四十六話
私の名前は雛月 水面、17歳。
職業、女子高生兼使用人だったりする。
「はぁ〜、刹那お嬢様。なんで、そんな訳の分からない頼みをうけてくるんですか?」
「ごめんね。水面、ちょっとお願いしますね」
お嬢様はやけに綺麗な笑みを浮かべる。
少しは悪いと思っているのでしょうか?
だいたい、同学年と言っても面識のない女の子にストーカーが居るかなんてどうでもいいことだと思うんですけどね。それを自分でじゃなくて私に任せるあたりが『お金持ちの発想』なのでしょう。
まぁ、頼まれたからにはきちんと仕事をこなしてみるとしましょうか。
「クシュン」
それにしても、若い女の子が1人で尾行とか危なくないでしょうか?
厳密に言えばカムフラージュにロングコートチワワを連れてきたから1人と一匹ですけど、、、
まぁ、私、これでも合気道を嗜んでるし大丈夫かしら、、、キャッ‥急に変質者に肩を掴まれて私は短い悲鳴をあげた。
その手を掴んで自分の身体の内側に回す。
そのまま手首を極めたまま、顔面に当身を浴びせて体を崩した。
「グエッ、、」
つぶれたヒキガエルみたいな声に聞き覚えを感じて顔を見ると、見慣れた顔が瞳に映る。
「はぁ〜っ、トモヤ、何してんの?」
「いや、水面こそ俺に何してくれてんだよ?」
‥‥トモヤとはいわゆる幼馴染という間柄で、彼はかなりのイケメンでもある。ただ、アイドルオタクで、現実の女の子には全然興味が無いくせに、女の子に自然に優しく出来てしまう。
所謂、『天然系女たらし』‥‥無自覚だからタチが悪い。実際、トモヤと近しいってだけで、知らない女の子に絡まれたり、疎まれたりすることはよくあるんだよね。
やれ『あんたなんかトモヤ君に似合わない』だとか、『この娘の気持ち考えたことあるの?』
なんて見ず知らずの女の子の気持ちを考えさせられたことすらある。
だから、トモヤと距離を取ろうとしたら取ろうとしたらで、こうやって距離をつめてくるから困ったものだ。私だって女の子なんだぞ。そんなに構われると、、、私ってばチョロい?
それに私だって容姿はたぶん悪くないのに昔からモテたことはない。
まぁ、私も思春期に入るとそういったことが気になって、その原因を考えてみたことがある。
ところで、『蒸発現象』という言葉を聞いた事がありますか?
車に乗る人なら一度は聞いた事があるかもしれませんが、私は最近テレビで見て、なんとなく腑に落ちた。
簡単に説明すると夜間の運転中、自分の車のライトと対向車のライトが重なった部分に居る歩行者がまったく見えなくなる現象なんです。
それで、私自身の立ち位置を考えた時に、小さい頃から刹那とトモヤに挟まれていると気付いてしまった。
つまり、刹那とトモヤの輝きで、間に居る私の姿が見えなくなってしまっているのかもしれない。そうは言っても2人から離れる事も出来ず、まだ検証には至っていないけどね。
「いや、こんな日暮れに女の子1人とか危ないぜ。ほんと何やってんだよ?」
「うるさいなぁ。私だってしょうがなく「あぁっ、久しぶりの刹那様のワガママか。あの女を甘やかすのも大概にしろよ。」
トモヤが怒り半分くらいの口調でわたしを諭す。ただ、トモヤが怒っているのは私でなかった。
「トモヤって本当に刹那が嫌いだよね。」
「そりゃそうだろ?女の子一人でこんな事させるやつなんて。」
トモヤはまるで親の仇を見るような目つきだ。
「‥言っておくけど、刹那ってそんなヒドイ娘じゃないからね。」
「いや、現在進行形で酷い目に遭ってるのに、よくそんな事が言えるな。」
トモヤにしては珍しく呆れた表情を浮かべるけど、私には刹那の気持ちが分かっていた。
トモヤに私の情報を流したのは刹那さまだ。
つまりは彼女のいつものお節介なのだろう。
「うん、刹那さまはトモヤが思っているより、ずぅ〜っと優しい娘なんだから。でも、刹那さまは好きな人が居るから惚れたらダメだよ。」
「絶対、惚れたりなんてしないぜ。だから安心しろ。」
「絶対、なんて分からないじゃない。刹那は本当に素敵なんだから。」
「いや、俺、好きな娘居るし。」
「‥‥へっ?」
自分から、本当に信じられないくらいマヌケな声が漏れた。少し恥ずかしい。
「おかしい事じゃないだろ?俺だって好きな人がいる。もちろん、アイドルの事じゃないぜ」
「だって、あんなに告白されても誰とも付き合わないじゃない。あっ、もしかしてトモヤの好きな人って‥‥」
いつも一緒にいる。あの男の子の事だろうか?
