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五十二話


「前から電車で一緒になって。ずっと気になって見てました。俺と付き合ってくれませんか?」


身なりの整った、いかにも金持ちのボンボン大学生といった男の人が私を呼び止めていきなり告白する。


見た目は爽やかでいかにもモテそうね。


だけれども、見た目ならきっと私の方がランクが上なのだと思う。こんなこと思うあたり私の性格は悪い。


まぁ、そうは言ってもこの男の人もあまり性格は良くはないのでしょう、、だって、ここは私の学校の最寄り駅。


今日は休みだけど、部活や自主的に補習を受けている生徒は結構居る。



だから、こんな所で告白されたら悪目立ちし過ぎて後で変な噂になってしまうかもしれないのに、そんな気遣いすらできないんだから。


だいたい、こんな公衆の面前でふられるのはいやじゃないのかしら?もしかしたら、もう付き合う事は彼の脳内では決定事項だから別に恥ずかしくないとか?


いやだわ、ホラーより怖い。



それに私には気になる人が居る。


それは不思議な少女だった。


同じ学校なのに初めて見る顔だったのもあるのだけど、彼女はただ私と話しているだけでも、ビクビク、オドオドしていて妙に庇護欲をそそられる。それに、存在が儚げというか妙に印象的な女の子だった。


それに、顔つきも美人というよりは可愛らしくて、、、って、、あっ、、忘れてたわ。



目の前の男の人が、私が告白の返事を熟考していると勘違いして期待の眼差しを向ける。


最初から答えなんて決まっているのに。


「あっ、ごめんなさい。ずっと見られてたとかストーカー以外の何者でもないですよね?正直に申し上げて不快感で虫酸が走りますわ。お引き取りいただけませんでしょうか?」


私は殊更丁寧に笑顔でやんわりと、でも、きっぱりと言い放ちました。


「えっ?」

しかし、彼は日本語が分からなかったのか、ポカンと間抜け顔を晒していた。いくらイケメンでもこんな間抜け顔だとやっぱり不細工ね。



「ですから、私とあなたが付き合う未来なんて断じて許容出来ませんわ。」


「えっ、と?俺、結構モテるよ。」

少しドヤ顔で自らを指差す。


う〜ん‥別にモテるとは言っても、別に私にモテてる訳じゃないわよね?むしろフラれているし。


それで何故そんなにドヤ顔が出来るのかしら?


