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七十七話


結局、眞姫那、改め、刹那が説明してもラチがあかず、彼女の使用人らしい水面という女の子に経緯の説明をしてもらい、なんとか体育教師である山田先生から解放された。




放課後、俺は階段塔の隅に隠れて、男子が刹那さんに告白する姿を見ていた。


「神崎さん。俺はサッカー部キャプテンの三浦と言います。君が好きです。付き合って下さい。」

短髪だが、爽やか系イケメンが刹那に告白している。


そして、サッカー部キャプテンは軽く頭を下げてから刹那を真正面から見つめる。

その様子はリア充らしく、堂々としたものだった。


一瞬の沈黙。



「えっと、、、存じ上げませんが。。。それで好きとかちょっとストーカーっぽくて、正直気持ち悪いです。あっ、、、ごめんなさい、ストーカーさん。返事まだでしたよね?返事が必要ですか?」


気持ち悪いほど警戒心と嫌悪感を滲ませた声で話す刹那の目は虫ケラを見るそれだった。



「ふぐっ、いや、大丈夫です。それじゃ」


刹那さんの必殺(死ぬのは心だけど)メンタルアタックを食らったストーカーさんはもはや眼の焦点すら合ってないくらい、茫然自失だ。

そして、彼はフラフラと屋上から退場していった。


『ふぅ、刹那さん。屋上に呼び出して置いて、心臓に悪いもの見せるんじゃねぇよ。』なんて言いたかったけど、今の刹那さんが本当に心の底から怖いのでモチロン口に出すのはやめておいた。




怯えながらも、刹那さんに近づくと、


「お待たせしました。それで、、ですね。」

刹那は事の経緯を説明してくれた。

使用人にゾンビメイクされたのに気付かなかったことや、偽名を使っていたことだ。


「えっ?それで土下座したの?殆どやってること本膳じゃないか?」


ちなみに本膳というのは落語の演目のひとつでごちそうを食べる人がその作法を知らないので師匠のをそのまま真似てしまうハナシだ。


師匠が誤って鼻にご飯粒をつけてしまったら、周りの人も鼻にご飯粒を付けてみたり、芋をお箸で掴み損ねたのを見て回りの人間も真似て芋を落としてみたりする話なのだが、まさか眞姫那‥‥いや、刹那さんも俺の土下座を真似してしまうなんて‥‥



「だって‥‥友達ってそういうものなんかと思ってんやぁ。」


友達同士で、そんなルールは聞いたことがない。というか、友達に土下座ってどんな悪い事をしたんだよ?って感じだ。



「いや、眞姫那‥いや、刹那さんの友達観がぜんっぜんよくわからないんだけど。」


「いや‥‥ウチ‥‥ハッシー‥‥‥友達少ない‥‥‥」


いや、なんか言い淀んでいるが、友達少ない俺と違って、そういう友達もいるってことなのか?


もしかして、友達がトモヤしかいないくせに俺が知ったかぶりしてしまった?



「それより、なぜ俺は、告白シーンとかみせられたんだ?告白ドキュメンタリーの観覧希望なんてだした覚えはないんだけど。」


俺はなんだか恥ずかしくなり、無理矢理話を変えることにした。まぁ、コミュ力の低い人って会話の途中でいきなり話をぶった切って話を変えたりするよな‥‥それって俺のこと?



「‥あれは、ハッシーとの待ち合わせの後に無理矢理予定を入れられてんよぉ。ごめんなさい。」


「それはいいけど、刹那‥さんの事情はわかったよ。まぁ、それだけ可愛ければ容姿目当てで絡んでくるオトコはおおいだろうし、刹那さんは有名だから偽名もわかる。」


「ありがとう、ハッシー。良かったぁ、ウチ嫌われたんかと「ただ、あのゾンビメイクは気づくだろ?どうなってるんだ刹那さんの頭は?」


俺は刹那さんの安堵の溜息交じりのセリフをクレーム色に塗り替えた。


「いや、だって、ウチ、、化粧って自分でした事ないし、分からんかってん。」


まぁ、この娘、こんな整った顔して天然だったってことか?普通気づくと思うが。


「いや、まぁ、しょうがないか。だれも恨んでないよ。改めてよろしく。」


俺が右手を差し出すと、なぜだか手を繋がれる。いや、なんとなく握手しようとしただけだが、どうしよう。さすがに振り払う訳にもいかない。


いや、でも、友達って手を繋ぐものなのか?

