しかし、私はミサミサちゃんを意識し過ぎて実力の半分も出せずにレッスンを終えることになった。
ハッキリ言ってしまえば自滅だね。
ほんとうに、らしくないや。
「大丈夫?お腹減ってるの?」
終わった途端、ミサミサちゃんは元の天然でボーッとした印象に戻る。発言もかなり的外れなものだった。
「確かにあれだけ動けば少しお腹が空いたかも」
私が素直に感想を口にすると、ミサミサちゃんの目が輝いた。
「それならパンケーキとかどうかな?美味しいよっ。」
子供のように身振り手振りで美味しさを表現する彼女は控えめに言っても小学生みたいだった。
でも、、、この2人でそんな所に行ったら目立ちすぎるでしょ?
しかし、シャワーを浴びて、着替えた時点で私の心配は杞憂だった事に気が付いた。まぁ、彼女に関してはだけど。
彼女の風貌は全くガラリと変わってしまった。
ぐるぐるメガネに三つ編み。そして、まるで学校指定かのような冴えないジャージ姿。
この姿を見て、誰がミサミサちゃんだと思うのだろうか?というかアイドルとしてどうなんだろう?
それにしても、、、、
ミサミサちゃんは急にソワソワしだした。
もっとハッキリ言ってしまえば挙動不審だし。
結局、どこに食べに行くんだろう。
「えっと、パンケーキ屋さん行くんでしょ?」
「ううん、違うよ。」
ミサミサちゃんは首を横に振る。
「だったら「来た。」」
ミサミサちゃんは私の会話を遮ってドアに視線を走らせる。
すると、コンコンコンッとノックが3回。
まるで予言みたいだった。
そして、、、彼女が現れたのだった。




