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七十三話

おっ‥‥おかしいな。


家を出た時は雨上がりの爽やかな朝日が、潤んだ景色をキラキラと反射させていて、今日一日の幸運を予感させたのだけれども。


今の俺は自然を楽しむ余裕なんてものはこれっぽっちも持ち合わせる事が出来なかった。


今は女の子と二人でショッピング中。


だから、夢見心地‥‥というわけでもなく、単純に隣にゾンビが歩いている状況に俺が混乱していたただけだった。



チラッ‥‥チラッ‥‥

チラッ‥‥チラッ‥チラッ‥‥‥‥チラッ。



未だにお互いをチラ見しては目が合って、、また、目を逸らしての繰り返しだ。これ、今日何回目だよ?


これが付き合いたての中学生なら、客観的に見るとなんだか初々しい二人に見えるだろう。


ただ、今、客観的に見ると、冴えない高校生男子とゾンビ女子が気まずそうに歩いているというなんだかシュールな光景が広がっているんだろう。



‥‥なんだか会話も弾まないし、この歳ではじめて眼球が疲れるって感覚を実感する。



いや、首から下を見ればいいのか?


首から下はすごく女の子らしい華奢な体型で、イボガエルなんて比べ物にならない。


「ハッシー、ウチかて胸ばっかり見られたらさすがに恥ずかしいんやよ」


しかし、眞姫那は両手で胸を隠す仕草をする。

それが妙に女の子らしくてドキッとした。

そのまま視線を上にあげて、顔をみて今度はゾクッとする。


一粒で2度美味しい、、、なんて事には決してならない。業の深い容姿。コンプレックスだって根深いものなのだろう。


だったら、こんな態度は良くないな。



「悪い悪いっ、、ちょっと緊張してるんだよ。それにしても、今日はありがとう。プラン丸投げで悪いけどどこに行く?」


俺はなんとか、さり気なさを装う。



「そう、やっぱり雑貨店やと思うんやぁ。さすがに香水とかスキンケアとかは個人の好みというか体質があるみたいやよ。」


「ん?みたいやよ?もしかして、わざわざ調べてくれたのか?」


そういえば、俺は丸投げで何もしていなかったというのに。


「ん、、そんな事ないんよ。ほら、女友達に贈り物とか女子は良くあるし。」


眞姫那はなぜだか目を逸らしながら答える。



「そうなんだ?意外だ。友達多いんだな?」

「あ、当たり前やんっ。当たり前。」


食い気味かつ、声が裏返っている。

もしかして、友達少ないのか?


「まぁ、友達は数じゃない。量より質だよな。」


そもそも、俺だって友達はトモヤただ一人しか居ないしな。



「‥‥そ、そうやんなぁ?うんうん、やっぱりウチら気が合うんやぁ。」


明るい声色が聞こえてきて俺は安堵する。

おまけに、少しずつ話せるようになってきたな。


「だな。ところで、視線、いつもこんなのなのか?」

そう、少し心にゆとりが出来ると、狭い視界も広くなるというものだ。


周りを見てみると、誰もが彼女をチラチラと見ており、俺を見られているわけではないとわかっているつもりでもなんだか落ち着かない。


「あ〜っ、、まぁ、、、いつものことだから。もう、あんまり気にした事ないわぁ。」

なんだか苦笑いを浮かべている。


人々の奇異な視線に慣れてしまう‥‥‥‥

それはとても悲しいこと。なのにそこをわざわざ掘り起こしてしまった。


バカか?

俺は?

無神経過ぎて死にたくなった。



「ん?ここやよ。」

眞姫那が指差したのは、いかにもお洒落な雑貨店だった。きっと眞姫那が居なければ1人で入る事すらできなかっただろう。


カランコロッ。

扉を開けると小気味良い甲高い音がして、二十代くらいで黒髪の落ち着いた感じの女性が近寄ってくる。



「当店へようこそ。秋月さまよりご紹介の神崎さまですね。お待ちしておりました。」


眞姫那って?かんざきって言うのか?