俺はトモヤと手を繋ぐことはない。


でも、トモヤと俺の友達観が普通じゃないかもしれないんだよな?

というか、単純にドキドキする。。。


まぁ、どちらにしても横向きに2人で並んで立つのはおかしいだろ?


とはいえ、明確に否定できるほど俺には経験がない。実際、リア充が男同士で肩をくんでるのを見たこともあるし、あれも横並びだよな?


もしかしてこれが普通で俺が異常なのかもしれない。


方針転換した俺がさも当然のように胸を張って刹那に笑顔を向けると、刹那からもニコリと返事が帰ってきた。


「やっぱり友達って手を繋ぐものなんやぁ。ほんま良かった、間違ってなかった。」

そして、、なにかブツブツ呟いていたが、よく聞こえない。


更に不意にキィーと屋上塔のとびらの開く音がして、注意をそちらに持っていかれた。


「あっ、、シンヤ、探したぞ。あれ?今日って屋上で昼メシたべるって話だっけ?」


トモヤが弁当持参でこちらに近づいてくる。

そして、立ち止まって一言。


「シンヤ、氷結‥‥神崎さんと手を繋いでなにしてるんだ?はっきり言っておかしいぞ。」


あれ?友達って手を繋ぐものじゃないのか?


!!!!???


あっ、、、そういうことか?

俺ってダメだな。

こういう人の機微に疎いからすぐには気づかなかった。


そうだ。きっとトモヤは仲間はずれにでもされたとおもったのだろう。


俺はあいてる左手でトモヤと手を繋いだ。


「これでよしっ」

「これでよしっ、、じゃねぇ。なに、やってること小学生か?」

トモヤは首をブンブンと左右に振って否定の意を表していた。しかし、俺は手を離さない。


『死んでもこの手を離すもんかぁ。』なんて、崖から落ちそうな仲間の手を掴んでいるみたいなシチュエーションになってしまっているが、果たして正解なのだろうか?


「ん、手を繋ぐのは友情の証だろ?刹那さんがそう言ってたし」

「‥‥ウチ、、そんなこと言ってないけど。」


刹那さんは真顔で否定する。


ええ〜っ、、嘘だろ?

冷や水を浴びせられた俺は仕方なく今までの言動を振り返ることにした。


「いや、言って‥‥はいないか?じゃあ、なぜ?手を繋いだんだ?」


「手‥出してきたやんかぁ。」

刹那さんは口を尖らせる。


普段から整った顔に幼さが加わり、これはこれで可愛いから困ったものだ。


「いや、、、手を出されたら繋ぐのか?なんだかそのまま連れ去り事件にあいそうだな。」


いや、幼児じゃあるまいし、実際そんなことはないけど、なんとなく捨てゼリフ的にチクっと言ってやったつもりだった。


「えっと、、、つまりは『一生君を離さない』ってことなん?えっと、、ごめんなさい、いきなりプロポーズするアブナイ人とは付き合われへんのん。」


しかし、俺の皮肉はまったく伝わっていなかったようだ。日本語って本当に難しい。



「いや、さすがに刹那さんに告白するわけないだろ?」


さっきの男みたいに言葉のナイフでズタボロにされる未来が見えるからな。


だったら、誰と付き合える確率があるかと考えると、凛花?


いや?

凛花は何かおかしい。


俺に微笑みかけているようでその瞳には俺が全く映っていないような違和感を感じるのだ。


だったら、なぜ、俺にベタベタしてくるのかはまったくわからない。


で、もちろん、刹那さんが考えていることもサッパリわからないんだけとな。



「ちょっと待て、シンヤ。お前ら知り合いだったのか?俺聞いてないんだけど。」


困ったように頭をかくトモヤはもしかして俺と刹那さんの仲に嫉妬でもしているのだろうか?


「あっ、、トモヤくんだ。」

しかし、予想外なことに刹那さんがトモヤの名前を呟いた。俺は苗字なのにトモヤは下の名前だ。


「ちょ、、ちょっと、どういう‥」


そこまで言いかけたところで『キーンコーンカーンコーン』と空気を読まない、昼休み終了のベルが辺りに響いたのだった。


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