もしかして、頭の螺子が二、三本外れているのかもしれないわね。大変、救急車よばなくっちゃ。



「それが何か?それとも、端的に申し上げた方が宜しいでしょうか?」


「端的にって?」

「今後、私の人生にモブとしてでも登場しないように切に願いますわ。それではまた来世。」


私は軽くスカートをたくし上げて一礼した後、くるりと踵を返してその場を去ろうとしたのですが、上手く回りきれませんでした。


モブ以下の彼が私の肩を掴んでいた。

穢らわしい。


「お前、人が下手にでれば、いい気になりやがって、ちょっと見た目がいいからって」

「あら?奇遇ね?今、初めて気が合いました。私も貴方にそう思っていましたのよ。」


言いながら、私を掴んでいる手を取ってそのまま関節を決めようとしたその時、邪魔が入りました。


その邪魔者はモブの関節を軽やかに決めたと思ったらそのままモブに膝を突かせてしまう。



よし、良い子、良い子。そのままバキンッと関節を外しておやりなさい。



なんて思ったら、あっさりと決めを外されてモブは窮鼠猫を噛むこともなく、逃げ出していった。


「あっ、あら?あははっ、ごめんごめん、思ったより抵抗が強くてあっさり逃げられたな。君、大丈夫だったか?」


邪魔者は毒でも薬でもないような笑顔で自らの潔白を偽装しているけど、、、、今のはワザとでしょう。あそこまで完璧に関節を決めて、あんなに簡単に外せる訳がない。


「存じ上げておりますか?」


「はっ、いきなりなんだよ。」

「嘘つきは連続女児強制わいせつ罪の始まりなんですわよ。」


「うっ、嘘でもそういうのはやめてくれ、周りの俺を見る目が痛い。」

「えっ?やっぱり嘘なのですか?」


「嘘だよ。本当な訳ないだろうが。」

「やっぱり、わざと逃したのね」


絶対にそうだと思った。

ただの簡単な問題。


それなのに正解した私には思わず子供みたいに笑みが浮かんでしまう。



「はぁ?なにいってるんだ?」

しかし、男の子は眉を跳ねあげる。

私の予想外の返事だったので、思わず表情が固まった。


「えっ?抵抗が強くて逃げられたっていうのが嘘なんですよね?」

「ちゃうわ。誰が犯罪級のロリコンやねん 。」


あっ、そっちでしたか‥それにしても、


「東京訛りの関西弁‥‥」

違和感がすごいのだけど。



「なんや?文句でもあるんか?」

「それって関西人が一番怒るやつよね?」


関東の人が真似した関西弁って関西人にとっては馬鹿にされてるみたいで嫌われるって聞いたことがあるわ。



「ちゃうわ。関西人が一番怒るやつは『なんか面白い事言って。』っていきなり振られるやつやんかぁ。」


あっ、そう言えばきいたことあるわ。

でも、そうじゃないわね、ナンパには毅然とした態度で臨まないと勘違いされてしまう。


勝手に助けられたからって、私がお礼をする必要はない。返報性の原理なんて、私には通じないんですからね。



「‥あなたがあやしい人と言うことはわかりましたわ。それではご機嫌よう、また再来世で」


こんな下賤の者、相手にするだけ無駄ですわ。



「おいっ、再来世ってあの告白逆ギレ魔神よりも扱いがひどいじゃないか?」

「些細な事を気にするのね?Petite personne」


言いながら私は踵を返す。

しかし、すぐに回り込んで来た彼が差し出した物を見て、私は強制的に足を止めさせられた。


私はさぞかし間抜けな顔をしていたのだろう。

それくらい驚いてしまった。


だって、シャネルのルージュ アリュール カメリア リップスティックが目の前にある。

もちろん、それだけでなく、これは限定品。


そして、これは学校で会った可愛い彼女に落し物と称してプレゼントしたものなのだから。



「な、何故あなたがこれを持っているの?もしかして、女装の趣味でもあるのかしら?」


私がこんな皮肉を言ってしまったのも無理はない。そう、端的に言って私は動揺していた。


もしかして、この品性のかけらもない雄があの娘の思われ人なのかもしれないのだから。


「いや、、、そっ、、じょ、、友達なんですよ。そうそう、女友達なんですよ。あははっ」


「その女友達が、なぜ私が彼女にあげた口紅をもっているのかしら、早く説明しなさい。原稿用紙2枚半以上、3枚以内で。」


「いや、これは学校に落ちていて、おの娘が落としたと勘違いされて君に渡されたっていってたぜ。それで、落とし主の心当たりがあればと思って。」


「えっ?あっ、そういう事。私のだから、これは返して。」

「はぁ?自分のものをなんで落し物と称してあの娘に渡したんだ?意味わかんないだけど」


「私の言い方が悪かったのかもしれませんわ。ところで、あの娘の連絡先、教えて頂けませんか?」


「悪い、あいつ、携帯持ってないから、、あっ、、あいつのことは忘れた方がいいぜ。どうせ、もう会うこともないんだし」

「っつ、ミジンコのような方に言われる筋合いはございませんわ。」


私は苛立ちを吐き出すように言葉を口にする。

そう、この憎たらしい男と違い、私は彼女の名前すら知らないのだから。



「ん、じゃあ、いいや。目的は果たしたし、それじゃあな。うわっ、あっ、電話‥もしもし、、あぁっ、病院行ってくるよ。あぁ?彼女に会いに?‥あ〜っ、切るからな、じゃあな」



直接口紅を渡しに行けない理由。

同じ学校なのにもう会えない訳。

健康そうな目の前のこの男が病院に行く訳。



‥‥断片的な情報が頭の中でグルグルと過剰に回って熱を持つ。そして、痛みすら感じて頭を押さえる。


ダメ‥‥。

まとまりそうで、まとまりそうにないわ。


邪魔者の彼が去ってからも私は考えていた。

どれ位の時間を費やしても答えが天から降ってくることはなく、私は迷い子のように途方にくれてしまった。




「あれ?聖奈?どうしたの?」


いきなり、知り合いに声をかけられて我に返る。

勢いよく振り返るとクラスメイトの山下朱音が、馬の尻尾のようなうしろ髪を揺らした。


「朱音?部活?」



「そうだよ。バスケ部のエースは忙しいのだ。まぁ、聖奈に負けた私が言えたもんじゃないけどね」


朱音は明るい言葉にほんのり悔しさを滲ませる。

相変わらず、負けず嫌いなんだから。


「たかだか、1on1で負けたくらいで。それに、私はインドア派だから。」

「あははっ、倒れた時はびっくりしたよ。お見舞いにメロンとか初めて買ったし。」


申し訳なさそうに眉尻を下げた朱音。

しかし、私が気にしていたのはそこではなかった。


こんなタイミングで、不意に天啓がもたらされたのだから。



お見舞い。


そっか、、、彼女、、身体悪いのね。

持病か何か持っているのかもしれない。


初めて見た時の彼女の儚げな印象は間違いではなかったみたいね。



しかし、彼女の居所を指し示す蜘蛛の糸は先程手放してしまった。しょうがない、人を雇ってでもあの男の行方を捜してみせる。


そして、、、


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