六十三話
「美奈様、どうしたんですか?」
今日の美奈様への配達は例のお嬢様とも会わなかったので、順調すぎる位順調だった。
それで、気が緩んでしまったのだろう。
普段とは全然違う憂いを帯びた美奈様の表情に見事に反応してしまった。
「あぁ、ちょっとクラスでね。」
しかし、別に美奈様の罠って訳でもなかったらしい。美奈様は言葉を濁すだけで俯いてしまう。
正直言って、、『らしくない』な。
「美奈様。らしくないですね。そんなに暗い顔してないで、いつものドSでバカっぽい美奈さ‥‥しまった、、なんでもないです、今の発言は忘れてください。」
思わず口が滑った。
まぁ、それを見逃してくれる美奈様ではなかった。
「あははっ、今日はみっちり一時間かけてスィーツ食べよっかな?で、ついでに話聞いてもらって、、、」
案の定、美奈様はいつものニヤリとした笑みを浮かべる。そして、パチリとウィンクするのだった。
「つまりは、その休み明けの娘が孤立してるってことですか?だったら美奈様が相談した時点で結論は出てますよね?」
楓という名前を聞いた時点で誰かは思い当たってしまったから、絶対になんとかしたかった。しかし、幸い、美奈様に彼女を助ける意思があることは間違いないようだ。
「そうよ。私がなんとかする‥けど、最適解が浮かばないんだよね。」
「まず、話をただただ気長にきいてあげるしかないですよ。それにスィーツ好き同士話が合うんじゃないですか?」
俺は激励の気持ちも乗せてそう言ったのだが、完全に『口が滑った』というやつだった。
そして、それを逃がす美奈さまではない。
「なんで、あの娘がスィーツ好きなんて知っているの?もしかして知り合いなのかな?」
まるでトリモチのようにネト〜ッと粘着質な口調で問い詰めた美奈さまの口元は醜く歪んでいた。というか、完全に悪役のソレだった。
彼女は表情がよく変わるので見ていて飽きない。
まぁ、俺が当事者じゃなければもっと、じっくり楽しめたのだが、今の俺は完全に追い詰められていた。
「‥な、な、なんのこと?しょ、証拠でもあるのかよ?証拠もないのにそんなこと言うのか?ほら、証拠出せよ?出せないんだろ?言いがかりはやめるんだな」
この後、証拠を出されて捕まる殺人犯みたいな口調になってしまったが、俺が楓さまと知り合いという事実は明かすことはできなかった。
だって、守秘義務があるし。
「あっ、なんだ。お客様なんだ?ふぅん、そりゃそうよね。あんな可愛い娘となんてあなたに知り合う機会ないものね。」
しかし、なぜだか、あっさりバレた。
もしかして、美奈様って人の心を読み取る妖怪さとりか何かなのか?
オリジナルの妖怪さとりは心に思った事を次々と言い当て、考えるのをやめさせ最終的に相手の心を奪うらしく、 対処法は「相手にしない事」 なのだが。
仮にもお客様を相手に無視を決め込む訳にもいかないよな。
「‥‥美奈さまは分からないかもしれないけど、守秘義務ってのがあるんですよ。」
俺はワザと上から目線で諭すように話したが、美奈さまの反応は予想外だった。
「それって、規約12条3号のことでしょ?そんなドヤ顔で言わなくても知ってるわよ」
‥‥なにぃ?俺より詳しいだと。
というか、規約とか読んだことないけど、どこかに載ってたっけ?
「あっ、、あぁっ。とにかくあの娘を頼むな。」
「あっ、あなたなんかに言われなくてもなんとかするから」
そう言って不敵な笑みを浮かべた美奈さまはなんだかカッコよかった。




