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七十二話

デート(?)前日の土曜日、もう少しで子の正刻といった頃。


とあるお屋敷の一室で、とある美少女が部屋の中を動き回っては、鏡の前に立ち、また動き回って、、また、鏡の前に立ち、を繰り返していた。



「トントン、入ってますか?」

と言葉で言いながら特にノックもせずにTシャツにショートパンツのラフな服装をした女の子がズカズカと部屋に入ってくる。猫足型のスリッパだけが妙に可愛らしさを演出していた。



「水面?どうしたの?」

部屋の主である美少女はそんな無礼者を怒ることもなく、不思議そうに顔を傾げた。



「刹那さま。どうしたって聞きたいのは私の方ですよ。部屋中に服を広げて、、、こんな夜中にファッションショーでもしているんですか?友達少ないから一人で?」


水面はニコリともせず、真顔でそう告げる。

それはさながら死刑宣告のような響きを放っていた。



「嫌やわぁ、そんな訳ないやん。」

友達が少ないという図星を突かれた刹那は思わず関西弁が出てしまう。少なくとも、屋敷内では関西弁は喋らないと決めていたにもかかわらずだ。



「刹那さま、冗談ですからそんなに動揺しないでください。それにしても、本当になにしてるんですか?もしかして、明日、デートですか?」


「‥‥ンッ。」

美少女は耳まで真っ赤になった。


「しょうがないですね。コーディネートに、メイクまで、私にドンと任せてください。これでも『ハリウッドが認めた女』なんて呼ばれてるんですよ。」


胸を張った水面の瞳には自信が並々と溢れていた。

だから、刹那は水面に任せる事に決めた。


なぜ、こんな胡散臭い話にのってしまったって?


刹那は努力しなくてもモテたから、男のコとのデートにどんなおしゃれをしていけばいいか、考えれば考えるほどわからなかった。


もちろん、水面に全面的に任せた事は、後でものすご〜く後悔することになるのだが、その時の刹那は知る由もないのだった。




翌朝、刹那の前に座った水面はこんな事を言う。


「私がいいと言うまで、結して目を開けてはなりません。」


刹那は、まるで『決して中をのぞいてはいけません』の鶴みたいなセリフだと感じながらも、上目遣いで手を合わせる。


「う〜ん、みたいんだけど、、だめ?」

「ダメです。」

水面は顔色一つ変えずに否定する。



「ほんとにだめ?」

「ダメです。」

「ほんとにほんとにだめ?」

「ダメです。」

「ほんまにあかんの?」

「ダメです。」

「ほんまにほんまにあかんのん?」

「しつこいですね。じゃあ止めますか?」


水面の面倒臭そうな笑顔に、、刹那は全身の筋肉を弛緩した。


メイクの出来が完璧なゾンビになるとも知らずに‥‥






そして、日曜日の待ち合わせ時間ジャスト。

俺は眞姫那と出会った。



「あっ、、そ、、そうだな。よく考えたら俺って眞姫那の顔知らないし、ちょっと想像と違って驚いているとかなんとかかんとかだよなぁ〜あははっ。」


俺はやたらと早口で言い訳を始める。

まぁ、ハッキリ言って動揺していた。


俺は容姿の好みはまぁまぁ、ストライクゾーンが広い方だという自負はあるが‥‥目玉が飛び出そうって、もはや人間というよりゾンビに近い気がするのだけど。



「あっ、そうなんやぁ。実は今日は水面にメイクしてもらったからいつもとはちょっと違うかもしれへんよぉ。ほら、目が大きく見えるようにアイラインに工夫してるんよ。」


飛び出そうな目玉を指差しながらそんな事を言うが、これって自虐ネタなのだろうか?


正直言って女の子の容姿ネタとか怖くて触れられないし、さすがに笑えなかった。


「へぇ、メイクって奥が深いんだな、あっ、、、の?」


俺はもちろんさりげなく話を変えるしか選択肢は無かったのだが、


「あれ?褒めてくれへんの?」

眞姫那は舐めた事を言い始めた。


いや、何処をほめればいいんだ?

土気色の肌?

飛び出した目玉?

いや、そう言えばスラッとしてスタイルはいいんじゃないか?


だとしたら、褒め言葉は一つしかない。


「そうだな、ほら、眞姫那ってシュッとしてるよな。」

ちょっとドヤ顔だったかもしれないが、確か関西弁で褒め言葉だったような気がする。



「‥‥ありがとう。ほんまに水面に任せてよかったわぁ。」


ニッコリと笑った眞姫那は控えめに言ってもゾンビで俺は思わず目を逸らした。


「ぁぁっ、、そうだな。」


まぁ、見た目が気に入らないとか流石に言えないだろう。俺がイボガエルみたいな姿を想像していたとは言え、思えば眞姫那は最初からあんまり姿を見て見られたくない様子だったよな。



「‥‥ありがとうなぁ。ウ‥‥チも‥‥あんまり見た目気にしたことないし、こんなにちゃんと化粧したの初めてやわぁ。」


‥ん、、たしかに化粧でなんとかできるレベルの容姿ではないが、、精一杯お洒落してきてくれたんだ。


ただ、恐怖で見ていられない顔だが‥‥



チラッ‥‥、何とか彼女を見ると、ギロリと飛び出た目玉がこちらを見ている。


反射的に目を逸らしてしまった‥‥


それでも、またチラッと彼女を見て、目が合って、、また、目をそらしてしまう。





‥‥これで、何度目だ。気が遠くなるくらい同じやり取りをしている。いい加減、俺も慣れないといけないし、彼女の性格は好きなはずだ。


それなのに、、、そんなに容姿ってのは大事なのかよ。俺だって人に言えるほどの容姿じゃない。それで、俺の態度で彼女を傷つけたらどうするんだよ?



「‥‥?どうしたん?ハッシーっ、、いつもと違って、めっちゃ大人しいわぁ。どうしたんよぉ」


眞姫那は首を傾げる。

すると、目玉が更に飛び出たように見えて、また目を逸らしてしまった。


「いや、お、女の子と二人きりでお出掛けに慣れていないからな、緊張しているんだ。」


俺は見え透いた言い訳を始める。

こんな言い訳小学生でも騙されな‥‥


「ふふふっ、もしかして照れてはるん?可愛いわぁ」


‥いこともなかった。

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