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七十九.五

本日2話目。


閑話です。

レイヤードパートです。

人気??の結衣視点です。

日本武道館から溢れんばかりのファンたちを前に私達レイヤードは躍動する。そして、、、、ズッコケる。


最高のパフォーマンスで繰り広げたライブもひと段落してトークという場面で、美咲先輩が放送事故級の沈黙を召喚したのだ。


「かわゆいが世界で一番似合う女の子、レイヤードの最年少、結衣です。よっろしっくね。」


慌てた私こと結衣はこのおかしなタイミングでしぶしぶ自己紹介を始めることになりました。



なぜだか、レイヤードにはまともに会話を進行できる人間が2人しかいないんですよ。それは、美咲先輩‥ではもちろんなくて、苺ちゃんと私だけ。



ただ、苺ちゃんはイレギュラーに弱いのか、会話自体が元々苦手だったのか、こういう時はやはり上手く対応できなくて空回りしてしまうのです。



それで最年少なのに仕方なく結衣が‥‥



結衣は自己紹介しながらターンしてキメポーズを作った。客席からは大歓声が上がる。今だ。



「というわけで、『今日の結衣ちゃんのインスタ』、、、いってみますね。」


そこで、更に大歓声が上がる。


そう、『今日の結衣ちゃんのインスタ』はレイヤードの鉄板ネタなのだ。


私が手をかざすと会場のスクリーンに私のインスタ画面が映される。


そこには猫の着ぐるみパジャマを着た私があざとく笑っていた。首を傾げたところなんて我ながらよくポージングされていると感心してしまう。


「今日のゲストは美咲センパイ。」

そう、私のインスタと言ってもUPされるのは私の写真じゃない。


「えっ、、、結衣ちゃん??」

戸惑う美咲先輩を他所に私は写真をアップする。



モニターには涎を垂らした美咲先輩の寝顔のアップがドンッと映された。そう、本日のゲストとは本日のイケニエと読み換えたりも出来るとか出来ないとか。



「結衣ちゃん。」

美咲先輩が眉根を寄せて私を睨む。


まぁ、普段は中身がアレだと分かっているので全然怖くないし、よく見てみると、ほんのり頬が赤らんでいるのです。


もしかしなくても、恥ずかしがってるの?


ズルいくらい綺麗可愛いですけど、その表情は2カメさんがちゃんと抜いて、右側のサブスクリーンに映し出されている。


すべて結衣の計算通〜り。

だから、私はわざと間違えるんです。


「あれれれ?美咲先輩怒ってます?これはファンが知らない、ポンコツ‥‥普段の美咲先輩の魅力を知ってもらって、もっとファンの皆さんに美咲先輩を好きになってもらおう。そういう結衣の妹真心が詰まった写真ですよぉ。あっ、褒めてくれても構いませんよ。ほら、結衣って褒められて伸びるタイプですから。」


私がウィンクしてそう答えると、舞台は歓声の波に呑まれる。


「さすが結衣ちゃん」


「結衣タンかわいい」


「結衣ちゃん最高〜」


「軍師結衣ちゃん」


「結衣ちゃん尊い」


「結衣ちゃんしか勝たん」


などと私への賛美のシャワーが浴びせられるのは控えめに言っても気分がいいものです。


ただ、最近、よく聞かれる歓声の中に

「さすが裏ボス。」

「裏番最高〜」とか

こんなのがあるから、ちょっと、どうなのかな?


控えめに言っても他のメンバーよりも頑張ってますよね?私って。



「こらっ、結衣。毎回毎回、おいしい所持っていくよね。ちょっとは先輩を敬うとか敬うとか敬うとかないのかなぁ?」


苺ちゃんが芝居がかった物言いで、私を煽ってくる。まぁ、プロレスみたいな、ものすごくお約束な煽りなのだけど。


まぁ、私がつけた火に燃えやすい小さな薪をくべるような丁寧なフリが出来るのは残念ながらこの人だけなの。


というか、他のメンバーが、マイペース過ぎるだけなんですけどぉ。


「さすが苺ちゃん。舞台に出ると違いますよね。楽屋では一言も発しないし。しばらく喋ってないから声が出なくなったかとすごく心配してたんですよ。心配で心配でご飯も喉を通らなくて。」