初めてフルネームを知ったけど、よく考えてみると俺って眞姫那の事なんも知らないのかもしれないな。



「‥‥」

ゾンビ相手にひるむ事なく出迎えてくれた店員さんに対して、眞姫那はサッと視線を落とすだけで、身動きすらしなかった。



「おいっ、眞姫那。いくらなんでも失礼だろうが。それに紹介してくれた人の顔を潰す事になってしまうだろ」


「いえっ、、大丈夫ですよ。秋月さまからは神崎さまは大人しくて恥ずかしがり屋さんだってお聞きしてますから。それでは私はあちらに行ってますので何かございましたらお気軽にお声がけ下さい。」


店員さんは俺の言葉を手で制しながら、笑顔は絶やさない。本当に気遣いが出来ている。

正直、惚れてしまいそうだ。



「ごめん、ウチ、ちょっと人見知りやねん。」

眞姫那二人きりになると小声で手を合わせる。



「そうか、そういえば、二人きりでしか話したことないもんな。というか、俺に対しては最初から人懐っこかった気がするけど。」


うん、最初から不躾で人見知り成分なんて1パーセントもなかっただろ。



「まぁ、顔合わせてへんかったやん?それにハッシーはウチと似た匂いがするから。」


しかし、言われて思い当たる。

2人とも決して暗い性格でも、1人で生きて行けそうな感じでもないのに、友達は少ない。


それで惹かれあった?


『ぼっち引力の法則』とかそんな感じだろうか?ものすごくニュートンっぽい。



「まぁ、気持ちはわからなくはないからな。ほら、友達多いヤツってそもそも知らない人のことをあまり警戒しないだろ?例えば友達の友達って赤の他人なのに」


俺は思わず拳を振り上げて熱弁してしまう。


「あっ、そうやんなぁ。じゃあ、友達の好きな人の友達って、赤の他人なんかなぁ」


そんな俺にヒくこともなく、眞姫那は訳の分からないことを言う。



「ん?よくわからないけど他人じゃないか?まぁ、それはともかく、眞姫那とは友達だろ?」


言ってから、少し焦った。

よく考えると、これ『NO』って言われたらめちゃくちゃ恥ずかしいヤツだ。


「‥‥うん。そっかぁ。友達」


眞姫那はなんだか噛みしめるようにボソッとつぶやいた。よくよく見てみると、瞳が揺れている。


そして、耐えきれなかったのか、雫が頬を伝った。



えっ?

今のどこに女の子を泣かせる要素があったの?


それにしても良かった。


ここにクラスメイト達が居たら間違いなく

『なぁ〜かしたぁ、なぁ〜かしたぁ。せ〜んせいにぃ、ゆぅた〜ろぉ』っていう、曲名不明の歌の大合唱大会が始まるところだった。



「ごめんなぁ、嬉しくて少し泣いてしまったんよぉ。」

眞姫那は目をこすってからこちらに笑顔を向けた。しかし、やっぱり、目が歪んだように見える。ゾンビだから目をこすったりしたら、形を保てないんだろうか?



「そんなに見られたら、ほら、、あれ、、友達にそんなに見られたら照れるわぁ」


眞姫那は頬を真っ赤にすることもなく、土気色の顔色でそんな事を言う。


「それ、友達って言いたかっただけだろ?」

「あははっ、バレたんやぁ。さすが友達やなぁ」

俺が呆れ顔を浮かべると、むしろ嬉しそうな顔を浮かべる。


それを見て、俺も嬉しくなってしまうのだから困ったものだ。こういうのが『気が合う』っていうのかもしれない。


「あははっ、そうだな、友達。」

別に友達は初めてではないが、なんだか嬉しくていつもよりかなりテンションが上がってしまっている。



「うんうん、友達やんねぇ〜。」

「あぁ、友達だな。」

「そうそう、友達やわぁ」

「そっか、友達だもんな。」

「そう、友達なん?」

「友達だろ?」

「ふふふっ、いつまで続けるんよぉ?」


2人して『友達』って言葉以外忘れてしまったみたいな訳の分からないやり取りが続いた。



しかし、不意に電子音が鳴った。

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