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六十一話

今日は単独での復帰戦だ。

しかも今日は 楓様へのお届けだけになんだか上手くいきそうな気がしていた。



しかし、神様ってのは喜劇より悲劇の方が大好きなのだろう。だから、人生ってのは大抵は悲劇で構成されている。



「警備網が空側にも出来てやがる。これだと、せっかく莉奈に借りたハンググライダーもまったくの役立たずに成り下がるな。」


そう、秘密兵器のハンググライダー登場で、華麗に復帰戦を飾るつもりだったのに。



とはいえ、ここで諦めるわけにはいかない。


いつも通り、身体能力を駆使してこの要塞を突破するしかないな。



覚悟を決めて赤外線ゴーグルを装着すると、ここで奇跡が起こった。



まるでモーゼの十戒だ!



まるでハンターを鍛えるためにできたような大きな両開きの門がひとりでに開いたのだ。



しかし、よく聞いてみると微かにモーターの駆動音が聞こえてくる。つまりはこの奇跡は電気じかけのイミテーションなのだろう。


そして、少しずつ開く門の前には誰かが立っていた。ただ、まだ、それしか判別できない。



ということは門の向こう側からも、まだ、こちらの姿は判別できないんだろうな。



選択肢は二つある。


一つ目は姿を見られる前にこの場を去る。

二つ目は正面突破だ。


俺がどっちの選択肢をとるかなんてはっきりしているだろ?



俺は門の陰に隠れて、相手から姿を隠す。

そして、隙間に、例の透明の紙を投げ込んだ。


これで準備オッケーだ。


そして、ちょうど一人分の隙間が開いた瞬間、糸を思い切り引くと同時に門の中に滑り込む。

同時に相手の背後から『パンッ』という乾いた音が出た。


そして、相手が振り返っているうちに中に入って、相手の視界から避ける作戦だったのだが、相手を一目見て作戦の失敗を確信した。


だって相手が楓様だったからだ。

楓様に届け物しに来ているんだからな。



「楓様?なんで、、部屋から出ないんじゃ?」

そう、彼女の部屋には風呂もトイレもあるし、食事も部屋でとるようで、引き篭もり天国なのだ。


それに、彼女はどうやら学校に行っていないようなのだ。


まぁ、詳しい理由は聞く勇気がないが、きっと彼女のようなおっとりさんにはこの世はとかく生きづらいのかもしれない。



「出てしまいました。びっくりしたかしら?」


溢れるような笑顔で俺を見つめ続ける楓様は控えめに表現しても天使だった。



「あぁ、びっくりした。楓様は部屋から出ないものかと思っいましたので。」


「ふふふっ、、間違ってないですよ。最近、よく学校のお話ししてくれましたよね?」


マイペースな楓様はこのままダラダラと話し続けそうな雰囲気を漂わせている。そう言えば、まだ配達中だったな。


「そうですね。楓様は、最近、何か話しして下さいと仰いますので。つまらないかと思いますが、、、、。あっ、お話しはお部屋でデザートを食べながらでいかがですか?」


俺の提案に、楓様は無言で首肯するのだった。




楓様の部屋に入った。

パステルカラーの明るい部屋にいつもより笑顔50%増しの楓様が佇んでいる。


澄んだ水晶のような瞳に見つめられて妙に気恥ずかしい気分になるが、それがなんだか心地良かった。



‥‥しまったぁ。



いつもなら部屋に入るなり、準備に取り掛かるのだが、今の俺は控えめに言っても動揺してるようだ。



今は仕事だ。


そんな簡単なことも頭からすっぽりと抜けていた、プロ失格だな。慌てて配膳に取り掛かる。



「で、なんで門まで迎えに来てくれたんだ?」

そしてその間を埋めるように、不必要な質問をした‥つもりだった。



「だって、、最後ですから。」

しかし、予想外の返事で、結局俺は間を埋めるどころか、作業の手をとめてしまった。



「ん?もうご利用頂けないってことですか?もしかして、私が何か失礼を?」


動揺を抑えつつ、言葉を取り繕うので精一杯。



「違いますよ。橋本君のお陰です。橋本君の話を聞いて、私ももう一回学校に行ってみる気になったんだよ。」

「あぁ、あっ、、そっ、それは何よりだ」

俺の声は変な所で裏返った。


まさか、楓様の心の柔らかい所までズカズカ踏み込んでしまっていたのか?たかが一配達員のくせに?


やっ、、やばいっ、、動揺で容器を持つ手がガタガタと震えている。


そう、俺は友達が一人しかいないからか、こんな風に人との距離の取り方を間違えてしまうことが良くある。


普通は色々な友達との普段のやりとりで適度な距離感というのを本能的に覚えるのだろうな。


もし、楓様が学校に行って、虐められ、虐め抜かれて心がボロボロになっても、俺に責任は取れない。だって2人はただの配達員とお客様の関係でしかないのだから。


だからと言って、今から『学校なんて行くなよ』とは雰囲気的にもなかなか言えないだろう。


「そうですね。だから、もう宅配も使わない。自分で出来るから‥ううん、やらなくっちゃいけないんです。」


しかし、潤んだ瞳に滲む意思の光に、俺は先程まで考えていた事を恥じる事になった。



楓様は楓様でちゃ〜んと考えて、覚悟を持って学校に行こうとしているのだ。それこそ俺の想像もつかない程勇気が要ったことだろう。


だったら、その勇気こそが本当に穢してはならないものなのだ。


「おうっ、応援してるぞ‥じゃなかった、応援してますよ。はい、お待たせしました。マンゴーと三種のベリーのパンケーキです。」


これでこの話は終わりだ。

後はパンケーキでも頬張って鋭気を養って貰おう。



俺は最後に見る楓様の姿を網膜に焼き付けようと真剣に彼女の食べる姿を凝視するが、



「はむっ‥‥。うんっ、、あっ、あぁっ、んっっ、、」


パンケーキを食べる楓様は相変わらず、蠱惑的な様子だった。簡単に言い換えると、なんだかエロかった。



「ふぅっ。ご馳走さまでした。」


「本日はご注文を頂きありがとうございました。お手数ですが評価は五つ星【ファイブスター】でお願いします。またのご注文心よりお待ちしております。」


俺はいつもの決め台詞を口にするが、その言葉にいつもの力強さを乗せることは出来なかった。これでお別れかと思うと心にポッカリと穴があいた気分だ。



「はい。今までありがとうございました。

それで、これ、今までのお礼。」


そんな気分を知ってか知らずか、楓さまが俺に顔を寄せる。まさか、またほっぺにチューしてくれるのか?


そこで気づいてしまった。

楓さまは俺の正面に位置どっている。


そのままキスすればどの位置に来るかなんて、分かりきっていたけど信じられなかった。


そう、今度は口にキスされるのだ。

楓さまが開き、少しずつ近づいてく。


俺は思わず目をギュッと瞑る。

そして、唇‥‥近くに柔らかい感覚が。


って、、唇じゃないのか?

狙いを外したのか、、それとも、もともとそんな中途半端な位置を狙ったのかは楓さましかわからない。


しかし、てれるように真っ赤な顔ではにかむ楓さまを見ると、そんな些細なこと、どうでも良くなった。


「ありがとうございます。それではお元気で」

そして、そのままへやを後にするのだった、


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