すごく仲よさそうだもんね。でも‥‥
「もしかして、バレたか?それで、、どう思う?」
「私は賛成できないね。障害が多いと思うし」
別に外野がどうこう言うつもりはないけど、当事者の男の子がトモヤのことをそんな目で見ているようには見えないし。
「いや、当事者同士の気持ちがあればいいんじゃないか?」
その気持ちがないからもんだいなのだけど?
そんな残酷な事実をそのまま伝えて良いのかしら。
「その当事者の気持ちがないから言ってるのよ。私はトモヤのことは大事な大事な幼馴染だと思ってるよ。だから傷付いて欲しくないと思ってしまうわよ。」
「あのなぁ、俺だって傷つく覚悟で話をしているんだよ。俺の恋は実るのか?」
今まで見たことがないくらい真剣な表情が、トモヤの本気度を表している。
「わっ、分かった。数日待ってくれない?」
なんで私が好きな人の恋の世話を焼いてあげなくてはならないの?
「ところで今、何してるんだ?」
「ある女の子に付きまとっている男を突き止めないといけないのよ。」
そう、何やってるんだろ、私。
「なんだ、そんなことか?なら、いいぜ。俺が見張っておくから。」
「あの、、これって別にトモヤには関係ないから。お節介やかないでくれるかなぁ?」
相変わらず優しくて困ってしまう。
「お節介?お節介上等だぜ。」
「トモヤってば誰にでもそんな態度なら勘違いさせてしまうと思うけど」
本当に勘違いしてしまいそうになる。
「あっ、あのなぁ。大切な人たちにしかそんなことをする訳ないだろ。」
トモヤに顔を近づけられて、鼓動が跳ねる。
そして、その真剣な目に心を奪われた。
「そうっ、優しいのね。でも、『相手も同じ風に思ってくれる』なんて思わないことね。」
私は照れを誤魔化すかのように、憎まれ口を叩いてしまった。
「ん、あっ、水面ってば相変わらずだな。甘いかと思ったら、やけに現実的な刃を喉に突きつけてくるんだから。」
トモヤは少年のような無邪気な笑みを浮かべる。それは昔から見慣れた笑みだった。
「もうっ、なんで笑顔なのよ?ほんと変なやつだよね。」
そう、トモヤは昔から変わらない。私が好きとか嫌いとか意識し過ぎなんだろう。
「だろっ?」
「本当に変なヤツ。」
そんなことを口にしつつも、私の広角は自然に上がっていた。
‥トモヤ視点
「やっぱり、ストーカー騒ぎはウソだったな」
三日三晩張り込んでも、全くそれらしいヤツは居なかった。
まぁ、分かりきっていたことだ。
相沢はウソをついていた。
そうだ、水面とアイツに連絡しないと。
俺はスマホを手に取り歩きながらスマホを打つ。いわゆる歩きスマホだ。
そう、みんなに聞いてほしい事がある。
歩きスマホは危険だからやってはいけない。
お陰で俺は背後から何者かの攻撃をうけて、そのまま気を失うのだった。
‥シンヤ視点
チチチチチッ、という鳥の囀りで目を覚ました。いつもは目覚まし時計が鳴らないとおきられないのに何かいつもとは違った。
そう、いつのまにかLionにメッセージがはいっていたのだ。
『藤宮のストーカー騒ぎはフェイク。また、学校で詳しく話す』
ん?ともや?
なんだこのメッセージ?
‥朝にでも確認してみるか?
まぁ、急ぎではないだろう。
俺は特に気にすることもなく、凛花と学校に向かい、教室に入るとトモヤは居なかった。




