六十五話
更新ペースは遅いですが、愛想つかさないで頂けるとありがたいです。
「お待たせいたしました。本日は3種のベリーと、マンゴーのパンケーキをお届けにあがりました。」
俺はいつも通り美奈さまへのお届けのため、女装して名門女子高の屋上にいた。
まぁ、女装してのお届けをサラっと『いつも通り』と言ってしまえるあたり、慣れって恐ろしいと思う。
そして、いつもなら美奈さまはここで意地の悪い笑みを浮かべるのがある種のお約束なのだか、今日に限って彼女の態度は違っていた。
「あっ、ありがとっ。ホントに助かった」
頰を若干赤らめて、目を逸らしながらだったが、たしかに『ありがとう』と、感謝の言葉を口にしたのだ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥?いえいえ、美奈様?体調でもお悪いのですか?それとも、いまから天変地異でも起こるのでしょうか?」
俺は動揺から、たっぷり10秒の沈黙の後、そう言葉を漏らした。言葉は丁寧だが、かなり失礼な言葉を口にしてしまっている。
お陰で今度は背中にイャあな汗が滴り落ちる。
まったくもって自業自得なのだけど、俺ってバカ?
「あっ、、もうっ、、、ちょっと私が素直になったらそんな態度とるんだから、、、まぁ、とにかくありがと。このお礼はキッチリ返すからね。何か私にして欲しいこととかある?あっ、エロいのとか絶対、ぜーったい無理だから。」
一瞬、押すな押すな的なフリかと思ったが、エロいお願いしたらゴミでも見るような目で見られてしまうのはなんとなく想像つくし、俺はその瞳に快感を感じてしまうほどセレブリティな変態でもないからな。
それにしても、じゃあ、何をお願いすればいいかって事だけど、、あっ、、そうだな。
ちょうど困っている事があったし、ダメ元で聞いてみるか?
「あの、、、美奈さま。あくまでもダメ元で聞いてみるのですか、パルクールとか習えるところ知りませんか?出来れば‥‥お金とかかからないところで。」
自分でも無茶な事を言っているのはわかっている。だって、何かを得る対価がタダなんてことは、この資本主義下にありうべきものではないのだから。
「‥そうね?あんまり気がすすまないんだけど‥‥こんな男に借りを作ったままってのもね。なんだか屈辱的だし。」
美奈さまは少し不機嫌そうに首を傾げる。
「言い方‥‥まぁ、いいけど、心当たりがあるのか?」
俺がそう言うと、美奈さまは笑った。
それはニヤリという擬音が聞こえてきそうな、彼女に良く似合う不敵な笑みだった。
三日後の夜、俺は美奈さまと駅前で待ち合わせしていた。 空を見上げればちょうどオレンジ色の太陽が地平線に沈み、漆黒とオレンジの絶妙なコントラストに心を奪われてしまう。
一方で、せせこましい地上に佇む俺はちょうど配達を終えたところなので、黒いストレッチジーンズにグレーのTシャツという、微妙なコントラストの服装だ。そして、少し後悔し始めていた。
いや、服装自体はパルクールを習うのに問題はない。まぁ、本当はジャージの方が良いのだろうが、一旦着替えに戻る時間がなかったのだ。
しかし、問題はそこではなかった。
駅前の噴水広場付近。
そこは世の彼氏彼女の為の定番の待ち合わせ場所でもあったらしく、さっきからイチャイチャ、イチャイチャ、そんでもってイチャイチャだらけで、なぜだか居るだけで精神が削られていく。
遅れたらいけないと思って、約束の30分も前に来てしまったのが完全に裏目に出た。
それにしても不思議だ。
世の中にはこんなにカップルがいるというのに、俺にはなぜ彼女がいないのだろう?
たまたま俺のお客さんや周りには可愛い娘や綺麗な娘が多いけど、俺ってば別に面食いでない。だから、ストライクゾーンは広いはずだ。
まぁ、原因はそのへんなのだろうな。
俺の周りで、フツーの容姿の女の子なんて、委員長と、美咲さまくらいのものだ。
ということは、万が一でも俺にフツーの彼女が出来るとしたらこの2人のどちらかなのだが、最近の美咲さまは挙動不審で、よく分からないし、委員長に至っては恋愛=不純異性交友とか言って怒られそうだもんな。
そんな妄想なのか、現実的なのかよく分からない想像をしている間に時間が過ぎてしまったようで、美奈さまがこちらに向かってくるのが見えた。
ハイウエストのスキニーにトップスは右肩のみ肩出しのカットソー、その上に膝丈のカーディガンを羽織っている姿は、シンプルながら彼女のスタイルの良さを際立たせていた。
それはただ似合うだけでなく美奈さまはきっと自分の見せ方をよく分かっているのだろうな。
まぁ、色々理由をつけたけど、俺自身、単に見惚れてしまったのは間違いないだろう。
ただ、言い訳をさせてもらうのなら、見惚れていたのは俺だけじゃなかったんだからな。
俺の周りにいる彼氏彼女のうちの彼氏たちがチラチラと美奈さまに目線を送っている。
そして、その内の何組かの彼女側がそれに気付いて彼氏の耳を引っ張ったり膨れっ面したりしていた。この後修羅場確実だろうな。
「お待たせ。ってどこ見てるのよ?」
あぁっ、こう言われても、美奈さまの胸元を見ていたとかそういうのではない。
美奈さまの待ち合わせ相手が俺だと分かって、そこら中から舌打ちが聞こえてきたから思わずそちら反射的に見てしまっただけだ。
わかる、釣り合ってないよな。
ただ、別に恋人じゃないし‥‥というか友達ですらないんだからな。
「すみません、美奈さま。それでどこにいくんですか?この駅付近にパルクール施設があるなんて聞いたことありませんが。」
そう、一応パルクール施設はインターネットで調べてはいるのだが、それとは全然近くない駅を待ち合わせにされて、俺は戸惑っていた。
「あぁ〜ね。まぁ、厳密に言えばパルクール施設じゃないけど同じような事は出来るから安心して。まぁ、付いてきて。」
俺の返事をまたず、美奈さまは踵を返してさっさと歩き出した。
だから、形としては美奈さまのお尻を追いかける形となってしまう。
普通、日本人だとお尻が平らで二次元的なのだが、彼女は欧米のモデルのようにお尻がツンと上がっていて本当に綺麗だ。いや、なんで俺、お尻について熱く語ってるんだ。
まぁ、彼女の後ろに付いていたことで気を抜いていたことは間違いないだろう。
「あっ、今日は男装なのねぇ?」
だから、美奈さまの振り向きざまの意地の悪い笑みをまともに浴びしてしまった。
「いや、あれは仕事用ですから。それより、まだ着かないんですか?」
ショックを受けながらも、なんとか話をそらそうとしたが、彼女の返事は予想外のものだった。