私ももちろん苺ちゃんをあおりかえす。



「何言ってるのよ?そんなわけないじゃん。それより、結衣?ご飯が喉を通らないどころか、楽屋でバクバクお菓子食べてたよね?あれ?なんて言うんだっけ?」


苺ちゃんはオーバージェスチャーで動き回る。

これはきっと会場全体を意識したもの。

そこに彼女のプロフェッショナルを感じる。



「マリトッツォで‥‥いや、、食べてませんよ。何言ってるんですか?」


つられて私の動作も大きくなる。



「いやいや、語るに落ちてるから。それで、こんなにお腹がプニプニしてるんだぁ。」

言いながら苺ちゃんは私のお腹を触る。


完全にパワハラandセクハラです。


3カメさんが私と苺ちゃんを抜く。

その姿はきっと左側のサブモニターに映し出されてるんでしょうけど。結衣もさすがに余裕がなくなってきました。


「キャッ‥どこ触ってるんですか。どうせ触るなら葵さんかユッキーさんの胸の方がいいと思うよ。だって、苺ちゃんの胸を触っても‥‥あ〜なんでもないです。」


「言ったな、結衣〜」

「私も負けませんよ。」


お互いに胸を先に触った方が勝ちなゲームがスタート、、、どうしよう?

悪ノリしすぎたのかしら?


そこに葵ちゃんがゆらっと飛び込んできた。


「2人とも喧嘩はやめ‥あれ〜っ」

けど、、躓いて私と苺ちゃんを巻き込んで倒れた。


そして、私と苺ちゃんは残念ながら葵ちゃんの下敷きにされてしまうのだった。


相変わらず葵ちゃんの天然ドジっ娘ぶりは神がかっている。でも、それさえ利用してしまえる結衣が一番神がかっているのです。


「ちょっと葵ちゃん。大きなお胸をクッションじゃなくて私と苺ちゃんの顔に乗せないで下さい。」

「や、柔らかい‥って羨ましくなんてないんだからね。結衣と違って私は成長中だし。」


百合百合した光景が中央の大型モニターにも映されて観客がますます湧く。



「持たざる者の嘆き、持つ者への反逆。ワックワク。」

そこに朱音ちゃんがやっぱり乗っかってくる。

悪い意味で期待をうらぎらないんですよ。


お陰で会場はさらに大盛り上がりだった。



‥‥結局、持ち時間を10分以上オーバーして、プロデューサーに正座させられたのでした。


‥‥しかも、結衣と苺ちゃんだけ‥‥




「沙耶、ごめんね。待ったよね?」


プロデューサーのお説教が終わり、私は痺れる足を引きずって控室に戻る。中には親友で、幼馴染でもある沙耶が、読んでいた本から目を離し、私に視線を向ける。


ちなみに今日は沙耶ちゃんをライブに招待したのだ。まぁ、さすがに今日だけは楽屋はみんなと分けてもらったけど。


「ううん、ライブ凄かったね。りんか‥‥えっと苺も凄かったよ。」

沙耶ちゃんは私の本名を言いかけた。


「うん、ありがとう。もう、本名でいいけど。それで、リーダーのサインが欲しいんだっけ?」

そう、沙耶ちゃんは私と親友でありながら私のファンではなく、結衣のファン。なのにリーダーのサインなの?


「ん、出来れば結衣さまのサインも」

「こらっ、私のサイン、ねだったこと無いのに、リーダーどころか、結衣まで。」

「だって、苺ちゃんのはまだデビュー前に貰ってるでしょ?今、転売したら高く売れそうだよねぇ。」


沙耶はニヤニヤする。


しまった、完全に会話を誘導されていた。


「そういうとこ、結衣に似てて腹が立つよぉ」

思わず呟くと、


「イヤイヤ、苺ちゃん、結衣さまと似ているなんて烏滸がましいよ。」


そう、沙耶は唯ちゃんのビリーバー【信者】なのだ。


だから、ライブ前の物販で沙耶は買い込んだ結衣グッズをたくさん抱えている。何が怖いって、ビリーバーは結衣のグッズを買うのを【お布施】って呼ぶ所なんだよね。


「あはは、それは悪かったよ。ところで美咲さんのあの発表、ビックリしなかった?」


私は結衣の件はスルーして気になっていた事を聞いた。


そう。あの後、美咲さんが爆弾発言をしたのだ。

その事についてレイヤードファンの立場からの感想を聞きたかったのに。


そう、彼女は静かに告げたのだ。


「私、来月、ソロデビューします。」


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