四十七話
「ふぅ〜っ」
俺は思わず溜息をつく。
「あのっ、、橋本君、もしかして、もしかしてだけど最愛の人が休みで寂しいの、、かな?」
委員長は心配そうに視線を下げる。彼女の長い睫毛が強調されて、思わずドキッとした。
「トモヤのことは好きだけど、誤解を生みまくるような表現はヤメろ。」
ついでにクラス内での俺のヒエラルキーも急降下だ。いや、もともと最底辺だったな。
「しょうがないなぁ、、私たちが構ってあげるから元気出しなよ。いつも飄々としている君がそんなに不安そうな顔をすると、なんとかしてあげたくなるよね」
委員長は思わせぶりに、俺の顔を覗き込んで笑顔を浮かべる。
「な、なんでだよ。」
そ、それって俺ってば『隠れ構ってちゃん』ってこと?
「母性本能くすぐられる。みたいな。」
な、なにぃ?
俺ってばそんなレアスキルがあるのに、なぜモテないんだ。いや、凛花には一応モテてるのか?
「そう言えば、委員長って可愛いのに好きとか嫌いとかそういう恋バナは聞かないよな。実際、好きなった奴とか、気になる奴とかいないの?」
うん、見た目は正直に言うと結構可愛いし、結構いい奴だし、彼氏が居てもおかしくはないが、委員長は芸能人に対してすら『あの人カッコイイよねぇ。』なんて言葉を聞いたことがない。
「君はおバカさんのかな?そんなの居るわけないじゃない。もぅ、せっかく心配してあげてるのに。」
委員長は残念なものでも見るような表情を浮かべる。もちろん、見ているのは俺のことだ。
「ああ、悪かった。俺って人の善意に慣れてないからな。大抵の場合、人が俺に向ける感情は蔑視か無関心の2択だし。あれ?委員長?なんで泣いてるんだ?」
「あっ、御免なさい。橋本君の今まで歩んできた人生を想像したら、なんだか泣けてきて。」
委員長はパステルブルーのハンカチを取り出して眦を拭った。本当に泣いているのか?
「ふっ、女の子を泣かせやがって。俺ってば罪作りな男だな。」
思わず、俺は髪をかきあげた。
いや、もちろん俺ですら分かっている。
同情されているんだよな。情けなすぎて涙が出ちゃう。女の子じゃないけど。
委員長は本当に真面目でいい奴なんだ。
「しかし、その優しさが、かえって人を傷つける事もあるってこと覚えておいてくれよ。」
「えっ、、??よくわからないけどごめんね。」
委員長はビジネスマナーの本にでも出てきそうな綺麗なお辞儀で頭を下げる。
「いや、委員長の場合、悪気がないのはわかってるんだ。だから謝らなくていいって」
俺は両手をフリフリして委員長にそう言ったが、彼女の反応は予想外のものだった。
「私、橋本君のそういうところ、好きだな」
「はぁ?」
いきなり何言い出すんだ?
そんなこと言われたら、勘違いして委員長のこと好きになっちゃうだろ?
ぶっちゃけ、委員長はお堅いところがあるけど、性格はいいから、付き合ったら楽しいと思う。
「あっ、そっ、そういうことじゃないんだからね」
まるで、ツンデレみたいなセリフを吐くところまでテンプレだが‥‥
「まぁまぁ、ケンカはそこまでにしとくんだぜ。お前ら全然噛み合ってないし」
なんて言ってくれるトモヤは今日は居ない。
俺が言葉に詰まっていると、
「2人とも。仲良くしないと怒るよ」
無表情で俺たちを見つめるミサキ様は、控えめに見ても、見なくても怒りそうではない。というか、棒読みだしな。
「ミサキ、心配しなくても私は怒ってないから。」
「ん?そうなの?でも、怒ってるよね?こんなに顔が真っ赤だもん。」
美咲さまは委員長の頰に手を当てて首を傾げる。
なんとなくだが、美咲さまは相手の心の機微とか読み取るの苦手そうだと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
「えっ?あっ、な、何言ってるの?そんな訳ないんだからね。」
委員長は言いながらプイッと踵を返し、自分の席に戻ってしまった。
やれやれ、女の子は難しいな。
ちゃんと次の休み時間のときにでも謝っておくか。
俺は真面目にそう考えたが、その決意は結局無駄な事になるのだった。




