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五十四話

見渡す限り、闇。いや、闇よりもなお深い漆黒が俺の視界をハイジャックする。


先程までは確かに公園だったのに。

今はまるで異空間にいるようだ。


「だーれだ?」

そして、聞き慣れた声が俺の鼓膜を優しく揺らした。なるほど、目隠しされているだけだったか?



「弥生、、、だろ?珍しいな、こんな事するの。」

弥生は年下だが、こういう子供っぽいことはしないし、ベタベタしてくることもないのだが、どうしたのだろう?



「お兄、そんなに暗い顔して公園にいたら、変質者に間違われるよ。私、嫌だからね、変質者を兄に持つヒロイン役とか。」


自分をヒロインとか言ってしまうのはどうかと思うが、どちらかというと暗い顔しているだけで『変質者』なんて発言を出させてしまう俺のほうに問題があるのだろうか?



「まぁ、大したことはないんだけど、俺ってば暇さえあれば、仕事してたり、仕事に必要な知識を身につけたりしてたからな。暇な時間が出来ても何していいかわからないんだ。」


本当は、どうしたら莉奈に追いつけるか、その事ばかり考えていた。それを誤魔化すかのようにそんな事を口にしたのだが。



「‥‥よくわからないんだけど。普通、ぼっちって1人遊びとか自己満足系の遊びは得意じゃないの?だって、常に1人なんだし。」


弥生は一瞬悲しそうに目を伏せたが、すぐに視線を上げて真顔になる。いや、真顔でそんなこと言われるとマジで凹むんだが、、、



「いや、待て、俺ってぼっちじゃないぞ、トモヤが居るし。」



「‥他に友達は?いたっけ?」

弥生は首を傾げる。


「り、莉奈‥って言ってもわからないか。あの後輩の娘とかは?友達と呼べないかな?ほら、お兄ちゃんってば仲よさそうじゃなかったかな?」


若干、必死さが滲み出ていたのかもしれない。



「‥‥私は、異性の友達っていう存在に関しては否定的なんだけど。」


なんだか、言い回しが、神とか幽霊に使いそうな表現だな。ということは、弥生には男友達は居ないってことか。


じゃあ、彼氏はいるのか?

なんて聞けるわけがないか‥‥




「いや、でも、弥生だってクラスで男の子と話したりするだろ?」


「異性と話したからって友達になるわけでもないし、、もちろん、簡単に好きになったりなんてしないからね。」


頰を膨らませた弥生は普段より幼く見えた、恋なんて心配はまだ早かったのかもしれない。


「そ、そうか。まぁ、俺が一番仲のいい女の子なんて、間違いなく弥生だしな。まぁ、そんなものかもしれないな。」



「う、嬉しいな。私もお兄が世界で一番仲がいい男の子だよ‥‥あっ、、、シスコンだなんてお兄は一生独身かもね。」


前半部分はボソボソ呟きすぎて何言ってんのかわかんなかったが後半のシスコンの話から察するに、前半もロクなこと言ってなかったのは容易に想像できた。



「まぁ、俺も結婚は難しいとは思ってるよ。だから、弥生が嫁に行ったら寂しくなるな。」


そう、凛花だって、正直行って何考えてるかわからないし、他の娘だって付き合ってもらえるかと言えば、そんな可能性はないのだろう。


「嫁になんて行かないよ」

弥生は上目遣いで探るようにこちらをみている。




「いや、さすがにその年で独身宣言されてもお兄ちゃんとしては心配なんだけど。」


「だって、、クラスの男子なんて子供っぽいし、私を一生大切にしてくれるのはおに‥‥なんでもないよ。」


鬼?

冷酷‥‥とかそんな意味の暗喩だろうか?


そんな冷たい奴が好きなのか?


なら、今度から俺もお兄ちゃんから、鬼いちゃんにクラスチェンジでもしようかしら。



なんて、冗談を言っている場合でもないか。



「まぁ、あんまり冷たい奴を彼氏に連れてきてもお兄ちゃんだって認めたくないんだけど」


出来れば冷奴系男子より、良い奴のほうがいいよな?弥生を大切にしてほしいし。



「えっ‥‥?連れてきたりなんてしないよ。」

しかし、弥生は彼氏ができても、そもそも会わせてくれることはないらしい。


あれ?

俺って彼氏に見せられないほどダサい兄なの?


「いやいや、兄ちゃん、ちょっとヘコむんだけど、もうちょっとオブラートに包んでくれないかな?」


「んっ、、あれ?言っておくけど、私ってそこそこモテるんだから。」

弥生はまた頰を膨らませる。


あれ?『彼氏を家に連れてくる』って話だよな?



モテる?知ってるよ。

なんでそんな話に?



‥もしかして。いや、、信じたくない。



自分の中の嫌な想像を振り払うかのように俺は首をブンブンっと振った。



そう、家に連れて来れないのは、複数の男と付き合っているからなのでは?


まさか、俺の妹が男を取っ替え引っ替えしてるビッチなわけがないのにそんな想像が頭から離れなかった。




「ねぇ、そんなにボォーっとして、何を考えてるの」

2人並んで並木道を歩いていると、弥生が口を開いた。


ちょうど弥生について考えていたので俺は視線を逸らす。



よくよく考えてみると、弥生がビッチだなんてありえないか。そもそも、弥生は土日すらほとんど出かけないもんな。


きっと同い年の女の子なら遊びに行きたいし、家事なんてしないのだろう。


それでも弥生は不安を漏らしたことはない。


まぁ、そういった意味では俺に対する毒舌なんて可愛いものだ。だってプライスレスだし。



「弥生、俺は弥生が大切だよ。」

なんだか急に弥生が愛おしく思えて思わず口に出してしまう。それが良くなかったのだろう。



「へっ‥?何言ってるの?もしかして、あの女にもそんなこと言ってないよね?」

弥生の表情が剣呑としたものに変わった。


なんだか背筋がゾクゾクとするんだけど、もしかして俺ってば風邪ひいちゃった?



「あの女?よくわからないけど、弥生以外にそんなこと言うわけないって。」


うん、俺くらいのスペックでもそれくらいチャラければ、人を選ばなければだけど、彼女くらい出来るだろう。もちろん、たぶんだけど。



「ほっぺにチューの女の子にもそんな事を言わない?」

楓様の事をまだ覚えていたのか?

あれはそういうのではない気がするんだが。



「いや、まだ覚えてるの?あれはたまたまだからな。それにあれはお客様だ。俺が勤務中にそんな不真面目な態度とる訳ないだろ?」


「じゃあ、口紅は?あれってものすごく高いんでしょ?ナンバリングされてたってことは限定ものだと思うし」


やっぱりそこを突くのか。

俺だってあれに関してはよくわからない、あれって実は俺にくれたものなんだよな?


まぁ、返してきたけど。


「言っておくが、あれは落としもので、俺は拾っただけで、さっき持主に返してきたよ。ちなみに、持主の名前すらしらないからな。」


うん、かなり綺麗で、品のある人なのだけど、どこの誰だか知らないんだからな。


しかし、何故だか何処かで見たことがある気がしたのだが、それが何処かは思い出せないのだった。


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